第29話
文字数 3,786文字
高井戸インターチェンジから中央自動車道に乗り、八王子を過ぎた頃になって蕗子の胸の内に後悔の念が湧いてきた。
尋常でない目にあって、興奮し過ぎていたからだろうが、一端どこかへ泊まって、夜が明けてから出発すべきだった。もう夜が遅いのだ。
夜の高速はトラックが多い。
中央自動車道を運転する事は初めてではないし、諏訪方面へも過去に何度も行った事はある。だが、こんなに夜遅くに運転するのは初めてだった。
それに、この時間である。
順調にいっても諏訪インターチェンジに到着するのは深夜一時半過ぎになるだろう。
そこから、蓼科にある晴明の家へは更に四十分くらいはかかるだろう。そうなると、二時を回る事になる。
そんな時間に行ってどうする。逢えるのか。
留守にしてたら?
それに、家の場所もよくは分からない。
考えただけで心細くなってくる。
トラックがビュンビュンと横を走り抜けていく事自体、既にビビっていると言うのに。
談合坂まで来た時、取り敢えずサービスエリアに入って車を止めた。
だが、降りる気はしない。こんな夜遅くに女ひとりで不安だからだ。
それに長居をする気も無かった。遅いからこそ、一時も早く着きたかった。
蕗子はバックから再びスマホを取り出した。晴明も同じ物を持っている。
そう思うと、たかがスマホが愛おしく感じる。
ランプがチカっと光った事に気がついた。着信履歴のランプだ。慌てて開いて確認したら、
晴明から電話が入っていた。
蕗子からの着信履歴を見て、折り返しかけてきてくれたようだ。単純に嬉しかった。
蕗子は急いで晴明に電話した。
コールが四回鳴った。また、なかなか出ないなと思ったら、五回目が終わる寸前に繋がった。一挙に心臓が跳ね上がる。
「もしもしっ」
思わず叫ぶように言った。
「……蕗子さん?」
確かに晴明の声だった。
良く通る低めの男らしい声。でも心なしか驚いているように感じる。
思いがけない人間から掛って来た、そんな印象を受ける。
「晴明さん……」
蕗子は涙ぐんだ。
懐かしい声。
ずっと聞きたかった声。
「晴明さん」
何も言わない晴明を蕗子は再び呼んだ。
「うん……」
なんだか歯切れが悪い。
どうして喜んでくれないの?どうして何も問わないの?
「私今、談合坂サービスエリアにいるの」
「ええ?」
さすがに驚いたようだ。
「今ね。蓼科に向かってるの」
「……」
「晴明さんは、蓼科にいるんでしょ?」
「……うん。一体、どうしたの。もしかして仕事とか?」
蕗子は晴明の言葉にガッカリした。
「仕事だったとしたら、どうしてこんな時間に?」
逆に問い返した。
「いや、ごめん……」
どうしてこんなに煮え切らない態度なんだ。
蕗子の心が悲しみで満たされていく。
私は間違っていたのだろうか?
「どうしても、あなたに逢いたくなったの。気付いたらこんな時間にレンタカーに乗って中央道を走ってた……」
「そうか……」
「諏訪インターに1時半過ぎに着くと思うの。あなたの住所をナビに入れたけど、途中までしか教えてくれないの。深夜で暗いだろうし、道に迷いそうだわ」
「蓼科は初めて?」
「いいえ。何度も行った事はある」
「そうか……。じゃぁ、蓼科湖レジャーランドは知ってるね?そこまでは来れる?」
「うん。行ける……」
「分かった。そこの駐車場で待ってるよ。途中で何か困ったら、電話して」
そう言って晴明は電話を切った。
矢張り素っ気ない。
蕗子は信じられない思いだった。
押し掛けてくるならしょうがないと言わんばかりの態度のように感じた。
これが、久しぶりの愛する女性への態度なのか。
そもそも連絡してこない事からして、最早、そういう事だったのか。
それなのに自分は……。
いっそ、このまま引き返そうかとさえ思う。
だが、ここまで来て引き返したら、自分の中で決着をつけられない。
いつまでも引きずって仕事にまで影響を及ぼしたくない。
蕗子は自分に鞭打つように、キッと眉間に力を入れると、サイドブレーキを解除してアクセルを踏み込んだ。
諏訪インターを降りた時、時計は午前一時四十分になっていた。
大体予想通りだ。国道二十号はトラックがまだ数台走っていたが、ビーナスラインへ入ったら自動車は皆無になった。
自分が運転する車のヘッドライトだけが、狭い範囲を照らすのみだ。
昼間だったら、さぞや気持ちの良いドライブだろうが、深夜の一人ドライブはただただ不気味に感じる。
これだけ車が走っていないのだから、蓼科湖までは二十分くらいで着くかもしれないと思いつつ、怖くて運転が慎重になり、スピードが出せなかった。
ゆったりとした上り坂だが、途中途中で勾配が急になる。
標高がどんどん高くなっていくのが感じられた。
エアコンを止めて窓を開けてみるとヒンヤリとした風が車内になだれ込んで来た。東京よりも遥かに涼しい。
それに、目の前に広がる夜空がとても綺麗だった。星が多い。
こんな夜空を見ながら、晴明は夜の絵を描いているのだろうか。
夜空を描くなら、確かに東京じゃ無理だ。ここに来るのも頷ける。
あんなに逢いたくて、後先も考えずにやってきたと言うのに、蓼科湖に近づくにつれ気持ちが重くなってきた。それと言うのも、あの電話の対応だ。
逢うのが怖い……。
心臓が高鳴っていた。
長い緩やかなカーブを超えると視界が開けた。蓼科湖レジャーランドだ。
右手に駐車場がある。ライトの先に、白い四駆が停まっていた。
(あれか?)
スピードを落としてゆっくり近づき、目を凝らした。
運転席に人が乗っているのが見てとれた。
蕗子はそばまで行くと停止してハザードランプを点けてライトを落とした。中から人が降りて来た。すらっとした背の高い男。晴明だった。
蕗子は急いで車から降りた。
「晴明さん」
「蕗子さん」
晴明は戸惑うように蕗子を見ている。
お互いに何を言って良いのか分からないまま、暫く見つめ合っていた。
本当は走り寄って抱きつきたかった。だが、それが出来なかった。
躊躇わせる何かを蕗子は晴明に感じていた。
「とりあえず、家まで行こう。僕の車の後について来て」
晴明の言葉に蕗子は頷いた。それを見て晴明が自身の車のドアに手を掛けたので、蕗子も乗って来た車に乗り込んだ。
晴明が住む家は、ビーナスラインを更に上って、スズラン峠へ出る途中の脇道へ入った所にあった。
ところどころに別荘やペンション、ショップがあるものの、その家の周囲には何も無く、とても寂しい所だった。
鬱蒼とした木立の中にあったが、家の周辺は広く視界が開けていた。
蕗子は晴明の車の後にレンタカーを止めると、そっと車を降りた。
同じように車を降りた晴明が蕗子のそばへやってきた。
月明かりの下で見る晴明は、どこか儚げな感じがした。
「どうして……」
晴明は呟くように言った。
蕗子は睨む。何がどうしてだ。ふざけるな。心の中でそう叫んでいた。
晴明は蕗子から視線を逸らすと、車の後部座席を覗き、それからトランクを開けた。
「あれ?」
「どうかした?」
「荷物は?」
驚いた顔で蕗子を見た晴明に、蕗子はプイと顔を逸らす。
「無いわ」
「無いわって……」
「無い物は無いの」
つっけんどんに言い放つ。
「……もしかして、そのバックだけ?」
「そうよ」
背後から、大きな溜息が聞こえた。
それがたまらなく悲しくなってきて、蕗子は零 れそうになる涙を堪える為に上を向いた。満天の星が迫って来る。
「綺麗……」
思わず口について出た。
「ああ……」
この星空の下で、一体自分は何をやっているのだろう。
広い宇宙の、たった一つの青い小さな星。その小さな星で、更に小さい人間が僅かな時間を生きている。自分自身の中にある星を一生懸命に燃やしながら。
零れないように上を向いていたのに、涙が零れてきた。
ここまで来たと言うのに無性に悲しい。
満天の星に包まれて、かえって人の世の無常が自分を押しつぶそうとしているような気がしてきたからかもしれない。
「晴明さん……。私、寒いわ。とっても……」
蕗子は両手で自分を抱きしめた。
そう、寒い。身体も心も……。
「えっ?あ、ごめん。夏とは言え、夜はここも冷えるんだ。さ、中へ入ろう」
晴明は軽く蕗子の肩を押して、家の入口へと案内した。
家の中は、思っていたよりも広かった。
「もうこんな時間だ。ずっと運転してきて疲れてるだろう?シャワー浴びるかい?それともすぐに寝る?」
蕗子は部屋の中を見まわした。
かなり眠気が襲って来て、判断力が鈍っている事を感じた。
兎に角、ここまで来た。まずは第一の目的を果たしたんだ。
もう疲れた。疲れきっている。だから寝たい。何も考えずに……。
そう思った途端、返事をする気力も出ずに、蕗子はその場に蹲 った。
「蕗子さん!」
晴明が驚いて駆け寄って来た。
「眠い……」
それだけ言った。
「私……、もう……いい。ここで寝る。このままで」
そう言いながら、蕗子は上着のボタンをたどたどしく外しだした。
「ちょっと蕗子さん!何寝ぼけてるんだ。こんな所で裸で寝るつもりか?」
晴明が怒り口調で声を掛けてきているが、蕗子はもう、本当にどうでもよくなった。それ程に眠いのだった。
「ごめんなさい。……ほんとにここでいいから。毛布だけお願い……」
蕗子の意識はそこで途絶えた。
尋常でない目にあって、興奮し過ぎていたからだろうが、一端どこかへ泊まって、夜が明けてから出発すべきだった。もう夜が遅いのだ。
夜の高速はトラックが多い。
中央自動車道を運転する事は初めてではないし、諏訪方面へも過去に何度も行った事はある。だが、こんなに夜遅くに運転するのは初めてだった。
それに、この時間である。
順調にいっても諏訪インターチェンジに到着するのは深夜一時半過ぎになるだろう。
そこから、蓼科にある晴明の家へは更に四十分くらいはかかるだろう。そうなると、二時を回る事になる。
そんな時間に行ってどうする。逢えるのか。
留守にしてたら?
それに、家の場所もよくは分からない。
考えただけで心細くなってくる。
トラックがビュンビュンと横を走り抜けていく事自体、既にビビっていると言うのに。
談合坂まで来た時、取り敢えずサービスエリアに入って車を止めた。
だが、降りる気はしない。こんな夜遅くに女ひとりで不安だからだ。
それに長居をする気も無かった。遅いからこそ、一時も早く着きたかった。
蕗子はバックから再びスマホを取り出した。晴明も同じ物を持っている。
そう思うと、たかがスマホが愛おしく感じる。
ランプがチカっと光った事に気がついた。着信履歴のランプだ。慌てて開いて確認したら、
晴明から電話が入っていた。
蕗子からの着信履歴を見て、折り返しかけてきてくれたようだ。単純に嬉しかった。
蕗子は急いで晴明に電話した。
コールが四回鳴った。また、なかなか出ないなと思ったら、五回目が終わる寸前に繋がった。一挙に心臓が跳ね上がる。
「もしもしっ」
思わず叫ぶように言った。
「……蕗子さん?」
確かに晴明の声だった。
良く通る低めの男らしい声。でも心なしか驚いているように感じる。
思いがけない人間から掛って来た、そんな印象を受ける。
「晴明さん……」
蕗子は涙ぐんだ。
懐かしい声。
ずっと聞きたかった声。
「晴明さん」
何も言わない晴明を蕗子は再び呼んだ。
「うん……」
なんだか歯切れが悪い。
どうして喜んでくれないの?どうして何も問わないの?
「私今、談合坂サービスエリアにいるの」
「ええ?」
さすがに驚いたようだ。
「今ね。蓼科に向かってるの」
「……」
「晴明さんは、蓼科にいるんでしょ?」
「……うん。一体、どうしたの。もしかして仕事とか?」
蕗子は晴明の言葉にガッカリした。
「仕事だったとしたら、どうしてこんな時間に?」
逆に問い返した。
「いや、ごめん……」
どうしてこんなに煮え切らない態度なんだ。
蕗子の心が悲しみで満たされていく。
私は間違っていたのだろうか?
「どうしても、あなたに逢いたくなったの。気付いたらこんな時間にレンタカーに乗って中央道を走ってた……」
「そうか……」
「諏訪インターに1時半過ぎに着くと思うの。あなたの住所をナビに入れたけど、途中までしか教えてくれないの。深夜で暗いだろうし、道に迷いそうだわ」
「蓼科は初めて?」
「いいえ。何度も行った事はある」
「そうか……。じゃぁ、蓼科湖レジャーランドは知ってるね?そこまでは来れる?」
「うん。行ける……」
「分かった。そこの駐車場で待ってるよ。途中で何か困ったら、電話して」
そう言って晴明は電話を切った。
矢張り素っ気ない。
蕗子は信じられない思いだった。
押し掛けてくるならしょうがないと言わんばかりの態度のように感じた。
これが、久しぶりの愛する女性への態度なのか。
そもそも連絡してこない事からして、最早、そういう事だったのか。
それなのに自分は……。
いっそ、このまま引き返そうかとさえ思う。
だが、ここまで来て引き返したら、自分の中で決着をつけられない。
いつまでも引きずって仕事にまで影響を及ぼしたくない。
蕗子は自分に鞭打つように、キッと眉間に力を入れると、サイドブレーキを解除してアクセルを踏み込んだ。
諏訪インターを降りた時、時計は午前一時四十分になっていた。
大体予想通りだ。国道二十号はトラックがまだ数台走っていたが、ビーナスラインへ入ったら自動車は皆無になった。
自分が運転する車のヘッドライトだけが、狭い範囲を照らすのみだ。
昼間だったら、さぞや気持ちの良いドライブだろうが、深夜の一人ドライブはただただ不気味に感じる。
これだけ車が走っていないのだから、蓼科湖までは二十分くらいで着くかもしれないと思いつつ、怖くて運転が慎重になり、スピードが出せなかった。
ゆったりとした上り坂だが、途中途中で勾配が急になる。
標高がどんどん高くなっていくのが感じられた。
エアコンを止めて窓を開けてみるとヒンヤリとした風が車内になだれ込んで来た。東京よりも遥かに涼しい。
それに、目の前に広がる夜空がとても綺麗だった。星が多い。
こんな夜空を見ながら、晴明は夜の絵を描いているのだろうか。
夜空を描くなら、確かに東京じゃ無理だ。ここに来るのも頷ける。
あんなに逢いたくて、後先も考えずにやってきたと言うのに、蓼科湖に近づくにつれ気持ちが重くなってきた。それと言うのも、あの電話の対応だ。
逢うのが怖い……。
心臓が高鳴っていた。
長い緩やかなカーブを超えると視界が開けた。蓼科湖レジャーランドだ。
右手に駐車場がある。ライトの先に、白い四駆が停まっていた。
(あれか?)
スピードを落としてゆっくり近づき、目を凝らした。
運転席に人が乗っているのが見てとれた。
蕗子はそばまで行くと停止してハザードランプを点けてライトを落とした。中から人が降りて来た。すらっとした背の高い男。晴明だった。
蕗子は急いで車から降りた。
「晴明さん」
「蕗子さん」
晴明は戸惑うように蕗子を見ている。
お互いに何を言って良いのか分からないまま、暫く見つめ合っていた。
本当は走り寄って抱きつきたかった。だが、それが出来なかった。
躊躇わせる何かを蕗子は晴明に感じていた。
「とりあえず、家まで行こう。僕の車の後について来て」
晴明の言葉に蕗子は頷いた。それを見て晴明が自身の車のドアに手を掛けたので、蕗子も乗って来た車に乗り込んだ。
晴明が住む家は、ビーナスラインを更に上って、スズラン峠へ出る途中の脇道へ入った所にあった。
ところどころに別荘やペンション、ショップがあるものの、その家の周囲には何も無く、とても寂しい所だった。
鬱蒼とした木立の中にあったが、家の周辺は広く視界が開けていた。
蕗子は晴明の車の後にレンタカーを止めると、そっと車を降りた。
同じように車を降りた晴明が蕗子のそばへやってきた。
月明かりの下で見る晴明は、どこか儚げな感じがした。
「どうして……」
晴明は呟くように言った。
蕗子は睨む。何がどうしてだ。ふざけるな。心の中でそう叫んでいた。
晴明は蕗子から視線を逸らすと、車の後部座席を覗き、それからトランクを開けた。
「あれ?」
「どうかした?」
「荷物は?」
驚いた顔で蕗子を見た晴明に、蕗子はプイと顔を逸らす。
「無いわ」
「無いわって……」
「無い物は無いの」
つっけんどんに言い放つ。
「……もしかして、そのバックだけ?」
「そうよ」
背後から、大きな溜息が聞こえた。
それがたまらなく悲しくなってきて、蕗子は
「綺麗……」
思わず口について出た。
「ああ……」
この星空の下で、一体自分は何をやっているのだろう。
広い宇宙の、たった一つの青い小さな星。その小さな星で、更に小さい人間が僅かな時間を生きている。自分自身の中にある星を一生懸命に燃やしながら。
零れないように上を向いていたのに、涙が零れてきた。
ここまで来たと言うのに無性に悲しい。
満天の星に包まれて、かえって人の世の無常が自分を押しつぶそうとしているような気がしてきたからかもしれない。
「晴明さん……。私、寒いわ。とっても……」
蕗子は両手で自分を抱きしめた。
そう、寒い。身体も心も……。
「えっ?あ、ごめん。夏とは言え、夜はここも冷えるんだ。さ、中へ入ろう」
晴明は軽く蕗子の肩を押して、家の入口へと案内した。
家の中は、思っていたよりも広かった。
「もうこんな時間だ。ずっと運転してきて疲れてるだろう?シャワー浴びるかい?それともすぐに寝る?」
蕗子は部屋の中を見まわした。
かなり眠気が襲って来て、判断力が鈍っている事を感じた。
兎に角、ここまで来た。まずは第一の目的を果たしたんだ。
もう疲れた。疲れきっている。だから寝たい。何も考えずに……。
そう思った途端、返事をする気力も出ずに、蕗子はその場に
「蕗子さん!」
晴明が驚いて駆け寄って来た。
「眠い……」
それだけ言った。
「私……、もう……いい。ここで寝る。このままで」
そう言いながら、蕗子は上着のボタンをたどたどしく外しだした。
「ちょっと蕗子さん!何寝ぼけてるんだ。こんな所で裸で寝るつもりか?」
晴明が怒り口調で声を掛けてきているが、蕗子はもう、本当にどうでもよくなった。それ程に眠いのだった。
「ごめんなさい。……ほんとにここでいいから。毛布だけお願い……」
蕗子の意識はそこで途絶えた。