43話 暴風雨の中

文字数 1,381文字

ほら、あそこに見えるの
鈴原が指さす先に、確かに小さな人影が見える。あたりが薄暗いのでよく見えないが、メガネをかけていて、あの風貌からすれば武藤に違いない。多分…
本当だ。でも武藤の奴、あんな所で何やってるんだろう・・・
3時のバスに乗り遅れたのかな?
そんなことより、助かるチャンスだよ!
僕と鈴原はありったけの力で叫んだ。
おーい!武藤!助けてくれ!閉じこめられてるんだ!
武藤くーん!助けて!お願いだから気がついてー!
しかし、声は暴風雨にかき消され、武藤らしき人物は反応してくれない。いつの間にかその人影はどこかへ消えてしまっていた。
武藤・・・オーイ・・・
武藤君・・・助け・・・
僕も鈴原も叫びすぎて声が枯れてしまった。
もう、声が出ない・・・
私も・・・
2人とも、その場に座り込んでしまった。もう駄目だ・・・と思った次の瞬間、ドアの方から物音がした。
カシャンッ!
弘樹君、今の音・・・
ドアのカギが開いた!?
僕は急いで立ち上がり、ドアの方に駆け寄った。

しかし、急に怖くなった。ドアの向こうには一体誰がいるというのだ。
助けてくれたとすれば、向こうから声をかけてくるなり、ドアを開けるなりしてくるはずだ。

なのに、無言で鍵を開けるなんて・・・

しかし、こちらもいつまでもじっと待つわけにも行かない。
意を決してドアノブをゆっくりと回してみる。

ドアはあっけなく開いてしまった。
鈴原、開いたぞ!
本当!?
ドアを開けた瞬間、強い風と雨が倉庫に吹き込んでくる。

一体、誰がカギを開けたんだろうか?

僕はおそるおそる外に出てみた。

・・・誰もいない。鈴原も僕のあとに続いて出てきた。
誰かいるの?
いや、誰もいないみたいだ
雨は地面に叩きつけるようにザーザーと降り、ときおり激しく雷が落ちた。風も強く、髪が逆立つ勢いだ。
弘樹君、最終のバスに間に合うかもしれないよ!
鈴原が風や雷の音に負けないよう、大きな声で叫んだ。
無理だよ、もう6時5分を過ぎてる!
行ってみなきゃわからないじゃない!
こんな天候の中、バス停で待つなんて危険だよ!
何かが飛んできて当たったらどうする!?

とにかくいったん男子寮に戻ろう!
僕がそう強く言うと、鈴原はようやく納得した。

二人は寄り添うように男子寮に向かう。強い風で体ごと吹き飛ばされそうだ。
駐輪場の前を通るとき、鈴原が突然駐車してある1台のバイクの所へ駆け寄っていった。
鈴原、どうしたんだよ!
ちょっと気になることがあって
鈴原は、バイクのメーター部を熱心にのぞき込んでいる。

屈みこんだと思ったら、マフラーに手を近づけたりしている。

何をしているんだ。雷は記者会見でのカメラのフラッシュのように連続して閃光を放った。次は自分たちの頭に落ちるんじゃないかと思うと、ヒヤヒヤする。
鈴原!危険だから早く行こう!
わかった。ごめんなさい
ようやく男子寮にたどり着いたときには、2人ともびしょ濡れになってしまった。
助かった・・・
誰かに電話して、これまでの事を連絡しなきゃ。

みんな心配してるかもしれない。
鈴原がそう提案すると、僕はうなずいて、男子寮の玄関のドアを開けようとした。しかし、カギがかけられている。もうみんな帰ってしまったらしい。

そのとき、遠くの森林からバキバキと音が聞こえてきた。
見ると、細い木が風でなぎ倒されている。これはヤバイ。
どうしよう、カギ、かかっちゃって中に入れないね
大丈夫、こっちだ!
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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