第9話

文字数 976文字

髭のマスターは何回か通ってくる僕に疑問をもってくれた。
「お前、仕事。何してんねん?」
「道具屋だよ?薬草と毒消し草は取り扱って無いけどね。アハハッ」

「何を扱ってんねん?」
真顔で聞いてくる髭のマスターに、僕は面白く無さそうな顔をしながら、答えた。

「まぁね・・・。茶道具が主力なんだけどね?刀剣甲冑とか。日本画・掛け軸とかもあるよ。オークションで仕入れて、お客様に売るって会社だよ。

あぁ、でもね、僕は仕入れる部隊でも、売る部隊でも無いんだ。社長に値付けして貰う時に、一緒に居たりとか。とにかく、愉しいよ」

何時かの肩を落としていた青年と「また一緒に吞みましょう?」と言ってくれた女性と二人でお店に現れた。僕は理解した。あの時、肩を落としていた。何だか寂しげであったそれぞれの理由を。二人は愉しげに吞んでいた。微笑ましく想えた。

「やぁ」
ニヤニヤしながら伝えた。何だか、勘ぐっているように受け取られてしまったようで。

「私達は吞み友達だもんねぇー?」

二人はお互いの顔を傾げながらに謂った。是は嘘だぁ~。冬に桜餅・・・。従妹みたいなリアクションをしてくれた子。可愛いので困りはしないと思っていたけどね。彼女・彼氏と別々に会っていたとは。

「うちの嫁っ!!ナンパした奴っ!!誰やっ!!」
勢いよく扉が開いて、店内に怒鳴って来た男性。お客さんは多く。一瞬静かになった後、再びそれぞれの会話がはじまった。

相手は誰だろ?ん~。一人で呑みに自身の妻が行ってもいいか?どうか?みたいなのの。あるなぁ~。そういうの。ナンパされる位の綺麗もしくは可愛い奥さんなんだろなぁ~。可愛いでしょ?綺麗でしょ?の自信を取り戻す為。って感もあるよなぁ。

「お前じゃ、無いからな?」
髭のマスターが小声で僕の顔を見て言った。怒鳴っている男性の元へ向かい、店外へ押し出しながら宥めながら。「えっ?僕?」って。誰・・・?身に覚えがない・・・。

髭のマスターが戻って来て、ずっと。俯きながらオーダーをこなしている。酷く罵られたのだろうか?そうだろうな・・・。お客さんは皆、帰って僕も帰ろう。

「出禁や」
「えっ?」

「出禁やー。言うてるやろ」
「マジで?」

「マジや・・・」
「マジかぁ~」
肩を落としながら、店を出ることにした。この後、どうしようかなって。なりながら。今日はもう家に帰ろうか。そうしようとなって。一人。帰った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み