第７話

隣りに座ってくれた女性。何も前置きも無く、隣りに座っていた。僕は、何て失礼な女性なんだ。と想った。その印象は一瞬で振り払われていたんだ。笑顔で私とお噺してって顔でこっちを観てくれた。名前を交換した。、

「良い名前だね。部活とかは何をしていたの？」
「ブラスバンド部。楽器は・・・トランペット」

「其れは格好いいね。巧ければソロパートなんか在ったりするんだろうからね。格好いいね」
「妹が有名な大学付属の高校に受かったんだよ？」
女性はとっても喜んでいて。優しいお姉さんとして、しっかりしている。

「うんうん。優しいお姉さんだね？」

「私が長女なのっ！」
圧強めの感じで急に声が大きくなった。そっか。そっか。と思って。ｱﾊﾊﾊｯ。

｢長女であると言った処でね？人に甘えていけないという理由にはならないんだ。君はもっと、他者に甘える術を、学ぶべきだろうし、巧い頼り方を手に入れるべきだろうね？お節介なんだろうけれどもね？｣

その女性は面白くなさそうに俯いていた。何時もの自己紹介にうんざりしている様に見えた。僕の悪戯心が燻られてしまったんだ。声を低くして。博士みたいに。

｢僕が今まで君と受け応えしていた内容は、君の事を優しく愛おしく。想い見守るべき人間が持っている立場からの定型文。つまり、お決まりの。お約束な文句を伝えた迄だよ。ﾌﾌﾌｯ｣

そういうのが良かったみたいで。とっても笑顔になってくれた。

「酔いましたっ♪」

その後、下ネタで使用されている処の日本単語をずっと謂ってきたんだ。
この私が。エッチな言葉使ったら嬉しいでしょ？って。ずっと笑顔で。

「もう。分かったから。ごめんね？もうからかったりしないから。ｱﾊﾊﾊｯ」
女性は赦してはくれなかった。いじわるな事に。其れは10分以上続いた。

事もあろうに、一人の女性に愚痴をこぼしてしまっていた。弾き金は、その女性が引いてくれたんだけれども。

｢好きな女性はいるの？｣

｢あぁ、それはね。居るよ？当然ね。好きな女性が居ない人生なんて、なんの価値も無い。まぁ、振り向いてはくれていないのだけれどもね？ﾌﾌﾌｯ｣
博士声は続けないといけないらしい雰囲気を感じながら。

その女性は、この噺を聞いて僕に向けて笑顔をくれた。僕とは異なる方向を向いては、こっちを見てを繰り返し繰り返し、してくれていたんだ。私が代わりに振り向いてあげるよって。謂わんばかりに、戯けて魅せてくれたんだ。毎回、笑顔。僕は毎回異なる感情の顔をした。

サービス精神旺盛な女性を目の前に、面白くなってしまった僕は、その女性に続けてこう甘えて伝えた。

「その女性は今日。僕に背中を向けている」
博士声は続く。

その告白を再び聞いてくれたその女性は僕に背中を向けて、振り向いては笑顔をこっちに向けるを、繰り返し繰り返しを、してくれたんだ。何だか緩やかに応援してくれているようでもあった。

｢なんて優しい子なんだろう？｣と思うのは、当然な結果だった。本当に優しい女性。

その時、僕は知っていたんだ。同じカウンターには僕の好きな女性が僕等に背中を向けながらも二つ席を空けて座っていた。親指で好みの子を指した。

多分ね。僕等の会話を聞いて苦笑いをしていたと想うと面白くなって。お噺を聞いてくれていた女性は、僕が好きな女性に時折、目線を送りながら話しているのに、気付かない様な女性ではね。無かった。

噺を聞いてくれていた女性は、僕に愉しそうで良いね。って顔をしながら、僕等のお噺。続きはどうなったの？と聞きたそうだった。

「如何なんだろうね？ﾌﾌﾌｯ」
「今日は帰るね？ﾌﾌﾌｯ」

噺を聴いてくれた子は、ふらふら立ち上がった。
「大丈夫？」
「今日はいいのっ！」

酔っ払いの発言になっている事に僕は驚いた。
「家は近い？」
「お父さんに怒られるから一人で帰らなきゃなのっ！」

「そっか・・・大丈夫？」
一度、笑顔で振り向いた後に手を振って帰っていった。