19話 酒井先生の説得

文字数 1,122文字

俺も、先生に言うのはまずいと思う。特に盗難事件のことがバレたら・・・

最悪、バスケ部が廃部になるかもしれないだろう?酒井先生に言ったところでなんにもならないと思う
塩崎はそれでも不安をぬぐいきれないらしい。
でも・・・
大丈夫だって。これまでも問題が起きたら自分たちで解決してきたじゃないか
僕は塩崎の肩を叩いた。
言わなくてもいいかな・・・
酒井先生に相談してよかったことなんてあったか?今回の件は報告しなくていいと思うよ
僕はきっぱりと言った。
そうだな。そうだよな。自ら事を荒立てることしなくても
塩崎はようやく納得したみたいだった。再び、催促するように放送がかかった。
小川弘樹。至急、男子寮事務室まで来なさい
僕はため息をついた。やれやれ、一体何事なんだ・・・。僕は靴に履き替えると男子寮に向かった。
相変わらず風は強かった。空き缶が目の前をうるさくカランコロンと転がっていく。僕は缶を拾い上げると、近くにあったゴミ箱に投げ捨てた。

ポツン・・・冷たいものを頭皮に感じた。雨か?僕は空を見上げた。雲が空を覆い隠しており、灰色の絵の具が水ににじんでいるように見える。

カランカラン・・・さっき捨てたはずの空き缶が坂道を登るように重力に逆らって転がっていた。木々も踊るように一斉に揺れていた。風がふっと止まり、遠くで1匹の蝉が寂しく鳴いた。

僕は寮に向かう足を早めた。
寮は薄暗く、午前よりジメジメしていた。僕は靴を脱ぐと、スリッパを履かずに、靴下のまま事務室に向かった。ドアを開ける。
小さなテレビからお昼のバラエティー番組の笑い声が聞こえてくる。安っぽいスピーカーからなので、ひどくチャチな音質だ。番組の司会者が何かを言って、

会場の客はドッと笑い声をあげる。顧問の酒井先生は、それをくだらいとでも言いたげな表情で見ていた。
あの、酒井先生
僕はおそるおそる声をかけた。
小川か。遅いじゃないか
酒井先生はリモコンでテレビを消した。とたん、静寂が2人を包み込む。
話というのはだな
はい・・・
嫌な予感がする。酒井先生は単刀直入に話を切りだした。
バスケ部の1年生はみんな帰ったぞ
え?
1年生が帰省したんだ。今日の午前中にな
帰った、といいますと?
あ然として、もう一度聞き返す。
練習に飽きたそうだ。5人中2人は、もうバスケ部をやめるとか言ってたぞ
そんな・・・
なんて奴らだ・・・
練習がいつも楽しいわけないじゃないか。
楽しいことしかない部活なんてそうそうないぞ・・・
そこでだ。もうこの合宿もやめにしないか?

1週間は長すぎる。

お前も知ってるだろう?先生の奥さんは赤ちゃんが産まれそうなんだ。

できれば、出産に立ち会ってあげたいんだ。だからこんな合宿に、先生もつきあってられないんだよ
どうしよう?
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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