1話 暗闇の男子寮

文字数 2,129文字

この物語はiPhone版「消火栓」という犯人推理ノベルゲームを原作者様監修の元、ディレクターが1つの物語につながるように編集したベストシナリオ版です。


より多くのユーザーの皆様に「消火栓」を楽しんでいただけたらと思います。


「事件編」「解決編」主人公たちの5年後のストーリーである「サブストーリー」まで全シナリオすべて無料で公開していましたが、2018年5月末をもって全話の公開は終了しました。ご利用ありがとうございました。


今は1話~55話まで公開中です。ぜひお楽しみください。

それではここからノベル版ベストシナリオ「消火栓」をお楽しみ下さい。

バスケ部の夏合宿。

8月3日未明。


暗闇の中で事件は終局を迎えようとしていた。


岡山高原高校、男子寮、A-3号室にて。

・・・が・・・犯人・・・信じられない!

鈴原は、顔を手で覆って、その場に崩れた。

その時だった。

廊下の方から、誰かの大声が響いてきた。

弘樹! 逃げろ! あいつがすぐ近くにいるぞ!

逃げろ!?

あいつが近くに!?

どういう意味なんだ!?



突然、部屋のドアが開いたかと思うと、何者かが猛烈な勢いで部屋に飛び込んできた。

うぉおおおおおお!!

その人影は、サバイバルナイフを片手に、鈴原に向かってきた。


すべての世界が、まるでスローモーションのようになった。



よく覚えていないが、僕はとっさの判断で、鈴原に体当たりをした。



鈴原はベッドに吹き飛び、気がつくと僕はその人物と重なるように床に倒れていた。

ぐあぁぁ!!

腹部に鋭い激痛が走る。

・・・ナイフで・・・刺されたのか!?


男がナイフを抜き取ると、自分でも信じられない量の血液が、噴水のように吹き出した。
慌てて、傷口を手で押さえる。


しかし、指と指との隙間から血はあふれ出た。倒れて天井が見える。
弘樹くんっ!!
駆け寄ってくる鈴原。
ちっ・・・
人影は窓ガラスを突き破ると、闇に消えていってしまった。

しまった・・・顔を確認できなかった!!
あれは本当に「あいつ」だったのだろうか!?
弘樹くん! 大丈夫!? しっかりして!!
うう・・・鈴原・・・
すごい血・・・急いで止血しなくちゃ・・・
もう・・・ダメだよ・・・
何言ってるの!? すぐに救急車を呼んでくるから!!
それを聞いて、僕は鈴原の手をグッとつかんだ。
いかないでくれ・・・ここに・・・いてほしい・・・
どうして!? このままじゃ弘樹くん、本当に死んじゃう!!
無駄だよ・・・電話は・・・つながらないはずだ。
ここで、1人ぼっちで死ぬのは・・・嫌だ・・・
もう、僕は助からないと分かっていた。

こんな山奥の全寮制の学校の近くに公衆電話はない。

鈴原が学校を出て、誰かに助けを求めて救急車を呼ぶには、少なくとも30分以上はかかるはずだ。
僕はそれまで待っている自信がなかった。
弘樹くん・・・私、どうすれば・・・
鈴原は今にも泣きそうな顔で、その場に座り込んだ。
恥ずかしいけど・・・手を・・・握っててくれないかな・・・
僕は無理に笑って、そう言った。

鈴原は両手で、僕の手をギュッと握りしめた。
しかし、手の感覚が薄れてきて、鈴原の手のぬくもりを感じることはもう、出来なくなっていた。



・・・死ぬ。



死ぬってこういうことなんだ。

最後に・・・鈴原に何を言おうか?

そうだ・・・自分の気持ちを鈴原に伝えよう。
最期に告白したって、罰は当たらないだろう。
鈴原・・・最後に・・・聞いてほしいことがあるんだ・・・
何・・・?
鈴原はそれが涙なのか鼻水なのか分からないほどに顔を濡らして号泣していた。
俺・・・鈴原のこと・・・
意識がどんどん薄れていく。

早く・・・言わないと・・・

鈴原は何も言わず、じっと僕を見つめている。


僕は最後に力を振り絞って言った。
鈴原のこと・・・好きだったらしい・・・

いや、今でも好きです
・・・弘樹くん・・・
死への恐怖心はなかった。

好きだという気持ちを心に残したまま、死んでいける僕は幸せかもしれない。
むしろ、幸福感につつまれていた。

鈴原の声を最後に、僕は深く、暗い闇へと意識が遠のいていった。

・・・ありがとう、鈴原。

もう、泣くなよ。
俺、鈴原の笑顔が好きだったのに。


ずっとずっと笑っていてくれ。


ずっと、ずっと・・・
どうしてこんなことになったのだろう。

夏休みを利用したバスケ部の夏合宿が始まった初日はこんなことになるなんて夢にも思わなかった。

僕は普通の高校生で、普通に友達と騒いだり、普通にテスト前に焦って勉強したり、テストで赤点をとって先生や親に怒られて友達に笑われて落ち込んだり、普通に部活をしたり、ときにはサボったり・・・

普通に恋愛もしたかった。普通に告白とかしちゃったりして・・・告白はしたか。

普通にふられたりするのかな。それとも付き合うことになって、普通に手を繋いだり、普通かどうかはわかないけど、キスをしたり・・・

それを友達に自慢したり・・・普通に・・・

そう、僕は普通の高校生活を送りたかっただけなんだ。


どうして、こんなことになったんだろう・・・


僕は、そんなことを暗闇で考えることもできなくなり、
完全な無への世界へ堕ちていった。
時は約3日前の1998年8月1日にさかのぼる。

つづく

物語の分岐は400箇所以上。

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登場人物紹介

「小川弘樹」

主人公。密かに鈴原あゆみに恋してる普通の高校生。でも鈴原が好きな事はみんなにバレバレ。鈴原が近いと少し声が大きくなるからだ。

最近、ワックスは髪型を自由に変えられる魔法の練り物だと思ってる。

「鈴原あゆみ」

バスケ部のマネージャー。とにかく明るくて、いつも笑顔を絶やさない。
明るすぎて悩み無用と思われてる。そんなわけないでしょ! と一応怒った事もある。
弘樹は怒った顔も可愛いと思った。

「海老原さとる」

バスケ部キャプテン。力強くみんなを引っ張っていく。多少強引なところもある。

あまり女の子の話とかしないので部員に疑われた事もあるが、普通に女の子が好き。らしい。

「武藤純一」

文武両道で、バスケもうまく、頭脳明晰。優しく、皆が熱くなった時も冷静に答えを導こうとする。殴られたら殴り返す男らしい一面も。

いつもメガネがキラリと光る。人の3倍くらい光る。風呂に入る時もメガネをつけるので、体の一部と言われている。横顔になるとメガネのフレームの一部が消えたりはしない。

メガネが外れると3みたいな目になる。

「若宮亮太」

ヤンチャな性格で、言いたい事はズバズバ言う。プーやんをいつもいじってる。背が少し低い。そこに触れると激怒するのでみんな黙っている。

「人をいじっていいのは、逆にいじられても怒らないこと、お笑いの信頼関係が構築されてることが条件だ」と武藤に冷静に指摘されたが、その時も怒った。

沸点が低い。というより液体そのものが揮発してる。

いつもプーヤンをいじってるが、格ゲーでボコられてる。すぐにコントローラーを投げるのでプーヤンにシリコンカバーを装着させられてる。

怖い話とか大好き。

「長野五郎」

略してプーやん。いや、略せてないけど、なぜかプーやんと呼ばれてる。いつも減らず口ばかり叩いてる。若宮にいじられながらも一緒にゲームしたりと仲が良いのか悪いのか謎。ゲームとアニメ大好き。犬好き。

将来の夢はゲームクリエイター。意外と才能あるのだが、恥ずかしいのか黙っている。

エクセルのマクロを少し扱えるので、自分はハッカーの素質があると言った時は武藤にエクセルを閉じられなくするマクロを組まれた。

「塩崎勇次」

おっとりした性格で、人からの頼みは断れない。心配性。
心配しすぎて胃が痛くなる事も多く、胃薬を持ち歩いている。

キャベツは胃に良い、だからキャベジンはキャベジンって言うんだよ、というエピソードを3回くらい部員にしてる。

黒いシルエット。それはが誰なのか、男なのか女なのか、しかし、人である事は確か、という表現ができる。少なくとも猫ではない。

だいたい影に隠れて主人公たちを見てニヤリと笑い、だいたい悪いことをする。
この作品では初っ端からアクティブに大暴れしてる。

酒井先生。バスケ部の顧問だが、スポーツに関する知識はない。

奥さんの出産が近いため、そわそわしている。

織田切努(おだぎり つとむ)。謎の転校生。

夏休みで、寮に慣れるためにやってきたらしい。 

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