45話 遮断された電話線

文字数 2,319文字

弘樹君、取ってみて
僕はおそるおそる受話器を上げた。
はい、もしもし・・・
あのう、僕、バスケ部キャプテンの海老原と申しますが・・・
受話器からは聞き覚えのある声だった。
海老原!?俺だよ、小川!小川弘樹!
え?弘樹か!?お前どうしてそんなところにいるんだよ!?
お前こそどうして事務室なんかに電話して来るんだよ?
って塩崎が消えたかと思ったら、今度は弘樹や鈴原が消えたって言うからひょっとして学校にいるかと思ってさ。鈴原はいるのか?
ああ、いるよ。2人とも無事だ
お前らなぁー、2人でコソコソ何やってたんだよ?
いやいやいやいや、俺たち2人とも誰かに倉庫に閉じこめられてたんだよ!
倉庫に?なんだそれ?それは災難だったな。詳しく教えてくれよ。
僕は詳細を話そうとしたが、急に電話が遠くなった。

しばらく、僕と海老原は「もしもし」「聞こえてる?」などのやり取りが続いた。

台風の影響だろうか? あるとき、電話ははっきりと聞こえるようになった。
あ、そうそう、岡山駅で5時頃、プーやんに会ったぞ
プーやんに?
それでさぁ、アニメバージョンのプリクラがあって、無理やり一緒に撮られて最悪だよ。
俺はプリクラとか恥ずかしいからいいっつってんのに。
俺らとの災難の次元が違うけど、まぁ災難だったな。
ああいうときのプーやんの頑固さにはかなわないから
それで、プーやん、ハラ減ったからって・・・
ピカッと外で閃光が走った。その瞬間、電話がプツッと途切れた。
もしもし?おい、海老原?
受話器からは何も音がしない。今の雷で電話線が切れたのだろうか?
もしもし、もしもし?
繰り返し呼んでみても、やはり反応がない。
どうしたの?
横で見ていた鈴原が不安そうに聞いてくる。
いや、いきなり電話が切れたんだ。音がなんにもしない
停電?
僕は天井を見上げた。部屋の明かりはついている。とすると、やはり電話線が切れたのだろう。電話のフックを押し、数字のボタンを押してみても何も反応しない。

僕らはあきらめて事務室を出ることにした。何だか、この数時間でドッと疲れがたまった感じだ。体がだるくて、鉄のように重い。まるで、何キロも泳いだあとのようだ。
弘樹君、私、すごく眠たいのだけど・・・
鈴原も?俺もたまらなく眠い
この眠さは自然にくるものではなく、なんか強い風邪薬を飲んだときの副作用のような、違和感のある眠さだった。
もう、限界
じゃあ、今晩は寮で寝て、あした朝一番のバスに乗って帰ろう
うん、そうしよ。私はA-3号室で寝てるから
俺は自分の部屋で寝るから。何かあったらいつでも来てくれていいから。
うん、じゃあね。おやすみ・・・
おやすみ・・・
僕はゾンビの様に、ヨタヨタと頼りない足つきで自分の部屋に向かった。
部屋に入ると、僕は濡れた服を脱いだ。このままでは本当に風邪をひいてしまいそうだ。

壁にかかってある寮の時計を見ると、6時40分だった。
腕時計を見ると6時42分。少しだけずれていた。
どちらの時刻が正確かは分からない。

ちなみに、この寮では自前の時計を持ち込むことは禁止されている。

以前、有名な声優のボイスが入った目覚まし時計を自慢げに持ってきた生徒がいたのだが、ある日盗まれてしまったのだ。

犯人は同室の同じく熱烈な声優ファンだった。俺のほうがその声優を愛しているんだと言い訳していたが、最終的には謝罪して別の部屋に移ることでことは収まった。

しかし、鍵をかけられるタンスの中に入れられない私物は極力持ってきてはならない、という寮の規則が追加された。

同室の友達が持ってきていたラジカセも没収されそうになったが、取っ手の部分にチェーン式の鍵をくくりつけるから見逃してくれと懇願して、先生に黙認してもらったようだ。

「盗難」「喫煙」「寮を勝手に抜け出す」

ごく一部の生徒による、この3つの問題行動は先生たちも頭を抱えていた。どれも証拠が残らないので現行犯で捕まえないことには、いつまでたっても問題が解決しないからだ。
盗難品の指紋鑑定、煙草の吸殻の唾液鑑定なんて警察の仕事で先生たちも毎回警察を呼ぶわけにもいかないし、呼ぶほどのことでもない。

一度、生徒がお菓子を全部盗まれたと勝手に警察を呼び、先生たちは「お宅の学校ではどういう指導をされてるんですか。我々も暇ではないんですよ」とメチャクチャ怒られ、警察が帰った後、その生徒が先生にメチャクチャ怒られていた。負の連鎖とはこのことである。

結局は集会室に全生徒を呼び、厳重注意をして、寮のルールが一段階厳しくなるだけなのだ。そして時間が経過すると、そのルールを守る者も注意する者も減っていくのだ。

厳密に言うと、僕が今している腕時計も寮への持ち込みは禁止だ。
だが、夏合宿はバスケ部員しかいないし、先生も酒井先生しかいないから大丈夫だろうと高をくくって持ってきたのだ。

皮肉にも、油断していたバスケ部員は様々なものを盗難にあってしまったわけだが・・・



いろいろなことが起きて、時間がたつのが早く感じられる。外は暗く、窓からはすきま風がひゅーひゅーと唸りをあげていた。
見ると、少し窓が開いており、そこから入りこんだ大量の雨が床を濡らしていた。

・・・カギの閉め忘れだろうか?僕は裸のまま窓を閉めると、近くにあった雑巾を床に出来た水たまりに投げ込んだ。

いや、まてよ。・・・そんなはずはない。確かに鍵は閉めたはずだが。

この小さな雑巾では、床の水をすぐに吸い上げてしまって、役に立たなかった。

その時、僕の背中の背骨あたりがヒンヤリとした。何かねっとりとしたものの一部がピッタリとくっついているのだ。僕は思わず雑巾を動かす手を止めた。雑巾の端からは、これ以上吸いきれない水がチョロチョロとしたたり落ちている。
・・・誰?
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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