17話 埋葬

文字数 1,505文字

生徒用倉庫の中には、未使用の掃除道具や、スコップなど、こまごまとした日用品が収納されてある。

僕は重い扉を力を込めて開けた。倉庫の中は以外と広く、むき出しのコンクリートのニオイが立ちこめており、外に比べるとヒンヤリとしている。

何ヶ月も閉めきったままだったので、空気がなんというか、カビ臭い。思わずせき込む。
大丈夫?
鈴原の声が響いた。
肺の奥にホコリが入った感じ
僕は咳き込みながら胸の辺りをさすった。ブーンと何かが僕の周りを飛び回った。ハエだった。僕は何となくハエを目で追ったが、視界からフッと消えてしまった。天井を見ると、グルグルとバカみたいに旋回している。ハエは壁に止まると、旋回していたときとは打って変わってぴくりとも動かなくなった。
弘樹君、スコップあったよ
鈴原が、腰ぐらいの高さのスコップを取り出して言った。
あぁ、ごめん、探させてしまって
僕はそう答えて、鈴原から2本受け取る。2人は生徒用倉庫から出た。扉を閉めて、僕らは男子寮の裏にある赤土の場所へ向かった。
赤土の所へ行き、スコップを海老原達に渡すと、10分もたたないうちに大きな穴が掘られた。そして、そのあとすぐにペンペンの死体も運ばれてくる。
さて・・・埋めようか
海老原が暗い声でつぶやいた。若宮とプーやんが黒いビニール袋を持ち上げる。その弾みで袋からペンペンの死体がドサッと転がり落ちた。
ひゃっ!
鈴原が変わり果てたペンペンの死体を見て小さく叫んだ。ペンペンにまとわりついていた小さい虫が飛んできて、僕の顔の前で螺旋を描くように旋回する。

反射的に、手で払った。

ザッ・・・ザッ・・・いつの間にか、プーやんが足で穴を埋め始めていた。
チクショウ・・・チクショウ・・・誰がこんな事を・・・
プーやんはうっすらと涙を浮かべていた。ペンペンを拾ってきたのはプーやんだ。

今思えば、ペンペンが一番なついたのはプーやんだった。

プーやんも人一倍、ペンペンをかわいがっていた。

犬小屋を建てたのもプーやんだ。
プー・・・
若宮がプーやんの肩に手を置き、何かを言おうとして口をつぐんだ。

慰めの言葉が見つからなかったのだろう。

プーやんは手で目をぬぐった。

僕たちはスコップで、ペンペンの上に土をそっとかけていった。どんどんペンペンが見えなくなっていく。全部の土をかけると、僕たちはそこが墓だと分かるように大きめの石を置き、近くに咲いていた花を供えた。

ペンペンの埋葬が終わる頃には、お昼を過ぎていた。僕たちは体育館に向かった。
下駄箱でバスケットシューズに履き替える。そのとき、ふとあることを思い出した。そうだ、1年はどうしたんだろう?ペンペンのことで1年のことをすっかり忘れていた。もしかしたら、1年だけで練習しているかもしれない。そうだったら悪いことをしたな。僕はそう思いながら重い鉄の扉を開いた。
しかし、体育館の中はもぬけの殻だった。あれっ。
1年はどうした?
海老原が中をのぞき込んで言った。
しょーがねーなぁ。俺達がいないことをいいことに、サボってんだろ
若宮が靴ひもを結びながら言った。
それにしても、ハラ減ったな・・・
プーやんがその場に座り込んだ。さっきまで泣いてた奴がもう食欲復活してる。僕は体育館の壁時計を見た。12時10分。
お昼にする?お弁当持ってこようか?
そうだな。昼飯を食ってから練習にするか
海老原がみんなを代表して答えた。
じゃあ、食堂に行って、お弁当温めて持ってくるね
鈴原が無理に明るい声を出した。

鈴原が靴に履き替えて行こうとする。僕は、
僕も手伝うよ
と声をかけた。振り向く鈴原。
ありがと。でも大丈夫だよ、一人で
鈴原が笑顔を返す。そして、パタパタと足音を残して行ってしまった。
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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