第33話
文字数 2,086文字
晴明は、そっと体を離して蕗子を見つめた。
涙に濡れた目が求めているのを感じて、蕗子はそっと、目を閉じた。
間もなく、晴明の唇が蕗子の唇を覆った。
最初は遠慮勝ちだったが、やがて吸われた。そして蕗子の唇を味わうように貪り始めた。
晴明は、まるで狂おしげに蕗子の長い髪の間に手を差し込んだ。
後頭部に手をやり、やがてゆっくりと下まで移動し、背中を撫でる。
片方の手がジャージのファスナーに掛って、ゆっくりと下げ始めた。素肌の上に直着だから、ファスナーが全て開いた時、大きなジャージはするりと蕗子の肩から滑り落ち、上半身が晒された。
晴明は手で蕗子の素肌を確かめた後、そっと手を引いて蕗子を見た。
蕗子は視線を感じて目を開けた。晴明の目は慄 いているように見えた。
「蕗子さん……。綺麗だよ、とても……。だから、……いいのかな、本当に僕で。僕は怖いんだよ。こんな僕に、果たして君を愛する資格が本当にあるのかどうか。蘇芳の手紙にもあったけど、君は高潔だ。侵しがたい美しさがあるんだ。だから、無性に手に入れたくなるのと同時に、
触れずに崇めてずっと清いままにしておきたい気持ちが湧いてくるんだよ。だからこそ、僕のような男がって……」
蕗子は微笑んだ。
「私を……、愛してくれてるのよね?」
「ああ、愛してる……」
「私だけ、よね?」
「君だけだ。君を愛してる。とっても。でも、君は?」
「もしかして、自信が無いの?」
「ああ。自信が無い」
「あんなに、自信満々だったのに。僕たちは愛し合ってるんだ、って強く主張してたじゃない」
蕗子は呆れたように笑った。
「あの時は、自信があった。だって、忌まわしい過去を君は知らなかったわけだし」
「そうね。でも私の方は、あの時の方が自信が無かった。でも、今は違う。今は自分の気持ちに自信がある。いい?言うわよ?耳をよぉーく、かっぽじいて聞いてよ?」
蕗子が小首を傾げて晴明に問いかけると、晴明は嬉しそうに頷いた。
「愛してるわ。晴明さん」
蕗子は顔が赤くなるのを感じた。生まれて初めて口に出す言葉だ。
恥ずかしくてたまらない。だが、しっかりと晴明を見つめた。
この人を愛していると、今は自信を持って言えるのだ。
「蕗子さん……。ありがとう。嬉しいよ」
晴明はにっこりと笑うと、蕗子の体をそっと倒して、その肩先に唇を当てた。
唇が体を撫でまわし、空いた手でジャージのズボンを脱がされ、ショーツ一枚となった。
「ああ、よく似合ってる。素敵だ……」
溜息をつくように言われて、蕗子は質問した。
「どういうこと?」
晴明は、薄い水色のショーツの縁を指先でなぞりながら言った。
「君がここに泊まる事があったら、下着の替えは必需品だろう?用意はしてくるだろうけど、万一の為と思って、君の為に選んでおいたんだよ。勿論、君との未来を夢見ていた時だけどね」
「あら……」
考えてもみなかった事を言われて驚いた。
まさか、そんな事だったとは。
「私の為に……、選んだの?」
ショーツの上から際どい場所を撫でられて、蕗子の声が乱れた。
「そうだよ。君は色が白いし、薄い色が似合うと思った。中でも水色が、きっと良く似合うと思ったんだ」
「あぁ……」
思わず声があがった。
晴明の唇が乳房の先に触れ、そっと舐めたのだった。
手が触れ、その存在を確かめるように揉まれた。
熱い吐息が体をくすぐる。
「手がさ……。絵具と薬品のせいで荒れ気味だから……、ごめんよ。痛くない?」
蕗子は言葉では返事ができなくて、首を振った。
晴明は指先がガサついて痛いだろうと思っているからなのか、鼻先や唇、舌で攻めてくる。
それがたまらなく蕗子を刺激する。そして、その度に晴明の柔らかい前髪が筆でなぞるように蕗子の体をなぞる。
「蕗子さん……」
晴明が蕗子の頬に手を当てて、蕗子に呼びかけた。
閉じていた目を開くと晴明の瞳は揺れていた。僅かに不安の色がある。
「本当に……、いいの?」
蕗子は揺れる瞳を見つめながら、この人の傷は本当に深いんだと思った。
「晴明さん……」
「うん……」
「あなたの愛が……、諦める事ができるものであるのなら、……今ここで、諦めて。二人で、別々の道を行きましょう」
「蕗子さん!」
「……でも、諦められない愛なのなら、貫き通す事を絶対に後悔しないと、誓えるのなら、二人で一緒に行きましょう」
晴明は、暫く瞳を揺らして、蕗子の真意を確かめるように見つめていたが、やがて嬉しげな笑みが浮かんできた。
「諦めるなんてできない。できるものなら、とっくに諦めてたさ。僕たちは愛し合ってるんだ」
晴明の愛撫が前より激しくなり、蕗子の声も大きくなった。
やがて晴明が入って来た時、蕗子は緊張した。だがその緊張もすぐに溶け、繋がっている悦びで満ちて来た。
唇を重ね合い、指を絡め合い、足も絡め合った。
貫かれている場所が喜びで震えている。そしてそれが全身に駆け巡る。
出逢わなければ良かったと、何度も思った。でも今は違う。
出逢って良かった。この人と愛し合えて良かった。
今、深く深く繋がれてるんだと、そう思うと嬉しくてたまらなかった。
涙に濡れた目が求めているのを感じて、蕗子はそっと、目を閉じた。
間もなく、晴明の唇が蕗子の唇を覆った。
最初は遠慮勝ちだったが、やがて吸われた。そして蕗子の唇を味わうように貪り始めた。
晴明は、まるで狂おしげに蕗子の長い髪の間に手を差し込んだ。
後頭部に手をやり、やがてゆっくりと下まで移動し、背中を撫でる。
片方の手がジャージのファスナーに掛って、ゆっくりと下げ始めた。素肌の上に直着だから、ファスナーが全て開いた時、大きなジャージはするりと蕗子の肩から滑り落ち、上半身が晒された。
晴明は手で蕗子の素肌を確かめた後、そっと手を引いて蕗子を見た。
蕗子は視線を感じて目を開けた。晴明の目は
「蕗子さん……。綺麗だよ、とても……。だから、……いいのかな、本当に僕で。僕は怖いんだよ。こんな僕に、果たして君を愛する資格が本当にあるのかどうか。蘇芳の手紙にもあったけど、君は高潔だ。侵しがたい美しさがあるんだ。だから、無性に手に入れたくなるのと同時に、
触れずに崇めてずっと清いままにしておきたい気持ちが湧いてくるんだよ。だからこそ、僕のような男がって……」
蕗子は微笑んだ。
「私を……、愛してくれてるのよね?」
「ああ、愛してる……」
「私だけ、よね?」
「君だけだ。君を愛してる。とっても。でも、君は?」
「もしかして、自信が無いの?」
「ああ。自信が無い」
「あんなに、自信満々だったのに。僕たちは愛し合ってるんだ、って強く主張してたじゃない」
蕗子は呆れたように笑った。
「あの時は、自信があった。だって、忌まわしい過去を君は知らなかったわけだし」
「そうね。でも私の方は、あの時の方が自信が無かった。でも、今は違う。今は自分の気持ちに自信がある。いい?言うわよ?耳をよぉーく、かっぽじいて聞いてよ?」
蕗子が小首を傾げて晴明に問いかけると、晴明は嬉しそうに頷いた。
「愛してるわ。晴明さん」
蕗子は顔が赤くなるのを感じた。生まれて初めて口に出す言葉だ。
恥ずかしくてたまらない。だが、しっかりと晴明を見つめた。
この人を愛していると、今は自信を持って言えるのだ。
「蕗子さん……。ありがとう。嬉しいよ」
晴明はにっこりと笑うと、蕗子の体をそっと倒して、その肩先に唇を当てた。
唇が体を撫でまわし、空いた手でジャージのズボンを脱がされ、ショーツ一枚となった。
「ああ、よく似合ってる。素敵だ……」
溜息をつくように言われて、蕗子は質問した。
「どういうこと?」
晴明は、薄い水色のショーツの縁を指先でなぞりながら言った。
「君がここに泊まる事があったら、下着の替えは必需品だろう?用意はしてくるだろうけど、万一の為と思って、君の為に選んでおいたんだよ。勿論、君との未来を夢見ていた時だけどね」
「あら……」
考えてもみなかった事を言われて驚いた。
まさか、そんな事だったとは。
「私の為に……、選んだの?」
ショーツの上から際どい場所を撫でられて、蕗子の声が乱れた。
「そうだよ。君は色が白いし、薄い色が似合うと思った。中でも水色が、きっと良く似合うと思ったんだ」
「あぁ……」
思わず声があがった。
晴明の唇が乳房の先に触れ、そっと舐めたのだった。
手が触れ、その存在を確かめるように揉まれた。
熱い吐息が体をくすぐる。
「手がさ……。絵具と薬品のせいで荒れ気味だから……、ごめんよ。痛くない?」
蕗子は言葉では返事ができなくて、首を振った。
晴明は指先がガサついて痛いだろうと思っているからなのか、鼻先や唇、舌で攻めてくる。
それがたまらなく蕗子を刺激する。そして、その度に晴明の柔らかい前髪が筆でなぞるように蕗子の体をなぞる。
「蕗子さん……」
晴明が蕗子の頬に手を当てて、蕗子に呼びかけた。
閉じていた目を開くと晴明の瞳は揺れていた。僅かに不安の色がある。
「本当に……、いいの?」
蕗子は揺れる瞳を見つめながら、この人の傷は本当に深いんだと思った。
「晴明さん……」
「うん……」
「あなたの愛が……、諦める事ができるものであるのなら、……今ここで、諦めて。二人で、別々の道を行きましょう」
「蕗子さん!」
「……でも、諦められない愛なのなら、貫き通す事を絶対に後悔しないと、誓えるのなら、二人で一緒に行きましょう」
晴明は、暫く瞳を揺らして、蕗子の真意を確かめるように見つめていたが、やがて嬉しげな笑みが浮かんできた。
「諦めるなんてできない。できるものなら、とっくに諦めてたさ。僕たちは愛し合ってるんだ」
晴明の愛撫が前より激しくなり、蕗子の声も大きくなった。
やがて晴明が入って来た時、蕗子は緊張した。だがその緊張もすぐに溶け、繋がっている悦びで満ちて来た。
唇を重ね合い、指を絡め合い、足も絡め合った。
貫かれている場所が喜びで震えている。そしてそれが全身に駆け巡る。
出逢わなければ良かったと、何度も思った。でも今は違う。
出逢って良かった。この人と愛し合えて良かった。
今、深く深く繋がれてるんだと、そう思うと嬉しくてたまらなかった。