第四十九話 魔法強化と成長の証

文字数 1,551文字

 ルナリカは拳と片膝を突いて豪快に着地する。
 地面に生じたクレーター。
 彼女はそこから機関銃を出して回転しながら連射し始める。

「これが魔法少女の神髄さーってね」

 覇気のないつぶやき。

 近くにいたトロールゾンビが蜂の巣になる。
 突進を試みたリザードマンの顔面に大穴が開いた。
 豚面のオークが赤熱したナイフで焼き切られる。

 死を振り撒く魔法少女を前に、ゾンビ化した魔物たちは為す術もなく散っていくのみであった。
 倒れて光となりゆく死体を足場にして、ルナリカは跳び上がってさらに撃ちまくる。

(僕も負けていられないな……)

 少し遅れて着地したルフトは長剣を握って気を引き締める。

 ここは都市内で最も危険なエリア。
 辺りには確認できるだけでも結構な数のゾンビ化した魔物がいた。
 ルナリカによる魔法の強化があるとは言え、決して油断はできない。

「――来た」

 ルフトは右方から異音に反応する。

 間を置かず、物陰から人間サイズの蟷螂が現れた。
 沼地に生息する毒性の魔物だ。
 はるばる都市まで侵入してきたらしい。

 例によって不自然な痙攣と体表の斑点が見られる。
 ゾンビ化はそれなりに侵攻しているようだ。

 ルフトは蟷螂との距離を測りながら長剣を構える。

(両手の猛毒の鎌にだけ注意するんだ。切り付けられる前に倒す……!)

 かつて学んだ知識を思い出しながら、ルフトは真正面から斬りかかる。

 同時に振り下ろされる鎌。
 ルフトはそれを横薙ぎに一閃した長剣で弾いた。

 甲高い金属音が鳴って火花が散る。
 鎌の部分は相当に硬いらしく、長剣でも切断するのは骨が折れそうだった。

(それなら別の個所を狙うまでだ!)

 ルフトは地を這うような姿勢で踏み込む。
 長剣が翻って蟷螂の足を斬り落とした。

「グルジュャアアッ」

 蟷螂は呻きながら転倒する。
 必死に鎌を振るうも、飛び退いたルフトには当たらなかった。
 ルフトは鎌に注意しながら堅実に蟷螂の首を刎ねる。
 死体は光の粒子となって消えた。

「ようやく一体か……次はどこに――」

 途中で言葉を切るルフト。
 頭上から不自然に影が差している。

 ルフトが見上げるとそこには、大柄な鬼――ホブゴブリンゾンビがおり、掴みかかってくるところだった。

「不意打ちか……!」

 ルフトは即座に長剣を振ろうとする。

 しかし、攻撃する前にホブゴブリンの頭部が爆発した。
 その肉体は光の粒子となって霧散する。

 機関銃を持ったルナリカがそばに降りてきた。

「ごめんね、横取りしちゃった?」

「いえ、助かりましたよ」

 ルフトは背後から迫るオーガゾンビの棍棒を躱し、長剣で喉頭を貫く。
 さらに長剣を回転させて首を斬り飛ばした。
 いくら生命力の高いオーガでも、頭部を失えば生きていられるはずもなく、赤い噴水を撒き散らして崩れ落ちる。
 ルフトは刃に付着した鮮血を振り払った。

 意外そうな表情をしたルナリカは、ひゅうと口笛を吹く。

「へぇ、意外とやるじゃん。まだまだお行儀が良い感じだけどね。誰かに習った?」

「習ったわけではありませんが”参考になる方々”を間近で見てきたので……」

 ルフトは苦笑する。

 脳裏に浮かぶのは今までに召喚してきた異世界人たちの姿。
 短い間だが、彼らの壮絶な殺戮は強く心に残っている。
 この絶望だらけの世界で生き抜くために、ルフトはその戦いぶりをしかと観察してきた。
 素の身体能力では再現不可能だが、吐き気を我慢して学んだ甲斐はあったらしい。

(あまり褒められた人たちじゃないけどね……)

 自らの成長を素直に喜べないルフトであった。
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