第五十一話 背負ったものの重み

文字数 1,282文字

 南門跡に壁を生成したところで、ルナリカの足元に魔法陣が出現した。
 渦巻くそれは、召喚魔術の時間制限が訪れたことを示す。

 ルナリカは特に驚きもなく魔法陣を一瞥した。

「そろそろ帰れるみたいだね。帰ったらとりあえず上司の記憶を消して、欠勤を帳消しにしないと」

「ご迷惑をおかけしてすみません……でも、すごく助かりました! ありがとうございます」

 ルフトは素直に頭を下げる。

 感謝の気持ちでいっぱいだった。
 ルナリカの力がなければ、ここまで迅速に門の封鎖はできなかったろう。
 当初はほとんど乗り気ではなかったが、なんだかんだで彼女は貢献してくれた。

「困った時は、またお呼びしてもいいですか……?」

「オフの日じゃなければいいよー。それなら堂々と会社をサボれるし。そうそう、ルフトっちにかけたマジカルアーマーだけど、あと半日くらいは持続すると思うから。まあ、大変そうだけど頑張ってねー」

 気楽な調子で手を振りながら、魔法少女ルナリカは元の世界へと去っていく。

 残されたルフトは、余韻もそこそこに歩きだした。
 いつまでもこの場に留まっていられるほど暇ではないからだ。
 先を見据えて動かねばならない。

「次は東門だな……」

 脳裏に都市内の大まかな地図を描きつつ、ルフトは移動を始める。

 マジカルアーマーの効力があるうちに少しでも門の封鎖を進めておきたかった。
 この状態ならゾンビ化した魔物と戦える。
 仮に門が破壊されていたとしても、周辺の脅威さえ排除できればどうとでもなるのだ。
 あとで生存者に協力を募って魔術で塞げばいい。

(途中で魔法薬の店にも寄りたいな……いい加減、倒れてしまいそうだ)

 確かな倦怠感を覚え、ルフトはゆっくりと息を吐く。

 体内の魔力が枯渇しているせいで、意識を失いそうだった。
 まだ歩いていられるのはマジカルアーマーによる強化と、ルフト自身の純粋な気力のおかげである。

 ただ、このままではいずれ限界が来るだろう。
 体内魔力が自然回復するのを待っていては数時間かかる。
 自然回復以外で魔力を得るならば、やはり魔法薬の飲用が確実であった。

 本来ならしっかりと休息を取るべきなのだが、今は一刻も早く門の封鎖を進めねばならない。
 魔力さえ回復できれば、召喚魔術の連続行使も可能なのだ。
 異世界人を呼び出すことで、単独行動を避けられる上に門の封鎖も捗るだろう。

(ここで止まるわけにはいかないんだ……都市の平和さえ確保できれば、後でいくらでも休める)

 ルフトが自らを鼓舞していると、前方に数体のゾンビが現れた。

 布の上下を着た人間のゾンビである。
 元はただの市民だったのだろう。
 彼らは無意味な呻きを漏らしながら、遅々とした歩みで近付いてくる。

 その姿にルフトは憐れみを覚えた。

 されど情けはかけない。
 マジカルローブの力で片手に斧を生み出す。

「早く、この悲劇を終わらせないと……」

 誰にも届かない言葉を口にしながら、ルフトは静かに歩みを進める。
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