第三十三話 異世界人の共通点

文字数 1,219文字

 博士の独り言に区切りがついたところで、ルフトは別の話を切り出した。

「これからどうしますか? 僕としてはなるべく早く町を脱出したいのですが……」

 この街は長居する場所でもない。
 可能なら速やかに離れた方がいい。

 町の門付近にはゾンビ化した魔物がいるそうだが、博士がいれば問題ないだろう。
 発言からして、彼はおそらく研究者か何かと思われる。
 しかしゾンビに少しも動揺しないところから、何らかの戦う術を持っているのでは、とルフトを睨んでいた。
 積極的に殺しには行かないだけで、いざという時は凄まじい力を発揮するはずだ。

 加えてルフト自身の力も博士の薬剤で強化されている。
 今の状態なら獣人族が相手でも十分に立ち回れると、ルフトは確信していた。
 致命傷すら完治する再生能力もあるので、ゾンビ化した強力な魔物とも戦えるはずだ。

 意見を求められた博士は、じっとルフトを見ながら尋ね返す。

「私が召喚される前はどういった方針だったのかね?」

「そ、それはですね……」

 ルフトはA子と共に暴徒の殲滅途中だったことを説明する。

 本音を言えば嘘をついて誤魔化したかった。
 正直に話せば碌なことにならないと予感していたからだ。
 ただ、嘘を看破されたときの方が恐ろしかった。
 どんな目に遭うか分かったものではない。

 案の定、暴徒殲滅の話を聞いた博士は、たいそう嬉しそうに顎を撫でる。

「私の前に召喚された者は、なかなかにセンスがいい。暴徒殲滅……いいじゃないか、続行しよう。色々と試したいことがあるんだ。使い捨てても惜しくない実験台が欲しい」

「で、でも危険かもしれませんよ……? 相手は大勢いるでしょうし、こちらは僕とあなたしか」

「では、君が実験台になってくれるのか。言っておくが、先程のミュータント・リキッドの初期症状とは比べ物にならない苦痛が待っているぞ。ただの細胞の強制変異では終わらない。命がいくつあっても足りないだろう。それでも構わないのなら、私は君に従うよ」

 ルフトの反論を遮るように、博士はつらつらと述べる。
 有無を言わさない雰囲気だ。
 決してただの脅しなどではない。

 言うことを聞かなければ、お前を実験台にして苦しめる。
 博士はそう告げているのだ。

「…………」

 ルフトは数分前の注射を思い出す。
 地獄のような苦しみだった。
 あれを越えるものを耐えるなど、できるはずがない。
 たとえ死ななかったとしても、精神が先にやられてしまう。

 迷いも一瞬で、ルフトは静かに答える。

「……分かりました。暴徒殲滅に、行きましょう」

「よしよし、賢明な判断だ。君を異世界の助手に任命する。私に従う限り、君の生存を約束しよう。これからよろしく頼むよ」

「よろしく、お願いします……」

 こうして暴徒殲滅の計画は、メンバーが変わっても同様に続行されるのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み