10話 うそ発見器

文字数 3,651文字

学習室に入る。海老原、武藤、若宮、プーやん、塩崎の5人が僕を見た。重たい空気が漂っていた。みんなは険しい表情を浮かべている。
「みんな盗まれたって、どういうことだよ?」
僕は事情がよくのみこめず、もう一度説明を求めた。海老原が、腕を組みながら言った。
集会室に集まった後、部屋に戻って、 俺はMDプレーヤーで音楽を聴こうと思ったんだよ。そしたらないんだ、MDが
僕は黙って聞く。
おかしいな、と思って、部屋のあちこちを探していたら、塩崎が部屋に入ってきて、俺のCDプレーヤー知らないかって言ってきたんだ。
これはおかしいって事になって
海老原の横には、プーやんが椅子に座っていた。
プーやん、お前も何か盗られたのか?
僕は何も・・・
ニヤニヤと笑う。プーやんはみんなが物を盗られて、少しうれしそうな感じだ。
弘樹、お前も何か取られたのか?
俺はウォークマンを・・・
僕が答えると、みんなため息をついた。
でも、盗られるっておかしな話だ。今はバスケ部しか寮にはいないんだぞ
海老原が机の上に座って言った。
この中で、誰かが盗ったんじゃねぇか?
若宮がそう言ったとたん、みんなはハッとして黙った。
……
……
……
……
……
僕は下唇をぐっと噛んだ。

海老原さとる、若宮亮太、武藤純一、プーやん、塩崎勇次・・・

この中に犯人がいるというのか?

まさか・・・僕は1人1人の顔を見回した。

そして、ふと、僕はあることを思いついた。今、男子寮にはバスケ部しかいない。そう思い込んでいたが、実はそれ以外の人間もいるじゃないか。今日来たばかりの転校生、織田切努君だ。彼の行動はかなり奇々怪々で、わからない部分が多い。
なあ、あの織田切努っていう転校生が怪しくないか?
みんな僕に注目する。
確かに怪しい!
一番に、若宮が賛成した。
なんか、雰囲気からしてアブねーもんな、あいつ
確かにバスケ部以外の人間っていったら、あの編入生だけだもんな
海老原も同意する。みんな、一刻も早く犯人を決めつけたいのだ。
ちょっと待てよ
武藤が冷静に言った。
俺達が織田切君のことをよく知らないって理由だけで、犯人に決めつけるってあんまりじゃないか?

ただでさえ、新しい学校に転校するって事は緊張するっていうのに。

いきなり犯人扱いするなんて、冷静さに欠けてると思う。
うーん・・・みんなはうなってしまった。
でも、あいつのあぶなさは尋常じゃねーぞ
若宮はそれでも食い下がる。
わ、若宮!
突然、塩崎が若宮の口を押さえた。
な、なんだよ
若宮は驚いて塩崎の腕を振り払う。

僕たちは塩崎の視線を追いかけた。

学習室のガラス越しに、織田切努がこちらを無表情で見つめている。

ゲッ・・・立ち聞きされてたのだろうか?
……
と、とにかく、人を疑ってもきりがない。ここはみんなを信用することにしないか?
武藤が苦し紛れに言った。
織田切君の方を見ると、彼はどこかへ消えていた。

いなくなると分かると、
ケッ。うすっきみ悪い奴だ
と、若宮が言う。

そのあと、しばらくは誰も口を開こうとしなかった。

学習室の壁の掛け時計。秒針がカチカチと張りつめた空気の中を、無神経に時を刻む。窓の網戸には、カメムシなどの虫が、光を求めて張り付いていた。

・・・誰が取ったのか?・・・いつ盗られたのか?・・・なんのためにこんな事を?

様々な疑問が、それぞれの頭を駆けめぐる。

みんな、お互いの目を合わせ、目をそらすという行動を繰り返す。僕は腕時計をみた。デジタル表示で、ちょうど10時30分を示している。

と、プーやんが珍しく、ある一つの提案を切り出した。
いい考えがある
みんな、プーやんの方を見た。
なんだよ、プー
僕、おもちゃの嘘発見器を持ってるんだけど、とりあえず、各々の潔白を証明するために検査をしないか?
プーやんはニヤけた表情を浮かべなんだか楽しそうだ。僕たちはお互いの顔を見合わせた。
・・・面白そうだな
僕は興味本位に言った。
プー、本当にそんなオモチャでわかるのかよ?
若宮が半信半疑で聞く。
フフ、まあ、信じるも信じないも君たちしだいさ。ちょっと待ってろよ
プーやんは、楽しそうに部屋を出ていった。しばらくすると、弁当箱サイズの、赤いプラスチックでできた嘘発見器を持って帰ってきた。そして、机の上に無造作に置く。みんなは取り囲むようにして、その嘘発見器に注目した。
どうやって調べるんだ?
好奇心を隠しきれない表情で若宮がプーやんに聞いた。
ここに2つのソケットがあるだろ?そのソケットに人差し指と中指をつっこむんだ。それで準備完了。後は質問に対して『いいえ』と答えるだけ
プーやんが嬉しそうにしながら答える。
どういう仕組みで嘘が分かるんだよ?
若宮はさらに問いつめる。
それは・・・別に、仕組みなんてどうでもいいだろ
プーやんは仕組みまでは分かっていないようだった。代わりに武藤が口を開いた。
情動の変化に伴って生ずる生理的な変化を測定し、嘘発見に応用してるんだよ。簡単に言えば、人間の体に電気を流した状態で質問に答えてもらう。嘘をつくと動揺して微量の汗をかくから、より多くの電気が流れるんだ。それを関知したら嘘だということになる
専門的なその説明に、みんなは感嘆の声をもらした。
ただ、人を殺しても何も感じないような人間には役に立たないがな・・・
と、とにかく、早く試そう!
プーやんは待ちきれないといったそぶりでソケットをつまみあげる。
百聞は一見にしかず。弘樹、お前がまず試してみろよ
お、俺!?
プーやんは強引に僕の指にソケットをはめ込む。
こ、こんなの、本当に信用できるのかな
僕は慌てた。
イイエで答えろよ。弘樹はマネージャーの鈴原あゆみが好きである
え!? い、いいえ!!
その瞬間、ピンポーン、と嘘発見器が反応した。
・・・これだよ
僕は泣きそうな声を出した。みんな目を丸くして、僕の顔を見た。
フン、やっぱりな。薄々気づいていたんだよ。いやらしい目でいつも見てたからな!
なんてこと言うんだ! 誤解だ!
確かに鈴原ってかわいいからな、弘樹?
海老原が冷やかすように言った。
ち、違うよ! 俺は汗っかきだから、嘘発見器が誤作動を起こしただけだよ!
僕はなんとか弁解しようとしたが、あとの祭りだった。みんなにさんざん冷やかされた後、本題の犯人探しになった。
あなたはみんなの持ち物を盗みましたね?
という質問にイイエで答えていく。
いいえ
嘘発見器は無反応。
あなたはみんなの持ち物を盗みましたね?
いいえ
嘘発見器は無反応。
あなたはみんなの持ち物を盗みましたね?
いいえ
ピンポーン、嘘発見器の赤いランプが点滅し、反応を示す。ハッとして、みんな一斉に武藤を見る。
ちょ、ちょっとまってくれよ!
ふふ・・・言い訳はあとでじっくり聞いてあげるよ。
今は調査を続けよう。

次は僕の番だから、弘樹が質問をしてくれ。
あなたはみんなの持ち物を盗みましたね?
いいえ
嘘発見器は無反応。
あなたはみんなの持ち物を盗みましたね?
いいえ
ピンポーン、嘘発見器が武藤と同じように反応を示す。
・・・・・・!!
そして最後に僕。
あなたはみんなの持ち物を盗みましたね?
いいえ
嘘発見器は無反応。

結果、武藤と海老原の2人が反応を示したことになる。
おい、海老原と武藤! お前たちのどちらかがやったのか?
若宮が自分の潔白が証明されたことをいいことに、2人にきつく問いつめる。
待てよ、若宮。この嘘発見器、おかしいよ。俺は絶対に取ってないし、こんなオモチャで犯人扱いされるなんて、そんなバカげたことはないだろ?
まさか自分に嘘発見器が反応するとは思ってもなかったのだろう。武藤はかなり焦っていた。
そうだよ。こんな嘘発見器なんて、人の体質によって、反応の大きさが変わるはずだろ
海老原も弁解する。プーやんはみんながもめているのを、ただただ、楽しそうに眺めている。

やってる、やってないの議論は平行線が続いた。
ふふ。今の実験は電流の流れを小さくしてやったんだ。もう少し大きくしてからもう一度やってみるか?
プーやんは、嘘発見器のダイヤルを回しながら言った。僕はため息をついた。ふと、僕はあることを思いついた。そうだ、あの転校生の織田切君にも、嘘発見器をやってもらったらどうだろうか?
おいみんな、あの転校生の織田切君っているだろ。彼にもやってもらったらどうだ?
僕はみんなに提案した。プーやんが再び目を輝かせる。
おいおい、そりゃあんまりだぞ。転校してきてすぐに犯人扱いするなんてかわいそうだろ
いや、弘樹の言うとおりだ。あいつに容疑がかかってもおかしくないだろう。今日からここの男子寮の一員なんだから
僕はちょっと考えた。

やはり、情けは無用。彼にもやってもらう。僕は、
一応確かめるためにだよ。な、いいだろ?
と、武藤たちを説得した。武藤は露骨に嫌な顔をしたが、
そこまで言うなら・・・
と、あきらめてくれた。僕たちはゾロゾロと織田切君のいるB-1号室へ向かった。
つづく
寮での盗難事件と嘘発見器のエピソードは作者が高校時代の実体験を元にしています。ぜひゲームでも疑心暗鬼をお楽しみください。
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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