第5話:岡山の漁の話

文字数 2,784文字

 その後、夏、6月から9月、穴子、「梅雨の水を飲んで大きくなる」と言われる。梅雨明け近くなると、浜に揚がってくるアナゴの量が一年で最も多くなり、最もおいしい季節を迎える。時期を同じくしてウナギもハモも旬を迎え、魚屋さんの店先によく似た「ニョロニョロ体型」の三人衆が並ぶ。姿はよく似ていても、それぞれの味や味わい方は彼らの特徴をよく生かした工夫がされている。

 昔からのその地方の人々のこだわりと自慢があふれる魚たち。アナゴは、ハモやウナギと同じように、日本から遠く離れた南の海の深海まで遠い旅をして産卵する。生まれた稚魚は春先に、独特の透明な柳の葉っぱのような体で群れになって瀬戸内に帰って来て、イカナゴやイワシのシラス漁で沢山獲られてしまう。岡山では春の風物詩として、その稚魚を「べらた」と呼んで生で酢味噌をかけて食べる。

 初夏から真夏にかけて、アナゴの水揚げが増えるとともに、浜の直売所や、街の魚屋さんの店先で開きながら炭火で「焼きアナゴ」を焼き始めます。タレを焦がしながら焼くその香りは、昔も今も変わらず懐かしく、最高である。岡山のアナゴは肉厚だけど、味わいはあっさりと言われる。

 その他、同じ時期、 岡山全域で漁獲されるスズキ。一年を通して水揚げのある身近な魚だが、夏の風物詩としての実力は一流。地元では、夏バネ「スズキ」の洗いの販売促進に力を入れる。スズキのそぎ切りにした切り身を桶の氷水にしっかりさらし、芯まで冷えが回ると身はちぢみ、肌は白く霜降りとなってまるですりガラスの細工物のよう。

 薄口しょうゆに青唐辛子の辛いやつをほんの少し入れ、身の端をちょっと浸して口に運ぶ。ヒヤッと冷たさの後に浅い旨みとほのかな甘み。さらっとした舌触りと生きた身の弾力が程よくかじかんだ切れの良いかみごたえ。活きたスズキを板場でしめて、ぶりぶりする身を即座に切り下したものでなければ絶対にできない技である

 岡山で「かつお」といえば、「まながつお」、山が誇る高級魚。なんと言っても、刺身が最高。岡山の真夏の御造りになくてはならない存在だ。6月、ふぐが去り、さわらが通り過ぎ、真いかも落ちてしまった頃、「流瀬のかつお『まながつお』がやってくる。梅雨のうっとうしい季節が始まる頃には、漁師たちはさわらの網を「かつお」網に積み替え、「流瀬のかつお」漁の準備にかかる。

 漁期はこれから、真夏の盛り、ぎらぎら照り付ける陽を浴びて全長800メートルもある刺し網を「かつお」の通り道に入れて行く。しばらく潮の流れに任せて、網と一緒に流れ、頃合いをみながら揚げ始める。そのうち、揚がる網からキラキラと「かつお」のまばゆい光が見えてくる。「かつお」の鱗「うろこ」はとても剥がれやすい。

 岡山の真夏の御造りになくてはならない存在だ。鮮度落ちがとても早いので、岡山の地元ならではの一品。その身はくせがなくとても滑らかな食感で、脂肪も少なくあっさりとした味。刺身に加えて、照り焼き、味噌漬け、あらの煮付けなどどれも絶品。マナガツオの骨フライ、照り焼き、マナガツオの軟骨ときゅうりの酢のもの、マナガツオのあぶりなど、絶品である。

 その後、秋、9月になると、ままかり「さっぱ」、さっぱり漬けた酢漬けは、あまりのおいしさに食べる手が止まらない。ままかりの名前の由来は、「あまりおいしいので隣にご飯「まんま」を借りに行ってしまう」と言う、お話がとっても説得力がある。岡山名物「ママカリの酢漬け」は、その名前の由来をキャッチフレーズとして、お土産として駅や観光地のお土産店で売られてきた。


 その他、秋には、よしえび「おおぞうえび」このエビは、立派な20センチほどの大きさに成長します。沿岸域で獲れる15センチ以上のものは「おおぞうえび」と呼んでいる。岡山の分限者「お金持ち」のステータスは、名物「祭り寿司」のネタにどれだけ立派なこのえびをどれだけたくさん使うかで決まります。秋の祭りに欠かせない祭り寿司。

その家の「祭り寿司」の豪華さを決めるのがよしえび。あそこはさすがに分限者じゃ。すしのおおぞう「よしえび」の立派なことなどと地元では言われる。そのため豪華な「祭り寿司」を地元では、「分限者『お金持ち』寿司」とも呼ぶようだ。秋も深まり10月を迎える頃。岡山では、里ごとに、祭囃子が聞こえ始めると、いよいよ、わたりがにの季節。 「がねがねーと『蟹がないと』祭りが始まらん」。

「直売所で買うたらすぐ茹でてもらうんで」生きとるうちに茹でないとうまみは半減。「活き蟹がおらなんだら茹でたやつを買うて来い。直売所なら信用が置ける。」 蟹こそ鮮度が命。「漁協の茹で蟹が一番じゃ。」 秋深まると、親蟹にセキ「甲羅の中に卵」が入る。「そうなると、めん蟹『メスの蟹』のもんじゃ。セキの柔いのとみそがほんまにうめえ」

 10月になると、岡山の街の料理屋さんも一斉に「ガザミあります」と張り出される。蟹は、日本国中産地ごとにプライドが強い。タラバ・ハナサキ・マツバ・エチゼン・ケガニ・クリガニ、前浜の蟹が日本一。自慢は尽きない。岡山のプライドは、この蟹。がざみ。わたりがにじゃ。

また、秋10月頃から、「岡山かき」が出回る。かきは二枚貝なんです。二枚貝と言ったらあさりやはまぐり、ほたてが思い浮かぶ。あさりやはまぐりは大きな足を使って砂に潜ります。ほたてがいは大きな貝柱を使って身に危険を感じると殻をパクパクさせて随分な距離を泳ぐ。二枚貝って結構運動するんです。だから筋肉が発達して、そこが食べるとおいしいところなんです。

「かき」は、と言うと、ご存知のようにカキは岩や船底にくっついている。だから足などの筋肉は貝柱以外必要ない。かきは内臓と貝柱だけ。一生をかけてひたすら海水を吸い込んで餌となるプランクトンを吸い取って太る。成長や産卵に必要な養分を目いっぱい蓄えて丸々と元気になる。かきが蓄えた栄養は人間にとっても貴重なもので、だからとってもおいしいん。

 動けないかきだからこそ、丸々と元気に育ってもらうためには、かきにとって居心地がよく、おいしい餌がふんだんにある海を作ってやらなければならない。岡山の漁師さんたちはそのために山に植林します。昔広がっていたアマモの茂みや干潟を取り戻しています。一生懸命「かき」に尽くしています。 「岡山かき」を見つけたらぜひ味わってみてください。

 年の瀬12月になると、ここ岡山でも「げた」が出てくる。げたと言っても、下駄ではなく、魚、舌平目です。、冬の朝、食卓においてある煮つけのにこごり、小げたのからあげの香ばしさ。 小骨がなく、身離れが良いので子供にも食べやすい。低温下に置いておくと煮汁はにこごりになり、美味しいジュレができる。 「げた」は岡山の底魚の代表魚種です。たくさん取れるので安い。
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