第35話
文字数 2,126文字
二人はクリーニング店へ行った後、蕗子の借りたレンタカーを系列店まで返しに行き、それから蕗子の服を買った。
服を選ぶのに、晴明があれこれと口を出してくるのには蕗子も閉口した。
寝巻も数着選ばれた。どうして、そんなに選びたがるのか、答えはその夜、やってきた。
自分が選んだネグリジェを身に付けた蕗子をじっくりと観察した後に、おもむろにスケッチしだしたのだった。
「えー?ちょっと……」
「じっとしてて」
真剣だ。
絵描きではあるが、こんな姿をスケッチされるとは思ってなかった。
まさかそのうち、ヌードを描かせてくれとか言われるのか?
考えただけで赤面してくる。
「ちょっと、ふわりとするように、一回転してくれないかな」
言われて、回転した。
「今度は逆回り」
逆回りする。
「座って窓の外を見て」
言われた通りにした。
外は綺麗だった。今夜も星が美しい。
「夜空を描かないの?」
思わず訊いた。こんなに綺麗な夜なのに。
「今は君を描きたいんだ」
「私を?ネグリジェじゃなくて?」
わざと茶化した。
晴明は笑うと、「両方だよ」と言った。
「両方?」
「そう。僕が選んだネグリジェを着ている君を描きたいの」
「晴明さんの趣味って、なんか理解できないかも……」
蕗子は小さく溜息をついた。
シュッシュッとエンピツが滑る音がする。
部屋の中は薄暗く、電気は晴明の手元を照らすだけだった。蕗子を照らしているのは月明かりだ。
月と地球の距離は三十八万四千四百キロメートル。
太陽の光を反射して、それだけの距離から蕗子を照らしている。
「まるで月のスポットライトみたい……」
蕗子が呟いた。
「ああ。そうだね」
晴明は手を止めてスケッチブックを閉じると、蕗子のそばへやってきた。
跪いて、手を取る。
いつも自分より背が高く、見上げる立ち場にあるのに、今は逆だ。
「月の世界のお姫様みたいだ。僕の、月と星の間にいるのは君だ。今切実にそう思うよ」
晴明は蕗子の手に口づけると、立ち上がって蕗子をそっとベッドに倒した。
「僕がネグリジェを選ぶ時の第一のポイントはね。前ボタンで全開できる事……」
そう言いながら、ボタンを一つずつ外し始めた。
「どうして?」
「捲りあげるのは、僕の美意識に反する。こうして一つずつ外していって、最後に全てを僕の目に晒す。ロマンティックでエロティックじゃないか。ビーナスのような君の体を愛するのにも相応しいだろう?」
晴明の言葉に、戸惑った。
矢張り芸術家って、感覚が普通とずれている気がする。
ただ、スケスケの厭らしい物を選ばれなくて良かったとは思っている。
綿素材の優しい肌触りのものだった。
それにしても『ビーナス』って……。
言われて恥ずかしくなってくる。
「ねぇ。ビーナスなんて大袈裟じゃない?それとも、あっ、ミロのビーナスとかって、肉づきがいいわよね。私もそうだって、暗に言ってるって事かしら?蘇芳はダンサーだから、細くて引きしまった素敵な体よねぇ」
「君は何を言ってるんだ」
怖い顔をして睨みつけて来た。声も低くなっている。
「茶かすにしても、度が過ぎるぞ。よりにもよって、蘇芳と比べるような事を言うなんて。蘇芳は確かに引き締まって綺麗だけど、それはアスリートとしての美しさであって、愛の対象としての美しさは、君の方が遥かに美しいんだ」
蕗子は真剣な晴明から目を逸らせた。
「だって……。ビーナスなんて言うんだもの。恥ずかしいじゃない……」
そう言っているうちに、ボタンの最後が外れた。そっと前が開かれる。
「ほら。こんなに綺麗なのに。恥ずかしがる必要なんかないよ。君はとっても綺麗なんだ。僕が保証するよ。絵描きの僕が」
晴明はそっと蕗子の足を取ると、その甲に口づけた。
「あっ」と、それだけで声が出る。
晴明は自分も服を脱ぐと、蕗子のショーツを取り、そっと足を押し開いて舌をあてた。柔らかくて濡れた舌が、蕗子の小さい突起を優しく舐めた。
蕗子の体がビクンと跳ねる。巧みな舌の動きに、じんわりと濡れてくるのがわかる。掌が太ももの上を何度も滑り、時々舌が差し込まれて蕗子の声のボリュームが上がっていく。
月の光の中に浮かび上がっている晴明の姿は美しかった。
整った容姿に均整の取れた肢体。細いが、決して華奢ではない。長い体を持て余すようにしながら、晴明は蕗子の全身に隈なく舌を這わせた。
ゆっくりと高ぶり、やがて晴明の中指が入って来た時、大きな波がやってくるのを感じた。付け根まで差し込まれて、ゆっくりと中をかき回す。
既に火照っている体が、内側から燃えてくるのを感じた。
「蕗子……」
晴明の熱い息が耳元にかかり、耳たぶをしゃぶられて内側の火が煽られる。
中指を差し込まれたままで、親指が小さい突起を刺激した。
火花が走るように、快感が全身に走った。体が、腰が震えて来る。
悶える蕗子に、晴明は体のあちこちに唇を寄せる。滑るような動きが快楽に拍車をかけていた。
やがて晴明自身が入って来て、蕗子を突き上げた。
声を上げる蕗子の震える体を晴明は抱きしめた。何度も何度も絶頂に達し、最後に共にいって
果てた。
そうして二人は互いの体を抱きあったまま、月明かりに照らされて眠りに落ちた。
服を選ぶのに、晴明があれこれと口を出してくるのには蕗子も閉口した。
寝巻も数着選ばれた。どうして、そんなに選びたがるのか、答えはその夜、やってきた。
自分が選んだネグリジェを身に付けた蕗子をじっくりと観察した後に、おもむろにスケッチしだしたのだった。
「えー?ちょっと……」
「じっとしてて」
真剣だ。
絵描きではあるが、こんな姿をスケッチされるとは思ってなかった。
まさかそのうち、ヌードを描かせてくれとか言われるのか?
考えただけで赤面してくる。
「ちょっと、ふわりとするように、一回転してくれないかな」
言われて、回転した。
「今度は逆回り」
逆回りする。
「座って窓の外を見て」
言われた通りにした。
外は綺麗だった。今夜も星が美しい。
「夜空を描かないの?」
思わず訊いた。こんなに綺麗な夜なのに。
「今は君を描きたいんだ」
「私を?ネグリジェじゃなくて?」
わざと茶化した。
晴明は笑うと、「両方だよ」と言った。
「両方?」
「そう。僕が選んだネグリジェを着ている君を描きたいの」
「晴明さんの趣味って、なんか理解できないかも……」
蕗子は小さく溜息をついた。
シュッシュッとエンピツが滑る音がする。
部屋の中は薄暗く、電気は晴明の手元を照らすだけだった。蕗子を照らしているのは月明かりだ。
月と地球の距離は三十八万四千四百キロメートル。
太陽の光を反射して、それだけの距離から蕗子を照らしている。
「まるで月のスポットライトみたい……」
蕗子が呟いた。
「ああ。そうだね」
晴明は手を止めてスケッチブックを閉じると、蕗子のそばへやってきた。
跪いて、手を取る。
いつも自分より背が高く、見上げる立ち場にあるのに、今は逆だ。
「月の世界のお姫様みたいだ。僕の、月と星の間にいるのは君だ。今切実にそう思うよ」
晴明は蕗子の手に口づけると、立ち上がって蕗子をそっとベッドに倒した。
「僕がネグリジェを選ぶ時の第一のポイントはね。前ボタンで全開できる事……」
そう言いながら、ボタンを一つずつ外し始めた。
「どうして?」
「捲りあげるのは、僕の美意識に反する。こうして一つずつ外していって、最後に全てを僕の目に晒す。ロマンティックでエロティックじゃないか。ビーナスのような君の体を愛するのにも相応しいだろう?」
晴明の言葉に、戸惑った。
矢張り芸術家って、感覚が普通とずれている気がする。
ただ、スケスケの厭らしい物を選ばれなくて良かったとは思っている。
綿素材の優しい肌触りのものだった。
それにしても『ビーナス』って……。
言われて恥ずかしくなってくる。
「ねぇ。ビーナスなんて大袈裟じゃない?それとも、あっ、ミロのビーナスとかって、肉づきがいいわよね。私もそうだって、暗に言ってるって事かしら?蘇芳はダンサーだから、細くて引きしまった素敵な体よねぇ」
「君は何を言ってるんだ」
怖い顔をして睨みつけて来た。声も低くなっている。
「茶かすにしても、度が過ぎるぞ。よりにもよって、蘇芳と比べるような事を言うなんて。蘇芳は確かに引き締まって綺麗だけど、それはアスリートとしての美しさであって、愛の対象としての美しさは、君の方が遥かに美しいんだ」
蕗子は真剣な晴明から目を逸らせた。
「だって……。ビーナスなんて言うんだもの。恥ずかしいじゃない……」
そう言っているうちに、ボタンの最後が外れた。そっと前が開かれる。
「ほら。こんなに綺麗なのに。恥ずかしがる必要なんかないよ。君はとっても綺麗なんだ。僕が保証するよ。絵描きの僕が」
晴明はそっと蕗子の足を取ると、その甲に口づけた。
「あっ」と、それだけで声が出る。
晴明は自分も服を脱ぐと、蕗子のショーツを取り、そっと足を押し開いて舌をあてた。柔らかくて濡れた舌が、蕗子の小さい突起を優しく舐めた。
蕗子の体がビクンと跳ねる。巧みな舌の動きに、じんわりと濡れてくるのがわかる。掌が太ももの上を何度も滑り、時々舌が差し込まれて蕗子の声のボリュームが上がっていく。
月の光の中に浮かび上がっている晴明の姿は美しかった。
整った容姿に均整の取れた肢体。細いが、決して華奢ではない。長い体を持て余すようにしながら、晴明は蕗子の全身に隈なく舌を這わせた。
ゆっくりと高ぶり、やがて晴明の中指が入って来た時、大きな波がやってくるのを感じた。付け根まで差し込まれて、ゆっくりと中をかき回す。
既に火照っている体が、内側から燃えてくるのを感じた。
「蕗子……」
晴明の熱い息が耳元にかかり、耳たぶをしゃぶられて内側の火が煽られる。
中指を差し込まれたままで、親指が小さい突起を刺激した。
火花が走るように、快感が全身に走った。体が、腰が震えて来る。
悶える蕗子に、晴明は体のあちこちに唇を寄せる。滑るような動きが快楽に拍車をかけていた。
やがて晴明自身が入って来て、蕗子を突き上げた。
声を上げる蕗子の震える体を晴明は抱きしめた。何度も何度も絶頂に達し、最後に共にいって
果てた。
そうして二人は互いの体を抱きあったまま、月明かりに照らされて眠りに落ちた。