11話 タンスの中身

文字数 1,760文字

部屋の中からは物音が聞こえる。織田切君は中にいるようだ。ガラガラとドアを開ける。
僕たちが部屋に入ると、織田切君はあわてて何かをタンスに隠した。若宮もそれを見たらしく、僕と目を合わせる。織田切君は、突然の来客に何事かと警戒していた。海老原は、ゴホンとわざとらしく咳をすると、僕たちを代表して説明する。
あのう、織田切君。転校してきてすぐにこんな事をするのは悪いとは思うんだけど、ぜひ協力してほしいことがあるんだ
僕たちは織田切君の表情をうかがおうとしたが、彼は無表情のままだった。海老原は続けた。
実は、僕たちのMDプレーヤーや、CDプレーヤーが今日のうちにして、どこかへ消えてしまったんだ。そこで、織田切君を疑っているわけじゃないんだけど・・・この嘘発見器をやってくれないかな?
僕たちは彼の答えを待った。織田切君はゆっくりと、僕たち一人一人の顔を見つめる。僕たちは蛇ににらまれたように、動けなかった。
やっぱり、嫌だよね。ごめんね
武藤が沈黙に耐えきれずに言う。みんながあきらめかけたとき、織田切君は指をそっとさしだした。
いいんだな、いいんだってよ、プー。早く準備しろよ
プーやんは、おそるおそる織田切君の指にソケットをはめて、嘘発見器のスイッチを入れた。そして、ダイヤルを調節すると、質問を始めた。
イイエで答えて下さい。あなたは、僕たちの貴重品を取りましたね?
・・・緊張の瞬間。僕たちは織田切君をじっと見つめた。
・・・いいえ
ようやく口を開いた。しかし、嘘発見器は何の反応も示さなかった。みんながホッとしたとき、若宮が一言つぶやいた。
どうでもいいけど、お前、さっき何かタンスに隠しただろ?
その瞬間、嘘発見器が激しく反応した。あわててソケットをはずす織田切君。
お前、俺達に何か隠してるだろ!ちょっとみせろよ、タンス!
若宮がタンスのドアを開こうとする。織田切君は急に立ち上がって、タンスの前に立ちはだかる。
見せろって言ってるだろう!
若宮は織田切君を強引に押しのけ、バタンと勢いよくドアを開けた。みんな、タンスの中を見て、ギョッとした。
そこには一体の日本人形が置かれてあった。予想もつかない展開に、僕たちはあっけにとられた。まるで、夜になると髪が伸びる、なんて怪談話に出てきそうな人形だった。若宮がぼう然としていると、織田切君は人形を大事そうに取って、
・・・お守りなんだ
にらみつけるように言った。
人形は何でも見てる。僕は盗ってないって言ってるよ・・・
僕たちは気の利いたことは何も言えず、
ご、ごめん・・・
と言うのが精一杯だった。織田切君は、急いで元の場所に人形を置くと、タンスのカギを閉めて部屋から出ていってしまった。取り残されたバスケ部員。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
な、なんだ、あいつ・・・
若宮がようやく口を開いた。
人形を大事そうに抱え込んでたよね
塩崎が無理に笑顔を作って言う。

頭おかしいんじゃねーか?
海老原が僕の顔を見て言った。
なんか、変わった奴と一緒になったな、弘樹
同情する武藤。僕は、なんて言っていいのか分からず、ただうなずいた。

異様な空気を残したまま、部員たちはみんなそれぞれの部屋へ帰っていってしまった。

僕は、なんだか眠たくなり、ベッドに入った。天井を見つめながら今日1日を振り返る。

いろんな事が起きた。ペンペンがいなくなるし、盗難事件は起きるし。その上、転校生の織田切君は、変な奴だし。

なんだか、さい先の悪い夏合宿になってしまったな。

ガラガラとドアが開く音がする。ドアの方を見ると、相変わらず無表情の織田切君が立っている。さっきのこと、怒っているかな・・・
あ、もう寝るから、電気、消してくれるかな?
僕はおそるおそる言った。織田切君は、ドアの横にあるスイッチを押した。部屋が暗くなる。

織田切君は、音も立てずに自分のベッドに入り、布団をかぶった。

僕は、タオルケットから出た足を中に入れて、目を閉じた。虫の音がこの男子寮を包み込む。

学校の近くを通った車の走る音がグオーッと聞こえ、遠ざかっていった。

織田切君の寝返りを打つ音が何回か聞こえたが、しばらくすると静かになって眠ってしまったようだ。

僕もどっと疲れが押し寄せてきて、いつの間にか深い眠りに落ちていった。
合宿2日目につづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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