第3話

文字数 2,536文字

夜の楽しい雰囲気をまた味わえば?と想い別の呑み屋さんへ脚を運んだ。何件か廻ってみて、客層や雰囲気を味わった。

このお店に通おう。決めた。扉を開けると、左手に長いカウンターが部屋の奥まで続いている。奥から2席は区切られている。

カウンター越しに見えるお酒。飾られているかのように列をなしている。1階にあるTVは巨大画面で日頃は70th 80th洋楽が流れている。右手にテーブル席が2席。

上を眺めると此処だけ吹き抜けになっている。奥に進むと突き当たりにトイレが有り、扉近くの階段で2階へ。吹き抜けを眺める様にテーブル席が2グループ分。

右手に通路があり突き当たる窓辺に向いて2グループ分。其処から左手に8人掛けのテーブル席がある。

オリンピックやワールドカップ。それらのお祭り毎に、それらが流れている。臨機応変に。髭のマスターとだけ、話しをするようになった。他のお客さんが居る時は流石に気を使って話し掛けないけど。

「今日は大変そうだね。マスター。めちゃダルがってる。キャハハ」

髭のマスターが自身を鼓舞するように僕にだけ。小声で云った。
「俺にしか出来へんのやぞっ‼‼」

「そうだね。マスター。がんばってっ。フフフッ」

小声で返した。髭のマスターは振り向きサムアップ。にやり顔してマスターは接客を再開していた。

何回か通っていると、忙しい時間帯。男女問わずにお客様が来ると、僕に目で合図した。代わりに相手しろって。なんて面倒臭がりな髭のマスター。

髭のマスターとお噺出来ればそれで良かった。「えー。マジかよ~。」って最初は。回数を熟して幾たびに。(またか。どうせ独り身だからね。まぁ、良いんだけどさ。)隣に座った。

「お噺して貰っても良いですか?」
尋ねるようになっていった。

静かに椅子の動き座る音がした。其方を看るからに、何かに想い悩んでいるようでもあった。カウンターに居る僕の隣に座った女の子は何だか淋しげだった。何時もの合図は無かったけど・・・。なのに僕は話し掛けてしまっていた。

「今日はどうしたの?まぁ、初めましてなんだけどね。アハハ」

「・・・知らないお噺が聴きたいっ」

「へーっ。なるほどね」

俯いていた。その様を看て。若い子は私とお噺してって。しかも、自身の知らないお噺を。だからねぇー?大きい声で。なんて挑発的。挑戦的でもあり、何故だか、悪戯好きの印象を与え接してくれたんだ。感謝した。垣根の無い雰囲気に。幼い頃、従妹の姉妹達とお噺をしているようで、懐かしい。

「急に何故だか知らないけど、愉しげだね」
その女性はンフフッって、笑顔をくれた。見るからに15歳は年下の女性。

僕「そうだな。何にしようかな?んー。そう。ロケットのお噺をするよ。聞いたことは無いんじゃないかな?と想ってね。まぁ、興味も無いんだろうけれども。

・・・当時は、世界初だったAIを搭載したロケットのお噺。僕が携わったロケット。今でこそ、そこまで珍しいことでは無いんだろうけれどもね?

簡単に伝えればね。そのAIは燃料は満タンであるのか?エンジン点火は巧くいくのか?とか。切り離しは巧くいくのか?羽根は巧く動くのか?何てね。

それぞれの事柄を発射前に確認してくれたりするAIだったんだけれどもね。...愛があれば良いんだってお噺。ロケットを発射する為のね?アハハッ」

静かに聴いていた髭のマスター「お前なっ~?」初対面の女性になんちゅうー話をするんだ?と苦笑い。オーダーのやり繰りをしていた。彼女自身は厭そうではなかった。

「君のお噺を聞かせてよ?」

次は私の番~って。嬉しそうに。僕の方に笑みを浮かべ、カウンターにもたれ掛かってから姿勢を正して再び僕の方を見た。ンフフッってね。

「私の仕事は蝦蟇口のお財布を造っている会社で、お店に立って売ってたの。従業員?は700人位。今はね。商品開発に移動して新しい蝦蟇口のデザインをしているの。」

(まぁね。在りがちなね。アレね・・・。お財布をデザインしてるんだね・・・。やべぇーな。たかられるんじゃないの?)

「…なるほどね。男女は対等であるべきだと想うんだ。対等でありたいのであればね。まぁ、割り勘だよ。フフフ」

ニヤニヤしながら告げた。若い子は絵を描いていたのだけれど。フォルムは同じで色違いの作品を見せてくれた。

「この中で好きなのはこれっ!」
若い子の好みはしっかりした色の配置のが気に入っていると伝えられたのだけれど。

「んー。財布はしっかりした人のが良い。それで、探していると?ふんふん・・・。ちゃっかりしてんなぁー。ハハハ。女性はそうあるべきなんだろうね」

僕も絵を描いていて。観て貰った。あの馬の絵を。恥ずかしくなりながらもね。銘「悲しき種馬」離婚してすぐに、イライラとモヤモヤをぶつけて、描き殴った。絵。

無言のまま、スマホを返してくれた。閉店時間になって皆、帰ろうかとなった。

「カラオケに行きたいっ!!!カラオケ一緒に行こっ?」

あまりに唐突な言葉であったのと、前後のお噺の脈略の無さに。マスターと僕は同じリアクションをした。

髭のマスターと僕「はぁ?」(一呼吸おいて)

「・・・歌わないよ。もう辞めたんだ。凡才だって、思い知らされたんだ」

「お前なぁ?カラオケ行けよ?普通やぞそれ?(笑)」

「そうですね。望まれるのであればね。良いですよね?」

如何すればこうなるのか?と想いながら、ハハハッと乾いた笑い。店を出て道を歩いた。

「引っ越しして来たばかりだから。良く知らないんだ。行きたいカラオケ屋さんある?」

若い子は笑顔でこっち。って所作をした。カラオケ店に入って。歌いたい歌だけ歌うだけ歌って。店を出た。つまらない。物足りない。時間を過ごしているようにみえて。僕は満足だった。帰り際。

「また同じ呑み屋さんで逢いましょうー!!!」

可愛い子。約束の意味が良くわからない。連絡先を知らないからね?今日だけでいいんだ。まぁ。当然か。

「えっと。僕は如何すれば良いんだっ!!!キャハハハッ。まぁね。ふわふわしていれば、彼女は出来る」

と想ってはいるのだけれどもね。僕自身はね。あぁ、そう。その後にね、そのカラオケ店に行くと店員さんから「彼氏が一人で来た」と謂われる始末。幸か不幸か?苦笑いしか出来ないけど。よくある。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み