21話 散々な練習

文字数 1,734文字

昼食を取り終えると、僕たちは練習を始めた。

試合をするには人数が足りないので、基礎練習を繰り返す。

シュート、パス、ドリブル・・・

いつもやっていることなのだが、今日はみんなミスを連発して、練習にならない。原因は分かっている。ペンペンのことだ。もう、盗難事件のことなど、どうでもよかった。

ペンペンは誰に殺されたのだろう?

部外者がやったのだろうか?この山奥にわざわざやってきたのだろうか? まだこの辺にウロウロしているのだろうか? それとも、まさかバスケ部の中に犯人が?

様々な疑問が、頭の中で繰り返される。バスケに集中しようとしても、どうしても邪念が付きまとった。午後になると、風はいっそう強まり、天井はみしみしと不気味な音を立てていた。

鈴原はパイプ椅子に座ったまま、ボーっと僕たちの練習を見ているだけで、いつものような元気はなかった。
もう・・・駄目だ
プーやんが体力を失って、床にべたっと座り込んだ。

それを見ても、誰も注意しなかった。いつもより、体力の消耗が激しい。精神的な疲れから来るものなのか?
よし、じゃあちょっと休憩するか
海老原がみんなを見かねて声をかけた。

僕はその場に座り込むと、グビグビとコーヒー牛乳を飲んだ。

僕は紙パックのコーヒー牛乳が好きで、鈴原が特別に用意してくれた。

水分が体中に染みわたるようだ。腹にもたれるけど。僕は飲み終えると、空になった紙パックを床に置いた。

そして、大の字になって、寝そべった。ゆっくりと目を閉じる。何だか眠たくなってきた。昨日の夜、あまり眠れなかったからだろう。前の日の疲れが残っているのだ。僕はだんだんとウトウトし始めた。
よし、練習始めるぞ
海老原が大声を出したので、僕はビクンと弾かれるように目を覚ました。
いつまでも寝てんじゃねーよ、弘樹
若宮が足で僕の体をつついた。僕は目をこすりながら起きあがる。
こら!ボーっとしてると怪我しちゃうよ!
鈴原が顔の前でパンパンと手をたたいた。

頭がボーっとして、思考能力が低下している。僕は気合いを入れるため自分でも頬を軽くたたいた。

しかし、練習はさんざんだった。海老原と武藤の連係プレーは見られず、どこかギクシャクしていた。

若宮は思うようにプレーできないことにイライラしてプーやんに八つ当たり。

そのプーやんは、もはやバスケをしている選手には見えない。

塩崎も、小さなミスを繰り返している。

僕はといえば、バスケの練習に集中せず考え事をしていた。

1年が急に帰りやがった。どういうことだよ・・・俺たちと一緒に練習するのがそんなに嫌なのかな?みんなで声をそろえたようにグルになって帰っちゃって。グルになって・・・!?

僕はあることを思いついた。ひょっとして、盗難事件を働いたのは1年生じゃないか?

持ち帰るために帰ってしまったのでは・・・しかし、盗難品をどうするというのだ?

質屋にでも売るのだろうか?いや、あんな中古品、売ったところで大した金にはならないだろう。そんな端金のために、同じ部の先輩の物を盗み出すリスクは、割に合わない。

仮にそうだとしたら、ペンペンを殺したのも1年なのか?

何のために?

まったく筋の通らない話に、自分でも頭が痛くなる。

おい弘樹! パスいったぞ!
え?
僕は我に返り、声のする方を振り向いた。目の前にボールが迫ってきて視界が真っ暗になった。

バチーン!!

顔にビンタを食らったような激しい痛みが走る。僕はそのまま倒れてしまった。しばらくして顔面にボールが直撃したことを理解した。
弘樹、何やってんだよ!!
若宮が駆けつけてくる。体を起こす。鼻から、なま暖かい液体がたれる感触がした。

鼻に手を当ててみると、指先に血が付着した。

海老原に休憩してろと言われ、ベンチに座っていると、鈴原が声をかけてきた。
ボーっとしてたけど、何か考え事をしてたの?
ん? いや、別に・・・
僕は曖昧に答えた。

こうして2日目の練習は終わった。
部屋に戻ると、織田切君は読書に没頭していた。

僕は疲れていて、彼に声をかける気力もなくベッドに横たわった。

腕時計を見ると、5時30分。

7時に夕食が出来ると鈴原が言っていたので、それまで1時間半も時間がある。

僕はそれまで一眠りしようと思った。靴下だけ脱ぐと、僕はうつぶせのまま眠りに落ちた。
つづく
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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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