第六十五話 封鎖完了

文字数 1,208文字

「シナヅさん、さっそくですが門の封鎖をお願いできますか?」

『請け負った』

 瀕死の魔物に痛め付けていたシナヅは、倒壊した家屋群を体内に吸収し始める。
 それらを圧縮成形して門跡を塞ぐつもりなのだろう。
 シナヅは手早く動いてくれているので長くはかかるまい。

 新たな魔物が出てこないか周囲を見張るルフトだったが、ふと視線を感じてそちらを向く。
 そこには所在なさげに立つ冒険者のグループがいた。

 彼らの視線には困惑と畏怖の感情が含まれている。
 人外のシナヅへのものかと思われたが、冒険者たちはしっかりとルフトを見ていた。

(怯えられている、のか?)

 ルフトは少なからず驚く。
 まさか自分がそのように思われるとは予想外だったのだ。

 どう反応したものかとルフトが考えていると、冒険者の中から一人の男が進み出てきた。
 男は赤毛の短髪を掻き上げながら言う。

「先ほどは助かった。俺の名はドラン。金等級の冒険者で、このグループのトップを任されている」

 冒険者の男――ドランは親しみのある笑顔で手を差し出してきた。
 ルフトは握手に応えながら名乗り返す。

「僕は魔術学園のルフトです。困った時はお互い様ですから大丈夫ですよ」

「そう言ってもらえると有難いな。こんな出会い方なのが残念だがよろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 挨拶を交わす傍ら、ルフトはドランの言葉を反芻する。

(金等級の冒険者か……)

 ルフト自身あまり詳しくないが、冒険者のランク制度くらいは知っていた。
 冒険者は実力やギルドへの貢献度に応じて、五つの等級に分類される。
 上から白金等級、白銀等級、金等級、銀等級、銅等級の順だ。

 一般に常人が努力の果てに辿り着けるか否かというラインが金等級と言われている。
 まだ三十代前半に見えるドランが既に金等級となると、相当な実力者であるのは想像に難くない。
 故にグループのリーダーも任されているのだろう。

 自己紹介を行うルフトたちの傍らでは、シナヅが門の残骸の前に立っていた。
 封鎖の準備が整ったららしい。

 残骸まで綺麗に吸収し終えたシナヅは屈みこみ、両の手のひらを地面に触れさせた。
 すると、膨大な量の灰色の液体が流れ出て堆積し、開放された箇所を瞬く間に埋めていく。
 灰色の液体はみるみるうちに凝固して、パキパキと音を立てて硬質化し始めた。
 そうしてものの三十秒ほどで門のあった場所に分厚い壁が出来上がる。

『封鎖は完了した』

 言葉少なめに告げるシナヅに、居並ぶ冒険者たちは口を開けて唖然とする。

「なっ……なんだ今のは……」

「こんなにデカい壁を作るには魔術師が数十人は必要だぞ……!」

「無茶苦茶すぎる……」

 呻くように言葉を漏らす冒険者たち。
 それを目にしたルフトは「自分はまだまだ常識人だな」と安堵した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み