16話 じゃんけん

文字数 1,826文字

とにかく
ペンペンの死体の第一発見者、武藤がメガネを拭きながら言った。メガネをいじるのは彼の癖だろう。
ペンペンをあのままにしてたらかわいそうだろう。早くどこかに埋めてやらないと
みんなはうなずいた。
そういえば、昨日来た転校生はどうしたんだ?
海老原が思いだしたように言った。しまった!ペンペンのことで頭がいっぱいで、織田切君を連れてくるのをすっかり忘れてた。今頃、お腹を空かせているかもしれない。
ま、いいや。あんな奴。ペンペンの埋葬に取りかかろう
外は風が強いらしく、木々がザワザワと音を立てて揺れている。昨日の夜中、ラジオで言っていた台風の影響だろうか?石がコロコロと転がり、ガラス張りのドアにカツンと当たった。
さてと・・・
海老原が口を開く。
ペンペンを埋葬しに行くか
でも、どうやって死体を運ぶ?
武藤がテーブルに寄っかかるようにして言う。

プーやんが厨房の方からひょっこりと顔を出して、
これに入れて運ぼう
と、黒いビニール袋を取り出して言った。

黒いビニール袋・・・ペンペンを殺した犯人もあれに入れて運んだんだろう。

夜中、もし犯人が1人なら、廊下で引きずるようにして。

ひょっとしたら、寝ている間、犯人は僕の部屋の前を通ったのかもしれない。
で、誰が運ぶんだ?
よし、じゃんけんで決めよう。負けた奴2人がペンペンを運ぶ。勝った2人が生徒用倉庫からスコップを持ってくる。残った3人は穴を掘る
海老原が腕組みをしながら提案した。
よし、それでいこう
みんなはそれに賛成する。

1つのテーブルを囲むようにしてじゃんけんを始めた。

僕は、グーをだした。僕と鈴原以外はみんなチョキをだした。

僕も鈴原もグー。つまり、僕と鈴原は一発で勝ってしまったことになる。
じゃあ、俺と鈴原はスコップを生徒用倉庫から持ってくればいいんだな
じゃんけんの結果、海老原と若宮とプーやんが穴掘り、武藤と塩崎が死体運び、僕と鈴原がスコップを持ってくることになった。
弘樹君、行こうか
僕たちは、食堂を出た。
誰もいない廊下に、僕と鈴原の足音だけが響く。

風が強いためか、今日は蝉の鳴き声はまったくと言っていいほど聞こえてこない。

湿度が高くじっとりとしており、汗でシャツが肌に張り付いてしまう。
ペンペンを見つけたのって・・・弘樹君、だよね?
鈴原が僕の様子をうかがうようにして聞く。
武藤の悲鳴を聞こえたから行ってみると・・・ナイフでめった刺しにされていた・・・
僕は、ペンペンの無惨な姿を思い出した。あれはもうペンペンではなかった。変わり果てたペンペン。そのしかばねは今もこの寮の2階にそのままにしてある。一体、誰があんな残酷なことをしたというのだろうか?
早く2階の生徒用倉庫に行こう
立ち止まって考え事をしている僕を見て、鈴原は声をかけた。
あ、ああ。ごめん
僕は倉庫に向かって歩き出した。

と、その時、僕の頭の中で、あることを思い出した。

織田切君だ。

彼はナイフを持っていた。そう、カバンの中にあったサバイバルナイフだ。あれでペンペンを刺し殺したのではないだろうか。

僕の背中に悪寒が走る。僕は犬を殺すような奴と夜を共にしたのか!?

今からB-1号室に行って確かめるのも怖い気がする。

・・・どうしよう。僕は倉庫に行くか自分の部屋に行くか迷った。

僕は自分の部屋に向かった。と、ドアの所で織田切君と鉢合わせしてぶつかりそうになった。
おっと! 織田切君、大丈夫?
僕は少しビックリして、声をかけた。
・・・・・・・
何も答えない。織田切君はリュックを背負ってどこかへ行く格好をしている。

リュックの中には何が入っているのだろう?
お、織田切君。ど、どこかへ出かけるの?
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
やはり何も答えてはくれない。じっとこちらを見据えたままピクリとも動かなかった。僕は昨日の夜の事を思い出した。わけの分からないことを口走っていたが、あれは寝言なのだろうか?

まあ、そんなことはどうでもいい。
弘樹君、そんな所で何してるの?

あ、織田切君、だったよね?おはよ!
・・・・・・
・・・・・・
沈黙が続いた。
弘樹君、早くスコップを取りに行かなくちゃ
うん・・・
織田切君は、僕たちのやりとりを無視するように、どこかへ行ってしまった。

織田切君の姿が完全に見えなくなると鈴原が口を開いた。
彼、無口な人だね
ああ。昨日からほとんど何もしゃべってくれないんだ
嫌われてるんじゃないの?
鈴原だって無視されただろ
じゃあ、私も嫌われてるのかもね
僕と鈴原は生徒用倉庫に向かった。
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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