第八十三話 対抗の意志
文字数 1,443文字
「倒しに行く、だと? 一体どういうことだ」
ルフトの言葉を受けて、ドランは険しい表情で問い詰める。
いつの間にか視線も鋭くなっていた。
ただ、怒っているわけではない。
先ほどあれだけ凄惨な出来事を起こした人物のもとへ行くと言ったのだ。
それは無謀極まりない提案だろう。
致命傷を負ったルフトの身を案じているのである。
真剣な気遣いであるが故の雰囲気だった。
半ば睨まれるような形ながらも、ルフトはしっかりと視線を返して答える。
「アルディさんは不利を悟って撤退しましたが、おそらく再度こちらを襲うつもりです。岩山の防御も簡単に突破されると判明した以上、ここに長居するのは得策ではないでしょう」
ゾンビの大群とアルディの攻撃により、拠点の生存者は半分以下になってしまった。
再びゾンビの大群がやって来たら、今度こそ生存者は全滅するだろう。
可能ならすぐにでも移動した方がいい。
「繰り返しになりますが、魔術学園の方が堅牢な守りが用意されています。ここよりは安全に過ごせるはずです」
「そこまでは分かった。だが、なぜルフトだけがアルディの討伐に行くんだ。一緒に魔術学園へ避難すればいいじゃないか」
「状況が変わってきました。アルディさんを野放しにはできません。いずれ魔術学園にも襲撃を仕掛けてくるでしょう。いくら防御機構が厳重でも、完璧に防げるとは限りませんから」
相手は白銀等級の冒険者なのだ。
強力な魔剣を持っている。
下手な魔物よりずっと恐ろしい存在と言えた。
だからこそ倒さなくてはいけない。
横で黙っていたカレンが口を開く。
「勝機はあるの? 上手く撃退できたみたいだけど、彼は相当強いわよ」
ルフトはしっかりと頷く。
「はい、そこに関しては大丈夫です。先ほどは後れを取りましたが、対策は用意してあるので」
アルディと対峙した際、ルフトは素の状態だった。
敵わずに追い込まれたのも当然である。
しかし、彼にはミュータント・リキッドがあった。
強化された身体能力ならば、アルディとも渡り合えるはずなのだ。
加えて最終兵器として、博士も同行する。
これだけで不安要素など消し飛ぶようなものであった。
博士はドランとカレンに悠然と言い放つ。
「あのウイルス適合者は非常に稀少なサンプルだ。確実に捕縛するつもりだから安心したまえ。誰に何と言われようと絶対に逃がさない」
「そ、そうか……」
ドランはややぎこちない感じで笑う。
それでも幾分か慣れたと調子の会話だ。
ルフトの気絶中に、博士は他の生存者とそれなりのやり取りをしていたのかもしれない。
本来は仲介役となるべきルフトが行動不能だったのだから、博士自身が諸々の事情説明をしたのだろう。
ルフトが召喚魔術を扱えることは周知済みだったので、ある程度は理解されやすかったはずだ。
そこまで言われれば強くも反論できず、ドランはルフトの肩に手を置く。
「……確かに、アルディの野郎を放っておくわけにはいかないもんな。分かった、お前たちに討伐を任せよう。ルフト、頼んだぞ。その代わり、他の生存者の安全は俺たちが必ず守る」
カレンも柔和な笑みを以てルフトを見つめた。
「陰ながら応援してるわ。生きて帰ってきてね」
「ドランさん、カレンさん、ありがとうございます!」
こうしてルフトは、アルディ討伐に向かうことになったのであった。
ルフトの言葉を受けて、ドランは険しい表情で問い詰める。
いつの間にか視線も鋭くなっていた。
ただ、怒っているわけではない。
先ほどあれだけ凄惨な出来事を起こした人物のもとへ行くと言ったのだ。
それは無謀極まりない提案だろう。
致命傷を負ったルフトの身を案じているのである。
真剣な気遣いであるが故の雰囲気だった。
半ば睨まれるような形ながらも、ルフトはしっかりと視線を返して答える。
「アルディさんは不利を悟って撤退しましたが、おそらく再度こちらを襲うつもりです。岩山の防御も簡単に突破されると判明した以上、ここに長居するのは得策ではないでしょう」
ゾンビの大群とアルディの攻撃により、拠点の生存者は半分以下になってしまった。
再びゾンビの大群がやって来たら、今度こそ生存者は全滅するだろう。
可能ならすぐにでも移動した方がいい。
「繰り返しになりますが、魔術学園の方が堅牢な守りが用意されています。ここよりは安全に過ごせるはずです」
「そこまでは分かった。だが、なぜルフトだけがアルディの討伐に行くんだ。一緒に魔術学園へ避難すればいいじゃないか」
「状況が変わってきました。アルディさんを野放しにはできません。いずれ魔術学園にも襲撃を仕掛けてくるでしょう。いくら防御機構が厳重でも、完璧に防げるとは限りませんから」
相手は白銀等級の冒険者なのだ。
強力な魔剣を持っている。
下手な魔物よりずっと恐ろしい存在と言えた。
だからこそ倒さなくてはいけない。
横で黙っていたカレンが口を開く。
「勝機はあるの? 上手く撃退できたみたいだけど、彼は相当強いわよ」
ルフトはしっかりと頷く。
「はい、そこに関しては大丈夫です。先ほどは後れを取りましたが、対策は用意してあるので」
アルディと対峙した際、ルフトは素の状態だった。
敵わずに追い込まれたのも当然である。
しかし、彼にはミュータント・リキッドがあった。
強化された身体能力ならば、アルディとも渡り合えるはずなのだ。
加えて最終兵器として、博士も同行する。
これだけで不安要素など消し飛ぶようなものであった。
博士はドランとカレンに悠然と言い放つ。
「あのウイルス適合者は非常に稀少なサンプルだ。確実に捕縛するつもりだから安心したまえ。誰に何と言われようと絶対に逃がさない」
「そ、そうか……」
ドランはややぎこちない感じで笑う。
それでも幾分か慣れたと調子の会話だ。
ルフトの気絶中に、博士は他の生存者とそれなりのやり取りをしていたのかもしれない。
本来は仲介役となるべきルフトが行動不能だったのだから、博士自身が諸々の事情説明をしたのだろう。
ルフトが召喚魔術を扱えることは周知済みだったので、ある程度は理解されやすかったはずだ。
そこまで言われれば強くも反論できず、ドランはルフトの肩に手を置く。
「……確かに、アルディの野郎を放っておくわけにはいかないもんな。分かった、お前たちに討伐を任せよう。ルフト、頼んだぞ。その代わり、他の生存者の安全は俺たちが必ず守る」
カレンも柔和な笑みを以てルフトを見つめた。
「陰ながら応援してるわ。生きて帰ってきてね」
「ドランさん、カレンさん、ありがとうございます!」
こうしてルフトは、アルディ討伐に向かうことになったのであった。