第七十話 妙案

文字数 994文字

「ちょ、ちょっと頭を上げてください! どういうことか、詳しく教えてください」

 ルフトはソファから腰を浮かせて焦る。
 いきなり懇願されるとは思わなかったのだ。
 相手が優れた冒険者のリーダーであるから尚更だろう。

 自分はそうやって誰かに頼み込まれる人間ではない、とルフトは考えていた。
 未だにパンデミック以前の気質が抜けていないのが原因だろう。

 当時のルフトは、落ちこぼれだと自他共に認知していた。
 それなのに気付けば魔術学園からゾンビを一掃し、今は街を救うために奔走している。
 歪んだ形とはいえ、召喚魔術すらも使いこなしていた。
 英雄的な働きと評しても差し支えないだろう。

 もっとも、ルフト本人にそのような自覚は一切ない。
 数々の戦いを生き抜いてきて、戦闘技術や勇気を培ってきたものの、普段の性格はあまり変わっていないのだ。

 居住まいを正したドランは咳払いをする。

「すまんな。話を急ぎすぎた。ここにいるグループは、近々この街を脱出するつもりなんだ。ここはどうにも危険すぎる。なるべく安全な場所へ向かうつもりだ」

「さっき他の方々と話していたのは……?」

「移動計画を練っていたところだったんだ。調達した物資も着々と集まってきたからな」

 ドラン曰く、ルフトと出会った時に東門付近にいたのも、拠点の最寄りの魔物を予め排除しておきたかったためだったそうだ。
 確かに脱出前に殺到されては堪らないだろう。
 ここには非戦闘員の生存者もたくさんいるのだ。
 彼らのことを考えれば、先に脅威を削る策も納得がいく。

 そこでルフトは、気になったことを尋ねる。

「東門はシナヅさんに封鎖してもらいましたが、脱出に支障はないのですか?」

「ああ、大丈夫だ。土魔術を使える魔術師がいるから、地形操作で穴を掘れば問題なく外に出られる。ルフトにはその道のりまでの護衛を頼みたい」

「なるほど、事情は分かりました……」

 ルフトは神妙な面持ちで頷く。

 別にドランたちの手助けをするのは構わない。
 生存者同士で協力すべきだとルフトは思っている。

 しかし、何かが彼の頭の中で引っかかった。
 もっと良い案があるような気がしたのである。

 半ば無意識に、ルフトは閃いたその考えを口にした。

「安全な場所をお探しなら、魔術学園へ避難されてはどうですか?」
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