第六十六話 無自覚な偉業

文字数 1,693文字

 東門を封鎖した後、ルフトとシナヅは冒険者のグループと共に移動していた。
 彼らに拠点としている建物まで来てほしいと頼まれたのだ。
 生存に関わる情報共有がしたいらしい。

 ルフトとしてはすぐにでも次の門の封鎖へ向かいたかったのだが、逸る気持ちをぐっと堪える。
 善良な生存者とはなるべく協力しておきたかった。
 今や生き残りは僅かなのだ。

 たとえ四つの門を封鎖できても、都市内の生き残りが全滅しては元も子もない。
 純粋に見捨てられないとも思ったので、ルフトは冒険者たちと行動を共にするに至った。

(それにしても、居心地が悪いな……)

 張り詰めた空気の中、ルフトは冒険者たちの様子をそっと窺う。

 黙りこくった冒険者たちは、シナヅから距離を取って歩いていた。
 明らかに怯えている。

 ルフトは既に慣れつつあるものの、シナヅの外見は控えめに評してもアンデッドそのものであった。
 襤褸の軍服を着込んだ人骨が隣を往く状況は、魔物の討伐を仕事とする彼らにとっては心休まるものではないのかもしれない。

 加えてシナヅの圧倒的な力を知っているからというのもあるだろう。
 単独でゾンビ化した魔物を一方的に嬲るなど、手練れの冒険者でも厳しい。
 破壊された門の跡をあっという間に封鎖した光景も、かなりのインパクトを与えたはずだ。
 おかげでルフトに対する冒険者の畏怖は相対的に緩和されたが、場に漂う雰囲気は緊迫していた。

『…………』

 もっとも、当のシナヅはまったく気にしていないようで、何も言うことなく淡々と歩いている。
 そういった反応を受けることに慣れ切っているのか。
 骸骨の顔は如何なる感情も示さない。

(余計な混乱を招くかもしれないし、やっぱり拠点へ行かない方がいいか……?)

 見かねたルフトは、冒険者たちと別れる展開を視野に入れ始める。

 拠点というからには、それなりの人数が待機しているのだろう。
 非戦闘員もいるに違いない。
 そこにスケルトンに等しい容姿のシナヅが現れれば、果たしてどうなるか。
 少なからずパニックが起きるのは容易に想像可能である。

 ルフトが密かに悩んでいると、唐突に肩を叩かれた。
 顔を上げると、冒険者のリーダーであるドランが立っている。
 彼は先頭を進んでいたはずだが、いつの間に移動してきたのか。
 もしかすると、ルフトの不安を察してやって来たのかもしれない。

 ドランは飄々とした感じで尋ねる。

「今は魔術師が索敵してくれてるから安全だ。せっかくなんだから雑談でもしようぜ。ルフトは魔術学園の所属と言っていたが、なぜこんなところにいるんだ?」

「えぇと、話すと長くなるのですが……」

 頭の中で整理をしながら、ルフトはこれまでの経緯と現在の目的を話した。
 その過程で、シナヅが召喚魔術で呼び出した異世界人であることも説明する。

 ルフトの話す内容に、周りの冒険者たちも耳を立てて聞き入っていた。
 やはり興味はあるらしい。
 唯一、シナヅだけが変わらない態度で歩き続ける。

「……というわけで、僕らは東西南北の門の封鎖のために動いている最中です」

「そいつはすげぇな……なかなかできることじゃない。尊敬するよ」

 話を聞き終えたドランは称賛の言葉を口にする。
 心底からの感想であった。
 ルフトは責任感と使命感に駆られて若干分かっていない節があるが、まさしく命懸けの危険な行動なのだ。
 ほとんど自殺行為に近い。
 それをここまで継続して成功させてきたのは、傍から見れば奇跡としか言いようがない。

 周囲の冒険者のリアクションも、概ねドランと似たようなものだった。
 想像以上に過酷な出来事の連続にひどく驚嘆している。

 腕組みをして感心するドランであったが、彼はふと足を止めた。

「……っと、拠点に到着だ。もっと詳しく聞きたいが、続きは中で話そう。」

 ニッと笑ったドランは前方を指し示す。
 そこにあったのは、幾棟もの家屋を半ば呑む込んだ形でそびえるドーム状の巨大な岩山だった。
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