35話 捜索 その2

文字数 1,623文字

男子寮に入ったとたん、僕は時計の針の音に気がついた。カチカチカチと激しく音を立てている。僕は壁時計を見てみる。なんと、時計の分針がグルグルと回っている。
どうなってるんだ?壊れてるのかな?
僕は首をかしげた。それよりも、塩崎を捜さなくては。僕は事務室に向かった。
・・・失礼します
おそるおそるドアを開ける。事務室では酒井先生が壁にあるパネルを開いて、何やらスイッチを押したり戻したりしている。
何だ、小川じゃないか。塩崎は見つかったのか?
いえ・・・
僕が首を振ると、先生はテレビをつけてチャンネルをニュース番組に合わせる。
本当に・・・塩崎はどこいっちまったんだ、くそっ
先生は何をやってるんですか?
あ?これか。寮内に取り付けてある壁時計の時間が狂ってたから、補正してるんだ。ここのスイッチひとつで全ての寮内の時計を制御できるからな
・・・なるほど。それでさっき、壁時計の分針がグルグル回っていたのか。

しかし、そんなことをする暇があったら、一緒に塩崎を探せばいいのに。
もし・・・
先生が続けた。
塩崎が見つからなかったら、他の先生にも連絡しようと思う。それでも見つからなければ・・・
・・・
警察だな
僕はそれを聞いてドキッとした。
そうならないように、よく探すんだ。いいな
は、はあ・・・
僕は小さな声で返事をした。そして、軽く頭を下げると事務室を出た。
僕は武藤の部屋に入った。部屋には武藤がいて、ベッドの下の引き出しを開けて、何かを調べている。
武藤?
僕が背後から声をかけると、
わ、驚いた
武藤は慌てて引き出しを閉めた。
何してるんだ?
え、いや、別に・・・
妙によそよそしく答えた。

武藤にしては珍しく動揺している。こんな武藤は初めて見た。
弘樹・・・
真剣な顔をして武藤が話しかけてくる。そして、一度廊下に顔を出し、誰もいないことを確認すると、ドアを閉めた。
どうしたんだよ?
僕が笑って言うと、
これはまだ誰にも言うなよ
何だよ?
・・・いや、やっぱりやめとく
おいおい、言いかけてやめるなんて、気になるじゃないか
いや、何でもないんだ。気にしないでくれ。俺、ちょっと別の部屋を調べに行くから、あとでな
そう言うと、武藤はさっさと部屋を出ていってしまった。

いったいなんなんだ。

何が言いたかったんだ?

変な奴。いつまでもここにいても仕方がないので捜索を続けるか。
僕は海老原の部屋の前にやってきた。部屋の中から人の気配がする。僕はおそるおそるドアを開けた。中にいたのは武藤だった。海老原の部屋で、武藤が何をやっているのだろう?

先程からどうも行動が怪しい。
武藤、何やってるんだよ、こんな所で?
え、あ、弘樹かよ、また驚かすなよ
別に驚かしてないよ
僕はそう言って、武藤に近づいた。
何か気になることでもあって調べてたのか?
いや・・・別に
何だよ、さっきから変だぞ、武藤
そうか?
武藤はメガネをかけ直した。
実は・・・分かったんだ
分かった?
いや・・・でもこれはあくまで俺の予測であって、証拠が・・・
武藤はまるで独り言のようにブツブツとつぶやいている。

こちらからすれば、武藤が何を言っているのかさっぱり分からない。
何が分かったのか教えろよ
いや、今は言えない。言えるときたら言うよ
はあ・・・
武藤はバスケ部の中でも、飛び抜けて頭の回転が速く、時々、みんなが武藤の思考速度についていけなくなるときがある。

ただ、今回は妙に芝居じみているというか、武藤の真意がまったく読み取れなかった。
これが本当だったら、絶対に許さないぞ・・・
武藤が小さな声で震えながら言った。その声には殺意さえ感じられる。
ど、どうしたんだよ、武藤・・・
え?いや、別に。独り言
そうか・・・今すごい顔してたぞ
僕がそう言うと、武藤は苦笑しながら部屋を出ていった。

何が分かったというのだろうか?

塩崎の居場所でも分かったのだろうか?それとも分かったフリをしているのだろうか?

よく分からないが、ここでずっと考えていてもらちがあかない。塩崎を探そう。

僕は海老原の部屋を出た。
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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