48話 背後から

文字数 2,056文字

嫌な考えが頭をよぎった。ブレーカーが落ちたのではなく、・・・故意に落とされた?

心臓を握られたような圧迫感を感じていた。
キャアアアア!!
すると突然、1階の方から女性の叫び声が聞こえてきた。鈴原の声だ。
鈴原っ!!
何があったのだろう!?心臓が張り裂けそうなほどバクバクと脈を打っている。
事件はいよいよ終局を迎えようとしている。
・・・助けに行かなくては!!!

ゆっくりとドアを開け、僕は廊下に出た。

少しだけ暗闇に目が慣れてきたが、それでも手探りで進まないと体を壁にぶつけてしまう。
鈴原の部屋、どこだっけ・・・
僕は恐怖を紛らわすため、わざと声に出してつぶやいた。
わっ!
何かに足を取られ、僕は無様に床に転んでしまった。

立ち上がろうとしたとき、背後から人の気配がした。

一瞬の出来事だった。気が付くと、誰かの手が僕のくちびるを歯に押しつけていた。甘ったるい匂い。

僕の体は硬直した。何が起こったのか分からない。

!?っ
状況を把握するのに、しばらく時間がかかった。何者かが背後から僕の体をがっしりとつかんでいる。
フガ・・・フガ・・・
僕は抵抗しようとしたが、口に押し当てられた布からする甘ったるい匂いを嗅いでから、体がしびれて動かない。

次の瞬間、体に衝撃が走った。

僕は膝をガクンと地面に叩きつけると、そのままうつぶせで倒れ、顔を思い切り床に打ち付けた。

膝の皿が割れる感触がした。以前、試合中に一度、割った経験がある。

しかし、不思議と痛みはなかった。


う・・う・・・うう・・・
声が出ない。

口の中でヌメッとしたなま温かい血の味が広がった。歯が折れたのだろうか?

僕は恐怖のあまり今まで経験したことがないほど心臓が高鳴り続け、体がそのたびにビクビクと震えた。

その人物は、僕の体を重たそうにゴロンとひっくり返した。
薄暗い天井が見える。

・・・ひどく苦しい。血が喉に詰まって、呼吸がヒューヒューと音を出す。

人物の顔は暗くてよく見えないが、笑っているように見えた。

・・・何をするというんだ?

恐怖だけが増幅し、僕はいっそのこと気を失いたかった。

キーン、という耳障りな音が頭の中で大きく響いた。キラリと何かが光る。
サバイバルナイフだった。

僕は目を大きく見開き、一刻も早く逃げろと全身に命令を下した。しかし、体は硬直している。

・・殺される。ナイフを持ったその手は、大きく振り上げられた。

鈴原の助けを呼ぼうとしたが、口からは虚しく血の混じったよだれが垂れるばかりだ。

思い切り、そのナイフは僕の胸に振りかざされた。

刺された。喉の奥から、洪水のように何かが吹き出す感覚を覚えた。瞬間、口から大量の血が吐き出された。
うーーーーーーーーーーーっ
僕の体は、意思とは無関係にビクンビクンと痙攣を起こす。

逃げたくても逃げられない。

その後、その人物は繰り返し、何度も僕を刺した。めった刺し。

なんだか、豆腐に包丁を入れるように摩擦感がなかった。
血もすぐには出ない。

恐怖が極限まで来ているのか分からないが、痛みはない。硬いものがスッスッと体の中に入っていくのだけが分かった。
たまに肋骨に当たって、それが痛かった。そのたびに犯人は舌打ちをした。

次は助骨に当たらないよう、腹部を刺した。

しばらくすると、血が出てきた。それもたくさんの刺されたスリットから。

一つの傷から出た血は隣の傷から出た血と一つになり、それらのなま暖かい液体が僕の体を覆い尽くし、シャツと皮膚がぐちゃぐちゃに引っ付く感覚が分かった。

僕はぐったりして天井を見つめていた。意識はぼんやりとし、眼球すら動かすことが出来ない。

血は脇腹を通り、背中側の布に染み込んでいく感覚がゆっくりと伝わる。
シャツに吸いきれない血液は床に広がっていった。

その人物は満足したらしく、最後にナイフを胸に突き刺したままにすると、コツコツと足音を響かせて行ってしまった。

僕が死んだと思ったらしい。

自分の体がどうなっているのか分からなかった。

口からは絶えず血が流れていたが、どうすることもできなかった。呼吸をすると、うがいをしてるような音がループした。
口の中の血が増えていき、呼吸することすら困難になってきた。

血液が食道に入り込んで、肺に逆流してきた。苦しい。

どうしてこんな事・・・



その時、僕の部屋の奥から、人の声がした。幻聴だろうか?・・・いや、確かに声が聞こえてくる。ボソボソとだが、なんとか聞き取ることが出来た。
・・・2時の気象ニュースです。大型台風7号は、中国地方を通過し、なおも北上し  て熱帯低気圧になりました。なお、突風に十分注意して・・・
きっと、ラジカセのタイマーが起動して、ラジオが流れているのだろう。僕の頭の中で、あることに気が付いた。

・・・2時の気象ニュース!?

・・・そうか・・・そういうことか・・・分かったぞ! 様々な事件の謎が、1本の線につながった。

頭の中で、犯人の青白い顔が浮かび上がった頃、僕の意識は完全に失ってしまった。そして、二度とこの世に意識を呼び覚ますことはなかった。

もう、どうでもいい。

僕は、死んだのだから。
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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