51話 目覚めた場所

文字数 1,938文字

予想は的中し、暗闇の人物は、光るものを手にしていた。

サバイバルナイフだった。
んーんーんー!!
僕は必死に助けを求めようとしたが、まともな声が出ない。

グチュッ・・・

痛みはなかったが、なにか鋭いものが腹部に突き刺さる感触がした。

刺されたのだ。

その人物は、何度か抜き差しの動作を繰り返すと、満足して部屋を出てどこかへ行ってしまった。

血まみれになった僕と鈴原は、どうすることもできなかった。

僕は最後の力を振り絞って、鈴原の手を探し、握った。

鈴原も力なく、握り返してきた。それが最後だった。

腹部からの出血は、ゆっくりだが確実に僕の服を赤く染めていった。

やがて僕の血と鈴原の血が混ざり合って、文字通りこの部屋は血の海と化していった。

意識が遠のいていく。
不思議なことに、だんだんと気持ちがよくなってきた。
夢と現実の境界線を行ったり来たりしている感覚。
弘樹! 鈴原! 大丈夫か!

今助けを呼んでやるからな!
僕の名前を呼ぶ声がする。

誰だ?

頬を叩かれた。痛い、何するんだ。
しばらくすると、その人物は僕の唇を奪った。

人工呼吸か??
やめてくれ・・・僕のファーストキスを奪わないでくれ。

・・・意外と柔らかい唇なんだな。

とても眠たい。
寝かせてくれ・・・

お願いだ・・・もう何も見えないんだ。
僕はすべてが無になっていく感覚を感じていた。
・・・光だ。
とてもまぶしい。
僕はゆっくりとまぶたを開いた。

・・・ここはどこだ!?

見知らぬ、天井。
体中の節々が痛い。

僕はどうなったんだ?
包帯や薬品の匂い。

僕は、鼻に突っ込まれたチューブがうっとうしくて、取り外そうとした。
弘樹! おいみんな、弘樹が目を覚ましたぞ!
ホントか!?
見たことある人達だ。
みんな笑ってる。

仲間。
バスケ部のみんなだ。
弘樹、お前もう死んじまうのかと思ったぜ!
大丈夫か、弘樹? 俺はそろそろ意識が戻るって思ってたんだよなー
メガネを光らせる武藤純一。
でも、本当によかった。峠は超えて、命に別状はないって医者に言われても心配するもんな。
キャプテンの海老原さとる。
俺は・・・どうしてここに? 何が起きたというんだ!?
僕は頭が混乱して、パニック状態に陥った。

塩崎・・・そうだ、塩崎が天井裏で・・・
塩崎! そう、塩崎はどうなったんだ!?
僕は大きな声を出して聞いた。

長い間、沈黙が続いた。病室の外からは子どもたちが遊ぶ声が聞こえてくる。
・・・亡くなったよ
武藤がうつむきながら、絞り出すように静かに答えた。

死んだ・・・そうか・・・やっぱり死んでいたんだ。

僕は頭を抱え込んだ。
大丈夫? 弘樹君
僕はハッとして鈴原を見た。鈴原の怪我は大丈夫なのだろうか。
うん・・・私は弘樹君より傷が浅くて。

私は病院に運ばれる途中からずっと意識を取り戻してたぐらい。
そうは言うが、車椅子に乗った鈴原の腹部の包帯が痛々しい。

聞くと、絶対安静にしなければならない鈴原を若宮が車椅子をどこからか拝借して無理やり僕の病室に連れてきたらしい。
それにしても、いま新聞やマスコミはえらい騒ぎだぜ。

塩崎が殺されて、その上、弘樹や鈴原までもが刺されて
若宮が新聞を僕に渡しながら言った。

『市立岡山高原高校男子寮で男子生徒、遺体で発見』

新聞の一面には、大きく見出しがついており、
学校の敷地外から撮影されたであろう男子寮の全景写真が掲載されてある。

塩崎はフルネームで掲載されていた。僕や鈴原は実名の代わりに男子生徒A、女子生徒Bなどと掲載されてあり、とても不思議な気分で実感がわかない。

新聞によると、僕たちが刺された8月4日の朝方、何者かが匿名で警察に通報したらしい。

すぐに救急車や警察が駆けつけると、刺されて倒れている僕と鈴原が発見され、その日の朝には天井裏の塩崎の遺体も発見された。

犯人はいまだ分からず。

犯行にはトキフェンタニルという強力な麻酔作用のある薬品が使われたとか。
比較的手に入りやすい商品から、簡単に精製できるものらしい。

この事件は、未だに多くの謎を残している、という文で記事はしめくくられていた。
すこぶる快晴で、蝉の鳴き声がうるさいぐらいに病室に聞こえてくる。

台風は岡山を上陸した後、さらに北上し、日本海上空で勢力を弱めたらしい。

あの事件の夜、岡山市では54ミリという記録的な豪雨となり、道路は冠水し、交通も麻痺して、朝まで大混乱だったそうだ。


学校の近くに主にリハビリを目的とした病院があったのは、不幸中の幸いだった。

僕と鈴原は、いったんその病院に運ばれた後、応急処置を受け、2時間かけて車で山を降り、市内のこの大きな病院に移されたらしい。
失礼します
突然、病室によれよれのスーツを着た大きな男が入ってきた。
あ、望月さん・・・
鈴原がその男を見てそう呼んだ。
知ってる人?
うん、この事件を担当している警察の方
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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