支配者からの仕事の褒美
文字数 2,011文字
「アランです。指示通り」
「良いよ、入って」
アランの話を遮る様にして、部屋からはニコライの声が響いた。この為、アランはドアを開け、ニコライの待つ部屋へ入る。
「お疲れ様、アラン君。さっそくだけど、感想を聞かせて貰おうか」
それを聞いたアランは、数回大きく瞬いてから口を開いた。
「感想を……ですか?」
この時、辿々しいアランの話し方に気付いたニコライは、微笑しながら言葉を加える。
「そう、感想。薄汚い雌の面倒を見てきた感想、だよ?」
ニコライは、そう言うとアランの顔を見上げた。一方、アランは僅かに瞼を痙攣させ、一呼吸置いてから話し出す。
「ただ餌に食い付くだけ、ただそれだけの家畜。餌を与える際にしか近付きませんし、睨んで来るばかりで愛玩動物の様な可愛げもない。ですが、あちらから関わって来なかったので楽な仕事でした。振り払うなどの乱暴は出来ませんので、その点は運が良かったと」
アランは、そこまで言ってニコライを見る。この時、ニコライは満足そうな笑みを浮かべながらアランの話を聞いていた。
「成る程、ね。どうなるかと思ったけど、上手くいった様で良かったよ。君が睨まれることは金輪際無いし、文句は無い……よね?」
そう言って首を傾げ、ニコライは聞き手の反応を待った。彼の問いに対する答えは一つしか許されず、アランはただ一つの答えを口にする。
「はい。初めての経験でしたが、上手くいって良かったです。文句など、ある筈もありません」
アランは、そう返すとにこやかな笑顔を作ってみせる。一方、彼の話を聞いたニコライは、数回頷いてから口を開いた。
「それなら良かった。あれに未練でも残っていたら、お仕置きしなきゃだったから」
アランは目を丸くし、僅かに唇を離した。そんな彼の様子を見たニコライと言えば、どこか満足そうに頬を緩める。
「もしかして、お仕置きが怖いのアラン君? それとも、お仕置き内容が何か気になった?」
そう問うと、ニコライはアランの目を見上げた。対するアランは、少しの間を置いてから答えを返し始める。
「恥ずかしながら、怖いですね。それがどんな内容であれ、怖いものは怖いです」
アランは、そう伝えると苦笑いを浮かべながら指先で軽く頬を掻いた。すると、ニコライは小さく頷き、息を吐き出す。
「まあ、誰だって嬉しくは無いだろうね」
呟く様に言うと、ニコライは目を細めて口角を上げる。
「逆に、ご褒美はどうかな? ちゃんとお仕事をしてくれた御礼も兼ねて」
それを聞いたアランは、戸惑いの表情を浮かべる。そして、何度か大きく瞬くと、幾らか高い声で言葉を発した。
「ご褒美……ですか?」
「そう、ご褒美。アラン君も、たまには外気を吸った方が良いだろうしね」
言って机の引き出しを開け、ニコライは一枚の書類を出した。彼は、それを指先で摘まんでアランに見せ、楽しそうな声で告げる。
「外出許可証。これに署名してくれたら、君の行きたい場所に行って良い。当然、監視はつけさせて貰うけどね。下手なことを言わない様に、首輪も必須だ。それでも外出したいなら署名すれば良い。監視のこともあるから、日時は僕が決めさせて貰うけど」
ニコライは、そこまで話したところで首を傾げた。
「どう、欲しい?」
そう問われたアランは、直ぐに答えを返すことが出来なかった。すると、その様子を見たニコライは、書類を摘まんだまま両の掌を上に向ける。
「必要ないなら、それでも良いけどね? もう何も未練がないなら、僕はそれで構わない」
ニコライは、言い終えたところで書類を机上に置いた。
「どうする、アラン君?」
「署名します。残してきた連中が気にならないと言えば、嘘になりますから」
それを聞いたニコライは、腕を伸ばしてペンを手に取った。
「じゃ、署名しよっか。下手なことさえしなければ、悪い様にはしないから安心してね?」
言って、ニコライはペンを持った手をアランの方へ向けた。この為、アランはニコライへ近付き、礼を述べながらペンを受けとる。そして、自らの名を書類に綴ると、ペンをニコライへ返した。
「素直な人間なのか、強かな人間なのか、僕には分からなくなってきたよ」
ニコライは、小さな声を漏らすと書類に書かれた名を確認する。
「うん、確かに。これで、外出時に四六時中監視されても文句を言えなくなったね」
楽しそうな笑いを浮かべ、ニコライは自らの名をアランの署名の下欄に綴った。ニコライは、そうしてから顔を上げ、微笑みながらアランを見る。
「これで、今日の用事はお仕舞い。具体的な日時が決まったら、また連絡する」
そうニコライが言った時、部屋で待機していたエルが出入り口のドアを開けた。この為、アランはニコライへ別れの挨拶をして退室する。
アランが部屋を出た後、ニコライは書類を見下ろしながら細く息を吐いた。そして、椅子の背もたれに体を預けて手を組み、そのまま静かに目を瞑った。
「良いよ、入って」
アランの話を遮る様にして、部屋からはニコライの声が響いた。この為、アランはドアを開け、ニコライの待つ部屋へ入る。
「お疲れ様、アラン君。さっそくだけど、感想を聞かせて貰おうか」
それを聞いたアランは、数回大きく瞬いてから口を開いた。
「感想を……ですか?」
この時、辿々しいアランの話し方に気付いたニコライは、微笑しながら言葉を加える。
「そう、感想。薄汚い雌の面倒を見てきた感想、だよ?」
ニコライは、そう言うとアランの顔を見上げた。一方、アランは僅かに瞼を痙攣させ、一呼吸置いてから話し出す。
「ただ餌に食い付くだけ、ただそれだけの家畜。餌を与える際にしか近付きませんし、睨んで来るばかりで愛玩動物の様な可愛げもない。ですが、あちらから関わって来なかったので楽な仕事でした。振り払うなどの乱暴は出来ませんので、その点は運が良かったと」
アランは、そこまで言ってニコライを見る。この時、ニコライは満足そうな笑みを浮かべながらアランの話を聞いていた。
「成る程、ね。どうなるかと思ったけど、上手くいった様で良かったよ。君が睨まれることは金輪際無いし、文句は無い……よね?」
そう言って首を傾げ、ニコライは聞き手の反応を待った。彼の問いに対する答えは一つしか許されず、アランはただ一つの答えを口にする。
「はい。初めての経験でしたが、上手くいって良かったです。文句など、ある筈もありません」
アランは、そう返すとにこやかな笑顔を作ってみせる。一方、彼の話を聞いたニコライは、数回頷いてから口を開いた。
「それなら良かった。あれに未練でも残っていたら、お仕置きしなきゃだったから」
アランは目を丸くし、僅かに唇を離した。そんな彼の様子を見たニコライと言えば、どこか満足そうに頬を緩める。
「もしかして、お仕置きが怖いのアラン君? それとも、お仕置き内容が何か気になった?」
そう問うと、ニコライはアランの目を見上げた。対するアランは、少しの間を置いてから答えを返し始める。
「恥ずかしながら、怖いですね。それがどんな内容であれ、怖いものは怖いです」
アランは、そう伝えると苦笑いを浮かべながら指先で軽く頬を掻いた。すると、ニコライは小さく頷き、息を吐き出す。
「まあ、誰だって嬉しくは無いだろうね」
呟く様に言うと、ニコライは目を細めて口角を上げる。
「逆に、ご褒美はどうかな? ちゃんとお仕事をしてくれた御礼も兼ねて」
それを聞いたアランは、戸惑いの表情を浮かべる。そして、何度か大きく瞬くと、幾らか高い声で言葉を発した。
「ご褒美……ですか?」
「そう、ご褒美。アラン君も、たまには外気を吸った方が良いだろうしね」
言って机の引き出しを開け、ニコライは一枚の書類を出した。彼は、それを指先で摘まんでアランに見せ、楽しそうな声で告げる。
「外出許可証。これに署名してくれたら、君の行きたい場所に行って良い。当然、監視はつけさせて貰うけどね。下手なことを言わない様に、首輪も必須だ。それでも外出したいなら署名すれば良い。監視のこともあるから、日時は僕が決めさせて貰うけど」
ニコライは、そこまで話したところで首を傾げた。
「どう、欲しい?」
そう問われたアランは、直ぐに答えを返すことが出来なかった。すると、その様子を見たニコライは、書類を摘まんだまま両の掌を上に向ける。
「必要ないなら、それでも良いけどね? もう何も未練がないなら、僕はそれで構わない」
ニコライは、言い終えたところで書類を机上に置いた。
「どうする、アラン君?」
「署名します。残してきた連中が気にならないと言えば、嘘になりますから」
それを聞いたニコライは、腕を伸ばしてペンを手に取った。
「じゃ、署名しよっか。下手なことさえしなければ、悪い様にはしないから安心してね?」
言って、ニコライはペンを持った手をアランの方へ向けた。この為、アランはニコライへ近付き、礼を述べながらペンを受けとる。そして、自らの名を書類に綴ると、ペンをニコライへ返した。
「素直な人間なのか、強かな人間なのか、僕には分からなくなってきたよ」
ニコライは、小さな声を漏らすと書類に書かれた名を確認する。
「うん、確かに。これで、外出時に四六時中監視されても文句を言えなくなったね」
楽しそうな笑いを浮かべ、ニコライは自らの名をアランの署名の下欄に綴った。ニコライは、そうしてから顔を上げ、微笑みながらアランを見る。
「これで、今日の用事はお仕舞い。具体的な日時が決まったら、また連絡する」
そうニコライが言った時、部屋で待機していたエルが出入り口のドアを開けた。この為、アランはニコライへ別れの挨拶をして退室する。
アランが部屋を出た後、ニコライは書類を見下ろしながら細く息を吐いた。そして、椅子の背もたれに体を預けて手を組み、そのまま静かに目を瞑った。