50話 逃げる選択

文字数 1,276文字

ええっ?
耳を澄ませると、確かに足音がこの部屋に近づいてくる。
ほ、本当だ・・・
僕はつばをゴクリと飲み込んだ。

・・・誰だろう?
塩崎を殺した犯人だろうか?

コツ、コツ、コツ・・・
足音はだんだん大きくなってくる。
どうしよう、弘樹君!?
僕は鈴原の手をギュッと握り、
逃げよう!
と、足音の人物に聞こえないよう小さな声で言った。
逃げるってどこに!?
食堂に向かって一気に走り出そう。
いいか? まず俺が囮になって先に飛び出すから、安全が確認できたら、それにつづいて鈴原も俺を追ってくれ。

もしも犯人が僕を追いかけていったなら、反対方向に逃げるんだ。足音を立てないように。
食堂ね。絶対に待っててよ、弘樹君
鈴原は不安でたまらないようだった。

ドアの隙間から廊下をのぞいてみても、真っ暗で何も見えない。

何者かが息を殺して暗闇に潜んでいるのだろうか?
僕はそっとドアを開けた。
行くぞ・・・!
小さな声でかけ声をかけると、僕は部屋を飛び出して左に曲がり、一気に食堂へ向かって突っ走った。

暗闇の恐怖と戦いながら、僕は無我夢中で走った。
気がつくと、僕は食堂のドアに手をついて、ハアハアと息を切らしていた。

・・・鈴原は?
僕は今来た道を振り返った。
鈴原?
・・・誰もいない。

逃げ遅れたのだろうか? それとも反対方向に逃げてくれたのだろうか。
僕は鈴原の安否が気になって仕方がなかった。
鈴原・・・鈴原いるか?
何度か声をかけてみたが、鈴原がやってくる気配がない。

どうしよう?

今なら、僕だけでもこの寮から逃げ出すことは出来る。

しかし、鈴原を置いて1人だけ逃げ出すなんて、僕には出来ない。

一生に一度くらい、男気を見せつけてやってもいいのではないか。

覚悟を決めて、僕は元の部屋へ戻ることにした。
犯人が追ってくる様子もなかったのに、どうして僕の後についてこなかったのだろう?
鈴原の身に何かあったのだろうか?

手探り状態で、ようやくA-3号室にたどり着いた。
鈴原、いるか?
ささやくように呼びかけたが、返事はない。

さっき飛び出した部屋のドアはきっちりと閉められている。
おかしいな・・・
僕はおそるおそるドアを開けてみた。

すると、鈴原が部屋の真ん中で苦しそうに倒れているではないか。
鈴原っ!
僕は思わず大きな声をあげ、鈴原の所へ駆け寄った。

抱き上げた鈴原に意識はない。

なま温かい感触が、直に肌で感じ取ることが出来た。
何だ!?
よく見ると、それは血だった。
どうしたんだ、鈴原!?
うーん・・・
鈴原はうめき声をあげるばかりで、返事をしない。
意識が朦朧としている。

この匂いは・・・

倉庫でもした、甘ったるい匂いが鼻をついた。
背後からなにか人の気配がする。

僕はハッとして後ろを振り向いた。
人のシルエットがくっきりと浮かび上がっている。
だ、誰だ!?
そう言うやいなや、僕はその人影に布のようなもので口を押さえ込まれた。
ぐっ・・・
強烈な刺激臭が鼻を襲う。

みるみるうちに体が硬直し、僕はその場に倒れた。
抵抗しようとしても、体が麻痺して思うように動かない。

首が紅潮し、顔からは汗が滝のように噴き出してくる。

・・・殺される。
僕は直感的にそう思った。
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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