9話 転校生

文字数 4,094文字

部屋を出ると、ちょうど寮内放送が流れた。
ええ、バスケ部は集会室に集まること。
繰り返す。バスケ部は集会室に集まることり返す。
スピーカーの声はバスケ部顧問の酒井先生だ。

練習試合が終わったときに、酒井先生が言っていた、編入生のことだろう。
僕は集会室に向かった。

部屋から、みんながそれぞれ、だるそうに出てくる。

その中に、廊下でキョロキョロしている奴がいる。

スピーカーの声はバスケ部顧問の酒井先生だ。

練習試合が終わったときに、酒井先生が言っていた、編入生のことだろう。
僕は集会室に向かった。

その中に、廊下でキョロキョロしている奴がいる。

よく見ると、それは塩崎だった。
何してるんだ、塩崎
あー、弘樹。僕のCDプレーヤー、借りたりしないよね?
CDプレーヤー? 知らないよ。
借りるにしても、無断で借りたりしないぞ
そう・・・だよな
と、塩崎は首をかしげる。
どうかしたのか?
ないんだよ、学習室に置いていたのに
とにかく、今は、集会室に行こう
僕は塩崎の背中を押して言った。
僕が集会室に入ったときには、すでにみんなは集まっていた。

若宮は、嫌がるプーやんとプロレス技をかけてじゃれている。それを見て笑っているのはマネージャーの鈴原だった。

たたみ張りのこの集会室は、タバコの問題や、盗難事件が発生したときなどに、先生と生徒が集まって話し合いをする場所だ。

今日は、酒井先生が練習試合の時に言っていた、転校生の紹介をするのだろう。

鈴原が僕に気づいて、こちらにやってくる。
こんばんはー。男子寮に入るの初めてだけど、 女子寮とあんまりかわんないね
そうなの? 女子寮に入ったことないから 分からないけど
そんなことを話し込んでいるうちに、時間は30分ほど経過していった。

若宮がしびれを切らして部屋に帰ろうとしたとき、酒井先生が1人の男子生徒と一緒に集会室に入ってきた。

転校生だ。

みんな、座り込み、その男子生徒に注目する。その生徒は、色白で痩せており、猫背で姿勢が悪く、無表情のままじっと下を見つめていた。

緊張しているのだろうか?
夕方にチラッと言ったが、転校生を紹介する。
正式には2学期から編入するのだが、寮になれてもらうために、みんながいる少しの間、寮で生活してもらうことにした。

名前は織田切努(おだぎり つとむ)くんだ。 

じゃ、自己紹介して
酒井先生は、頭をボリボリかきながら、事務的に織田切君を紹介した。

織田切と呼ばれたその生徒は、ゆっくり顔を上げてバスケ部を見る。
…織田切努です…よろしくお願いします
それだけ言うと、彼はその後、何も言わなくなった。
そのあまりの簡素な自己紹介っぷりに、僕と鈴原は顔を見合わせた。

織田切君がそれ以上何も言わないことに気づくと、酒井先生は、
ええ、と。確か織田切君はベッドの空いている、B-1号室で生活してもらうことになるんだが・・・
と、僕の顔を見ながら言う。僕はドキリとした。
小川弘樹。 お前、確かB-1号室だったよな?
あ、はい
風呂場での武藤の予想は、見事に的中した。これからは、この編入生と共に生活することになる。
なんか、変わった人と一緒になっちゃったね
鈴原が小さな声で僕にささやいた。織田切君は、こちらを無表情で、じっと見つめていた。僕は気まずくなって思わず目をそらす。
織田切君、わからないことがあったら、小川、あの女の子の横にいる小川弘樹に聞いて。
じゃ、小川、後は頼んだぞ
そう言い終わると、酒井先生はさっさと事務室へ行ってしまった。
みんな、呆気にとられた。
部屋に戻るか。プー、なんかゲーム対戦しようぜ
若宮が転校生にはなんの興味も示さずに言う。塩崎や武藤も立ち上がった。海老原もあくびをしながら、部屋を出ようとした。と、いきなり鈴原が大声を上げた。
あー!
どうした?
コンタクト、落としちゃった!
ええっ!
みんな、ギョッとして立ち止まる。
みんな、その場から動いちゃダメ!
鈴原は自分が落としたくせに偉そうに指示した。それぞれが、つま先を立てるような状態になり、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
ソフトレンズ? それともハード?
塩崎が優しく鈴原に聞いた。
ソフト!
鈴原は目をパチパチしながら答える。

それからみんな、何か変な生き物のように、畳の上にはいつくばった状態でレンズをさがし始めた。

編入生の織田切君は、取り残されたようにただ突っ立っている。
あったか?
武藤がメガネを手で押さえながら言った。
ないなぁ。どの辺で落としたんだ?
海老原が鈴原の側にゆっくりと来て聞いた。
この辺で落としたんだけど・・・
僕もみんなと一緒になって探し始めた。ここは僕が見つけていいとこを見せつけてやろう。どの辺りに落ちてるだろう?目をこらせばわかるはずだ!この辺にあるかなぁ・・・

僕はコンタクトを踏まないように注意深く、足元を探し始めた。

キラッ

ん?何か光るものがある。僕は顔を床に近づけた。

あった、コンタクトレンズだ!
おい、鈴原ぁ、あったぞ!
え? 本当!?
僕は破らないよう、細心の注意を払ってコンタクトをつまみあげた。
ありがとう、弘樹君
僕は鈴原は持っていたコンタクトケースにコンタクトを入れる。
ごめんなさい。皆さん、ご迷惑をおかけしました!
なんだ、気をつけろよぉ
どうして、落としたコンタクトを探す時って、これほどまでに団結するのだろうか?コンタクトが見つかったと分かると、それぞれが自分の部屋に帰っていく。
じゃ、弘樹君。また明日ね。お休みなさい
鈴原も部屋を出ていった。集会室には、僕と織田切君の2人だけになる。
織田切君・・・一緒に部屋に行こうか?
・・・・・・
僕は織田切君を連れて、自分の部屋に向かった。

部屋に戻ると、いつの間にか空きベッドの上には荷物が置いてあった。

きっと織田切君のだろう。織田切君は僕のことなんか、気にもとめずに荷物をタンスに詰め始める。

僕は、自分のベッドに座って、それをじっと眺めていた。しばらくして、僕の視線に気づいたのか、織田切君は動きを止めて、こちらを振り向いた。

目と目が合い、2人の間に、妙な空気が流れる。
あ、あの。織田切君って、何か部活とか入る 予定あるの?
・・・・・・
ほら、僕たちって、バスケ部なんだけど。 部活に入ってないと寮にいても暇だから、何か入ってた方がいいと思うよ
・・・・・・
織田切君は、こちらをじっと見ているだけで、一言もしゃべらない。
あ、スポーツ苦手なんだ
僕が無理に笑って言うと、彼はようやくコクリとうなずいた。

そして、再びバッグの中から荷物を取り出す。

なんか、感じの悪い奴だな・・・まぁ、慣れない環境だから仕方がないのかもしれない。

僕は会話をあきらめて、ゴロンとベッドに横になった。暑かったので、足を伸ばして扇風機のスイッチを押した。ブーンと、扇風機の首が回る。僕は目をとじた。
・・・君
声がしたので、僕はハッとして目を開けた。体を起こすと、織田切君がこちらを見ている。
え、ごめん、何か言った?
・・・・・・トイレ
トイレ? ああ、部屋を出て左に歩いていったら 学習室があるから。そこの前にあるよ
僕が答えると、部屋を静かに出ていった。

・・・・・・・・・・何か、とんでもない奴が部屋の一員になってしまったな。

他の同室メンバーとはうまくやっていけるかな。そんなことを考えながら僕は立ち上がった。彼のベッドの上には大きなバッグの口がパックリと開いていた。

何となく中をのぞき込んでみる。服や生活用品が入っていた。

と、何かがキラッと光る。僕は、何だろうと思い、顔を近づける。

それはサバイバルナイフだった。僕は目を丸くした。

・・・こんな大きなナイフ、何に使うというのだろうか?

僕は、皮の入れ物に入ったそのナイフを手に取ってみた。
ズシリと重い。革製のカバーを外してみる。よく研がれてあり、キラリと光沢がまぶしい。

鋭い刃の反対側は、木などを削るためにノコギリ状にギザギザになっていた。

僕は怖くなり、急いでナイフを皮の入れ物にもどそうとした。

!?

視線を感じて、僕はナイフを持ったまま振り返った。ドアの所に、織田切君が立っていて、こちらをじっと見ている。

僕は、勝手に荷物からナイフを取ったことが恥ずかしくなり、
ト、トイレに行ってたんじゃないの?
と、あわててごまかした。織田切君は、ちょっとムッとした表情で、僕のナイフを奪い取った。僕は罪悪感と恐怖感で何も言えない。
ご、ごめん。すごいナイフだなと思って・・・
織田切君は何も答えない。
そんな大きなナイフ、何に使うの? 先生に見つかったら怒られるよ?
・・・・・・勝手に・・・触るな
織田切君は、無表情なままそう呟いた。

僕は、どうしていいか分からず、ただ、じっと扇風機の羽根を見つめた。

そのとき突然、重い空気を蹴散らすように、若宮がずかずかと部屋に入って来た。
弘樹! 俺のMD(ミニディスク音楽プレイヤー)とバイクのカギ知らねーか?
MD? カギ? 知るわけないだろ
お前も自分の持ち物、盗まれていないか 確かめた方がいいぜ
はあ?
僕は、若宮が何を言ってるのか分からなかった。

若宮は織田切君などは無視して、
みんなのMDがなくなってるんだよ。 いつの間にか盗まれたんだ!
と、わめき散らす。

物がなくなってるって・・・もしかして、盗難!?

僕はあわててベッドの下の引き出しを開けた。

いつも、ここにウォークマンを置いているのだ。
今日、合宿のために寮に来て、ここに入れたのを覚えている。

僕はせわしく引き出しの中を探した。 

・・・あれ? ・・・ない! なくなっている! どういうことだ?
ないぞ、俺のウォークマン! さっきここに入れたはずなのに!
やられたな、弘樹。お前も盗られたんだよ、 誰かに
僕は若宮の顔を見た。盗られた? 誰かが盗んだというのだろうか?
みんな、学習室に集まってる。弘樹も急いで来いよ
そう言うと、若宮は部屋を出ていった。僕はただ事ではないと感じて、織田切君をそのまま置いて、急いで学習室に向かった。
つづく

マップ画面では行きたい場所をタッチするだけで、その場所へ行けます。

行く順番が変わると話の展開が変わったりすることも…

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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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