第五十四話 五人目
文字数 1,232文字
魔法薬を入手したルフトは東門を目指して移動していた。
幸か不幸か生存者と出会うことはない。
遭遇するのは呻く屍ばかりであった。
「グラジュアアッ」
ワンピースを着た少女のゾンビが襲いかかってきた。
反応の遅れたルフトは腕をがっしりと掴まれる。
「くっ……」
マジカルアーマーは多大なる恩恵をもたらすが、ミュータント・リキッド注射時のようにスローモーション効果がない。
回避行動に関しては、多少強化された動体視力と直感で対応するしかなかった。
そうこうしている間に、ゾンビがルフトの腕に噛み付く。
前腕に血塗れの歯が食い込んだ。
しかし、マジカルアーマーはその程度では破れず、強い圧迫感を与えるのみであった。
少しの怪我もない。
通常の衣服なら容易に食い千切られた挙句にウイルスが感染しただろう。
「こ、このっ」
ルフトは力いっぱいにゾンビの腹を蹴り上げる。
くの字に折れたゾンビは弧を描いて大きく宙を舞った。
建物の壁にぶつかってから落下してくる。
「ウグゥ……」
ゾンビは上体が醜くねじれていた。
蹴りの衝撃が思いの外大きかったらしい。
「……ごめんなさい」
ルフトは罪悪感を抱きながらも、斧でゾンビの叩き斬った。
そのまま動かなくなったのを確認してから、ふっと肩の力を抜く。
(本当に、嫌な世界になったな……)
度重なるゾンビとの戦いを経て、ルフトの精神は着々と削られていた。
それでも足を止めずにいられるのは、ひとえに使命と責任感のおかげだろう。
「もうすぐで東門だ……気を引き締めないと」
自分に言い聞かせながら、ルフトは目に付いた家屋に入る。
そろそろ召喚魔術を使っておきたかったのだ。
門付近では激戦が予想される。
南門ではルナリカのおかげで危なげなく勝利できたが、彼一人ではゾンビ化した魔物に対処できるか非常に怪しい。
魔法薬のおかげで魔力も十分に回復している。
今のうちに異世界人を呼ぶのが無難だろう。
家屋内にゾンビがいないことを確かめたルフトは、ふと窓の外に目を向ける。
やや離れた地点に東門があった。
門はやはり損壊して役割を為していない。
周りにはゾンビ化した魔物がうろついている。
今からあそこに飛び込むことに、ルフトは若干気が引けた。
「いや、もう大丈夫だ。落ち着いて立ち向かえばいい」
ルフトは気力で臆病な考えを捻じ伏せる。
何度も修羅場を潜り抜け来ただけに、既に覚悟はできていた。
戦う力だってあるのだ。
あとはそれを存分に振るうだけでいい。
ルフトは魔法陣を構築して術式を起動させた。
溢れ上がる光と風に、目を瞑って収まるのを待ち続ける。
(今度はどんな人が呼び出されたんだ……?)
召喚魔術が完了したところで、ルフトは恐る恐る魔法陣を確かめる。
――そこにいたのは、だらりと横たわる人骨だった。
幸か不幸か生存者と出会うことはない。
遭遇するのは呻く屍ばかりであった。
「グラジュアアッ」
ワンピースを着た少女のゾンビが襲いかかってきた。
反応の遅れたルフトは腕をがっしりと掴まれる。
「くっ……」
マジカルアーマーは多大なる恩恵をもたらすが、ミュータント・リキッド注射時のようにスローモーション効果がない。
回避行動に関しては、多少強化された動体視力と直感で対応するしかなかった。
そうこうしている間に、ゾンビがルフトの腕に噛み付く。
前腕に血塗れの歯が食い込んだ。
しかし、マジカルアーマーはその程度では破れず、強い圧迫感を与えるのみであった。
少しの怪我もない。
通常の衣服なら容易に食い千切られた挙句にウイルスが感染しただろう。
「こ、このっ」
ルフトは力いっぱいにゾンビの腹を蹴り上げる。
くの字に折れたゾンビは弧を描いて大きく宙を舞った。
建物の壁にぶつかってから落下してくる。
「ウグゥ……」
ゾンビは上体が醜くねじれていた。
蹴りの衝撃が思いの外大きかったらしい。
「……ごめんなさい」
ルフトは罪悪感を抱きながらも、斧でゾンビの叩き斬った。
そのまま動かなくなったのを確認してから、ふっと肩の力を抜く。
(本当に、嫌な世界になったな……)
度重なるゾンビとの戦いを経て、ルフトの精神は着々と削られていた。
それでも足を止めずにいられるのは、ひとえに使命と責任感のおかげだろう。
「もうすぐで東門だ……気を引き締めないと」
自分に言い聞かせながら、ルフトは目に付いた家屋に入る。
そろそろ召喚魔術を使っておきたかったのだ。
門付近では激戦が予想される。
南門ではルナリカのおかげで危なげなく勝利できたが、彼一人ではゾンビ化した魔物に対処できるか非常に怪しい。
魔法薬のおかげで魔力も十分に回復している。
今のうちに異世界人を呼ぶのが無難だろう。
家屋内にゾンビがいないことを確かめたルフトは、ふと窓の外に目を向ける。
やや離れた地点に東門があった。
門はやはり損壊して役割を為していない。
周りにはゾンビ化した魔物がうろついている。
今からあそこに飛び込むことに、ルフトは若干気が引けた。
「いや、もう大丈夫だ。落ち着いて立ち向かえばいい」
ルフトは気力で臆病な考えを捻じ伏せる。
何度も修羅場を潜り抜け来ただけに、既に覚悟はできていた。
戦う力だってあるのだ。
あとはそれを存分に振るうだけでいい。
ルフトは魔法陣を構築して術式を起動させた。
溢れ上がる光と風に、目を瞑って収まるのを待ち続ける。
(今度はどんな人が呼び出されたんだ……?)
召喚魔術が完了したところで、ルフトは恐る恐る魔法陣を確かめる。
――そこにいたのは、だらりと横たわる人骨だった。