第十三話 制御室の守護者
文字数 1,722文字
その後、ルフトと稲荷は攻撃魔術の教室へ向かった。
室内は散らかり放題で、あちこちが人の手で荒らされている。
どうやら探索班が先に来ていたようだ。
もっとも、こういった武器は多く持ち帰っても損はあるまい。
ルフトと稲荷は、手分けして集め始めることにした。
「おっ、あったあった……」
作業の途中、ルフトはボロ布を縫い合わせたような鞄を見つけた。
収納型の魔道具である。
かなり古いようだが、魔術で内容量を大幅に拡張してある貴重品だ。
幸運にも隅の方に紛れ込んでいたらしい。
せっかくなのでルフトは収納の鞄を拝借して、各種アイテムや今までに手に入れた食料と医療品を放り込んだ。
この魔道具は重量も軽減されるので、用量いっぱいに入れても大した重荷にはならない。
随分と良い掘り出し物だ、とルフトは感謝する。
一通り物資を確保できたところで、ルフトと稲荷は出発した。
最後の目的地は制御室。
学園の防御機構を操作できる鍵の魔道具を入手するためだ。
彼らは慎重に学園内を移動する。
時々遭遇するゾンビは、稲荷が片手間に殺害していった。
しかし、それも数分に一度だ。
近辺のゾンビはかなり倒してしまったのか、あまり出会うことがなくなってきた。
稲荷は不満そうにぼやく。
「さっきのすばしっこいゾンビは出てこないのかなァ。ああいうタイプが雪崩れ込んできてくれたら嬉しいんだけど」
「冗談でも笑えませんよ……」
ルフトは苦々しい表情で身を震わせる。
食堂で目にした獣人族のゾンビ。
彼らは生来の身体能力が損なわれるどころか、より敏捷な印象さえあった。
通常のゾンビと比べてもかなり危険だ。
種族によってゾンビ化した際の特徴に違いがあるのかもしれない、とルフトは推測を立てる。
とにかく、なるべくゾンビの群れを鉢合わせたくないのは確かだった。
(しかし、本当に恐ろしいのは……)
ルフトはちらりと隣の稲荷を見やる。
稲荷は獲物を求めて視線を巡らせていた。
もしゾンビがいようものなら、張り切って斬りかかるだろう。
この状況を作ったゾンビは死と絶望の象徴ではあるが、ルフトとしてはそれ以上に稲荷の存在が気にかかる。
ある意味、ゾンビよりもよほど得体が知れない。
魔物じみた怪力。
手のひらの異形の口。
致命傷を受けても平然としていられる生命力。
捕食行為で発揮される再生力。
そして、絶望を美酒のように味わい愉しむ狂気。
例を挙げればキリがない。
稲荷の力を知れば知るほど、彼は召喚してはいけない存在だったのではないかとルフトは思い悩む。
最初に召喚したA子も同様だ。
彼女もたった一人でゾンビを蹴散らす実力と、稲荷と同等の殺人衝動を秘めていた。
とは言え、一人では何もできないルフトは召喚魔術に頼るしかない。
もう決めた道なのだ。
悔いは捨てて進むしかあるまい。
(世界を救う大魔術師になるんだ。これくらいで弱音なんて吐けないさ……)
数体のゾンビを解体する稲荷を眺めながら、ルフトは苦笑気味に頷く。
やがて二人は制御室に到着した。
ルフトは重厚な扉に触れる。
施錠はされていない。
そこでルフトは、微かな異臭に気付く。
何かが燃えたような臭いだ。
どことなく不快な感じがする。
この先で火事でも起きそうなのだろうか。
それならば一大事だ。
早く消火せねばならない。
ルフトは、警戒しながらも急いで扉を開く。
室内を目にした彼は、しかし驚愕と共に僅かに後ずさった。
「こ、これは……!?」
周囲に散乱するのは、焦げた肉塊。
どうやら人間の死体らしい。
そこには見覚えのあるる者も混ざっていた。
食堂で別れた探索班の生き残りだ。
彼らは残らず焼き殺されている。
「んー? また侵入者かね? 随分と舐められたものだ」
呆然とするルフトに、部屋の奥から苛立った男の声がかかる。
ルフトはハッとして視線を向ける。
そこには、片目から炎をくゆらせるローブ姿の男が立っていた。
室内は散らかり放題で、あちこちが人の手で荒らされている。
どうやら探索班が先に来ていたようだ。
もっとも、こういった武器は多く持ち帰っても損はあるまい。
ルフトと稲荷は、手分けして集め始めることにした。
「おっ、あったあった……」
作業の途中、ルフトはボロ布を縫い合わせたような鞄を見つけた。
収納型の魔道具である。
かなり古いようだが、魔術で内容量を大幅に拡張してある貴重品だ。
幸運にも隅の方に紛れ込んでいたらしい。
せっかくなのでルフトは収納の鞄を拝借して、各種アイテムや今までに手に入れた食料と医療品を放り込んだ。
この魔道具は重量も軽減されるので、用量いっぱいに入れても大した重荷にはならない。
随分と良い掘り出し物だ、とルフトは感謝する。
一通り物資を確保できたところで、ルフトと稲荷は出発した。
最後の目的地は制御室。
学園の防御機構を操作できる鍵の魔道具を入手するためだ。
彼らは慎重に学園内を移動する。
時々遭遇するゾンビは、稲荷が片手間に殺害していった。
しかし、それも数分に一度だ。
近辺のゾンビはかなり倒してしまったのか、あまり出会うことがなくなってきた。
稲荷は不満そうにぼやく。
「さっきのすばしっこいゾンビは出てこないのかなァ。ああいうタイプが雪崩れ込んできてくれたら嬉しいんだけど」
「冗談でも笑えませんよ……」
ルフトは苦々しい表情で身を震わせる。
食堂で目にした獣人族のゾンビ。
彼らは生来の身体能力が損なわれるどころか、より敏捷な印象さえあった。
通常のゾンビと比べてもかなり危険だ。
種族によってゾンビ化した際の特徴に違いがあるのかもしれない、とルフトは推測を立てる。
とにかく、なるべくゾンビの群れを鉢合わせたくないのは確かだった。
(しかし、本当に恐ろしいのは……)
ルフトはちらりと隣の稲荷を見やる。
稲荷は獲物を求めて視線を巡らせていた。
もしゾンビがいようものなら、張り切って斬りかかるだろう。
この状況を作ったゾンビは死と絶望の象徴ではあるが、ルフトとしてはそれ以上に稲荷の存在が気にかかる。
ある意味、ゾンビよりもよほど得体が知れない。
魔物じみた怪力。
手のひらの異形の口。
致命傷を受けても平然としていられる生命力。
捕食行為で発揮される再生力。
そして、絶望を美酒のように味わい愉しむ狂気。
例を挙げればキリがない。
稲荷の力を知れば知るほど、彼は召喚してはいけない存在だったのではないかとルフトは思い悩む。
最初に召喚したA子も同様だ。
彼女もたった一人でゾンビを蹴散らす実力と、稲荷と同等の殺人衝動を秘めていた。
とは言え、一人では何もできないルフトは召喚魔術に頼るしかない。
もう決めた道なのだ。
悔いは捨てて進むしかあるまい。
(世界を救う大魔術師になるんだ。これくらいで弱音なんて吐けないさ……)
数体のゾンビを解体する稲荷を眺めながら、ルフトは苦笑気味に頷く。
やがて二人は制御室に到着した。
ルフトは重厚な扉に触れる。
施錠はされていない。
そこでルフトは、微かな異臭に気付く。
何かが燃えたような臭いだ。
どことなく不快な感じがする。
この先で火事でも起きそうなのだろうか。
それならば一大事だ。
早く消火せねばならない。
ルフトは、警戒しながらも急いで扉を開く。
室内を目にした彼は、しかし驚愕と共に僅かに後ずさった。
「こ、これは……!?」
周囲に散乱するのは、焦げた肉塊。
どうやら人間の死体らしい。
そこには見覚えのあるる者も混ざっていた。
食堂で別れた探索班の生き残りだ。
彼らは残らず焼き殺されている。
「んー? また侵入者かね? 随分と舐められたものだ」
呆然とするルフトに、部屋の奥から苛立った男の声がかかる。
ルフトはハッとして視線を向ける。
そこには、片目から炎をくゆらせるローブ姿の男が立っていた。