第八十話 秘策の一手
文字数 1,283文字
床に倒れるルフトは、目の前の光景に唖然とする。
魔剣の英雄アルディを一方的に傷付ける博士。
超常的な科学兵器で圧倒していた。
(なんとかなるとは思っていたけれど、まさかここまでとは……)
ルフトは改めて異世界人の規格外な力を実感する。
博士は召喚された場所からほとんど動いていない。
それなのにアルディの斬撃を無効化するばかりか、片腕を切断するように仕向けてみせた。
博士は律儀にも攻防の手段を解説するも、ルフトにはさっぱり理解できない。
瀕死の重傷を負い、出血量が多すぎるのも要因かもしれない。
否、体調が万全でも知識不足で理解不能だろう。
異世界の発達した科学を解せるほど、ルフトは秀才ではなかった。
「最新の魔術武器か? それにしても理不尽な攻撃だ……」
アルディは苦々しげに腕の断面を押さえている。
手を離すと、表面の肉が盛り上がって蠢いていた。
博士の怪光線による効果ではない。
断面の表面には小さな指のようなものが生えつつある。
それを目ざとく発見した博士は、僅かに身を乗り出した。
「ふむ。再生能力か。それもかなりの速度で治癒している。これならば損傷を気にせずに行動不能にできそうだ」
博士のおぞましい気配が膨れ上がる。
彼にとってはまだ序の口なのだ。
所詮、ここまでのやり取りはウォーミングアップに過ぎなかったらしい。
アルディは脂汗を流しながら苦笑する。
「いやはや、本当に恐ろしいな……だけど、無性にあなたを食べたくなってきた。その血肉がどんな味がするのか、とても気になるよ」
「大人しくサンプルとして捕まってくれるのなら、喜んで提供しよう」
「悪いけどそれは無理だ。というわけで――ひとまず撤退するよ」
言い終えたアルディは、床を爪先で蹴って硬質な音を鳴らす。
ブーツの底が淡く光って瞬時に魔法陣が構築された。
ルフトは魔法陣を見てその効力を察する。
「あれは転移魔術……!?」
ルフトが理解したのも束の間、アルディの身体が魔力の光に包まれて消える。
気配は完全に消えていた。
(このまま博士と戦うのは分が悪いと判断したのか……)
どうやらブーツの底に万が一に備えた緊急脱出用の魔術を仕込んでいたらしい。
確かに転移魔術は逃走に最適だろう。
不意のピンチでも今回のように素早く離脱できる。
「なるほど、魔術にはテレポート系統の術式もあるのか。ますます面白いじゃないか。今度は逃げ出せないように対策せねば……」
博士は感心した様子で頷く。
アルディに逃げられたことに苛立ったリせず、むしろ面白がっている節すらあった。
新たな発見を歓迎しているようだ。
なかなかのポジティブ思考の持ち主である。
ルフトは博士に話しかけようとして、声が出ないことに気付いた。
それどころか全身に力が入らない。
視界が急速にぼやけていく。
(あ、あれ……? これはまずいかも……)
気の緩みか或いは肉体の限界なのか、ルフトの意識はそこで暗転した。
魔剣の英雄アルディを一方的に傷付ける博士。
超常的な科学兵器で圧倒していた。
(なんとかなるとは思っていたけれど、まさかここまでとは……)
ルフトは改めて異世界人の規格外な力を実感する。
博士は召喚された場所からほとんど動いていない。
それなのにアルディの斬撃を無効化するばかりか、片腕を切断するように仕向けてみせた。
博士は律儀にも攻防の手段を解説するも、ルフトにはさっぱり理解できない。
瀕死の重傷を負い、出血量が多すぎるのも要因かもしれない。
否、体調が万全でも知識不足で理解不能だろう。
異世界の発達した科学を解せるほど、ルフトは秀才ではなかった。
「最新の魔術武器か? それにしても理不尽な攻撃だ……」
アルディは苦々しげに腕の断面を押さえている。
手を離すと、表面の肉が盛り上がって蠢いていた。
博士の怪光線による効果ではない。
断面の表面には小さな指のようなものが生えつつある。
それを目ざとく発見した博士は、僅かに身を乗り出した。
「ふむ。再生能力か。それもかなりの速度で治癒している。これならば損傷を気にせずに行動不能にできそうだ」
博士のおぞましい気配が膨れ上がる。
彼にとってはまだ序の口なのだ。
所詮、ここまでのやり取りはウォーミングアップに過ぎなかったらしい。
アルディは脂汗を流しながら苦笑する。
「いやはや、本当に恐ろしいな……だけど、無性にあなたを食べたくなってきた。その血肉がどんな味がするのか、とても気になるよ」
「大人しくサンプルとして捕まってくれるのなら、喜んで提供しよう」
「悪いけどそれは無理だ。というわけで――ひとまず撤退するよ」
言い終えたアルディは、床を爪先で蹴って硬質な音を鳴らす。
ブーツの底が淡く光って瞬時に魔法陣が構築された。
ルフトは魔法陣を見てその効力を察する。
「あれは転移魔術……!?」
ルフトが理解したのも束の間、アルディの身体が魔力の光に包まれて消える。
気配は完全に消えていた。
(このまま博士と戦うのは分が悪いと判断したのか……)
どうやらブーツの底に万が一に備えた緊急脱出用の魔術を仕込んでいたらしい。
確かに転移魔術は逃走に最適だろう。
不意のピンチでも今回のように素早く離脱できる。
「なるほど、魔術にはテレポート系統の術式もあるのか。ますます面白いじゃないか。今度は逃げ出せないように対策せねば……」
博士は感心した様子で頷く。
アルディに逃げられたことに苛立ったリせず、むしろ面白がっている節すらあった。
新たな発見を歓迎しているようだ。
なかなかのポジティブ思考の持ち主である。
ルフトは博士に話しかけようとして、声が出ないことに気付いた。
それどころか全身に力が入らない。
視界が急速にぼやけていく。
(あ、あれ……? これはまずいかも……)
気の緩みか或いは肉体の限界なのか、ルフトの意識はそこで暗転した。