第七話 彼の決意
文字数 1,461文字
自身の負の適性を知ったルフトは、暫し考え込んだ。
思案に耽る表情は、その胸に生じているであろう感情を映さない。
学園長は何も言わず、彼の反応を待つ。
口を挟める様相ではなかった。
そして数分の沈黙の末、ルフトは宣言する。
「学園長。僕は決めました。この才能で世界を救います」
それは唐突な宣言であった。
しかし、冗談でないことは表情が物語っている。
学園長、少なくない驚きを抱きながら尋ねた。
「ほう……どういうことかな」
「確かに僕は召喚魔術の負の適性を持っています。でも、この力を上手く扱えれば多くの人々を助けられると思うのです。今は学園内で生き残るだけで精一杯ですが、すぐに召喚魔術を使いこなして外へ行き、この事態の解決方法を見つけるつもりです」
学園を脱出して感染の波を止める方法を発見する。
それは、ルフトがA子を召喚できた時点で薄々計画していたことだった。
きっと並大抵の努力では成功しないことだ。
しかし誰かが挑まねば、いずれ人類は滅亡に瀕する。
学園の惨状を目にしたルフトは、迫る最悪の未来を予見した。
決して考え過ぎなどではない。
この地獄は、世界各地で起きつつあるのだから。
やがて感染の波は人々を残らず呑み込んでしまうだろう。
彼はそれを何としてでも阻止したかった。
歪んだ形とは言え、ルフトが強力な異世界人を召喚できるのは事実。
彼はそれを存分に活かしたいと考えた。
このゾンビパンデミックを食い止めるためには、それこそ半端な手段では叶わない。
毒を以て毒を制する。
大人数での行動はゾンビを誘い出しかねないが、召喚魔術があれば単独でも戦力的な不安は薄れる。
ルフトが選んだのは、負の適性を逆手に取った奇策であった。
彼の決意を聞いた学園長は、固い表情で問う。
「なるほど。君の考えは分かった。しかし、その道は想像を絶するほどに険しい。歩む半ばで人知れず最期を迎える可能性も高い。それでもやり遂げる覚悟はあるのかね?」
「はい。僕にしかできない召喚魔術ですから。覚悟はあります」
ルフトは躊躇いもなく断言する。
意志は変わらないようだ。
それを目にした学園長は、息を吐いて表情を崩した。
彼は温かい眼差しでルフトを見る。
「生憎、今の学園では君の助けにはなれない……まずは医学知識や死霊術に詳しい者を探しなさい。そういった人間ならば、此度のゾンビ発生の原因や解決策の提示が可能かもしれない」
「学園長……ありがとうございます!」
ルフトは深く頭を下げる。
学園がこのような状況なのに突拍子もない決意をしたのだから、軽蔑されるかもしれないと不安だったのだ。
何を言っているのだと叱られても不思議ではなかった。
それにも関わらず、学園長はルフトの考えを聞き受けて真剣なアドバイスをしてくれた。
感謝する他あるまい。
その後、いくつか話をしたところでルフトは学園長から休むように言われた。
負の適性の有無を調べた時点で、呼び出しの目的は済んでいたそうだ。
寝所に戻ったルフトは、羊皮紙に魔法陣を描き起こした。
それは霊獣召喚の魔法陣。
だが、彼にとっては殺戮を好む異常者を呼び出す魔法陣である。
(なんというか皮肉な世界だ……)
ゾンビパンデミックという未曽有の危機に、異質な才覚を知るとは何たる偶然か。
己の数奇な運命に苦笑しつつ、ルフトは再び夢の世界に落ちていった。
思案に耽る表情は、その胸に生じているであろう感情を映さない。
学園長は何も言わず、彼の反応を待つ。
口を挟める様相ではなかった。
そして数分の沈黙の末、ルフトは宣言する。
「学園長。僕は決めました。この才能で世界を救います」
それは唐突な宣言であった。
しかし、冗談でないことは表情が物語っている。
学園長、少なくない驚きを抱きながら尋ねた。
「ほう……どういうことかな」
「確かに僕は召喚魔術の負の適性を持っています。でも、この力を上手く扱えれば多くの人々を助けられると思うのです。今は学園内で生き残るだけで精一杯ですが、すぐに召喚魔術を使いこなして外へ行き、この事態の解決方法を見つけるつもりです」
学園を脱出して感染の波を止める方法を発見する。
それは、ルフトがA子を召喚できた時点で薄々計画していたことだった。
きっと並大抵の努力では成功しないことだ。
しかし誰かが挑まねば、いずれ人類は滅亡に瀕する。
学園の惨状を目にしたルフトは、迫る最悪の未来を予見した。
決して考え過ぎなどではない。
この地獄は、世界各地で起きつつあるのだから。
やがて感染の波は人々を残らず呑み込んでしまうだろう。
彼はそれを何としてでも阻止したかった。
歪んだ形とは言え、ルフトが強力な異世界人を召喚できるのは事実。
彼はそれを存分に活かしたいと考えた。
このゾンビパンデミックを食い止めるためには、それこそ半端な手段では叶わない。
毒を以て毒を制する。
大人数での行動はゾンビを誘い出しかねないが、召喚魔術があれば単独でも戦力的な不安は薄れる。
ルフトが選んだのは、負の適性を逆手に取った奇策であった。
彼の決意を聞いた学園長は、固い表情で問う。
「なるほど。君の考えは分かった。しかし、その道は想像を絶するほどに険しい。歩む半ばで人知れず最期を迎える可能性も高い。それでもやり遂げる覚悟はあるのかね?」
「はい。僕にしかできない召喚魔術ですから。覚悟はあります」
ルフトは躊躇いもなく断言する。
意志は変わらないようだ。
それを目にした学園長は、息を吐いて表情を崩した。
彼は温かい眼差しでルフトを見る。
「生憎、今の学園では君の助けにはなれない……まずは医学知識や死霊術に詳しい者を探しなさい。そういった人間ならば、此度のゾンビ発生の原因や解決策の提示が可能かもしれない」
「学園長……ありがとうございます!」
ルフトは深く頭を下げる。
学園がこのような状況なのに突拍子もない決意をしたのだから、軽蔑されるかもしれないと不安だったのだ。
何を言っているのだと叱られても不思議ではなかった。
それにも関わらず、学園長はルフトの考えを聞き受けて真剣なアドバイスをしてくれた。
感謝する他あるまい。
その後、いくつか話をしたところでルフトは学園長から休むように言われた。
負の適性の有無を調べた時点で、呼び出しの目的は済んでいたそうだ。
寝所に戻ったルフトは、羊皮紙に魔法陣を描き起こした。
それは霊獣召喚の魔法陣。
だが、彼にとっては殺戮を好む異常者を呼び出す魔法陣である。
(なんというか皮肉な世界だ……)
ゾンビパンデミックという未曽有の危機に、異質な才覚を知るとは何たる偶然か。
己の数奇な運命に苦笑しつつ、ルフトは再び夢の世界に落ちていった。