契約者の末路
文字数 2,520文字
それから数日後、ニコライがアランの元に訪れた。ニコライはアランに決心出来たかを問い、問われた者は肯定の返事だけをする。その後、ニコライはアールに目配せをしてアランをベッドから解放した。この際、アランは二人に対して礼を言い、ニコライは手を前後に軽く振った。
「仕事前に体の動かし方を思い出して貰わなきゃだからね。相手は、体格的に劣るとは言え複数だ。窮鼠猫を噛むとも言うし、状態を整えておく方が良いからね」
ニコライは、そう言って冷たい眼差しをアランへ向ける。
「試して貰いたいものがあるけど、それがちゃんと効くかは分からない。その時は、君が、君の手で、二人の意識を失わせなきゃならないからね」
そこまで話して笑みを浮かべ、ニコライは尚も話を続けた。
「傷も塞がっただろうし、食事も普通のものを摂って良い。決行は明後日だ。詳しいことは、移動中に同行者から話させる。それまで決心を鈍らせないことだね」
そう伝えると、ニコライはアールに目配せをしてから部屋の出入り口を見た。すると、アールは直ぐにドアを開け、ニコライはアランへ部屋を出るよう命令する。この為、アランはその命令に従って部屋を出た。そして、彼はニコライらに付き添われる形で自室まで戻る。
部屋の前で、ニコライはアランに決行まで他の仕事はないことを伝えた。そして、必要の無い場所には行かない様に言い含め、アランが自室に入るのを見届けてからその場を離れた。その後、アランは一日の殆どを自室で過ごし、人気のない時間に食事を摂った。そうしているうちに時間は過ぎていき、ニコライが告げた決行日となった。
決行の日、アランは落ち着かない様子で同行者を待った。しかし、それは昼になっても現れず、夕方になって漸くアランの元へ現れた。
ニコライが用意した同行者は二人おり、その体格はアランと大差無かった。そして、同行者の一人が移動用の車まで案内することを告げ、アランはその後を追って建物を出る。三人は、建物を出る際にベルカからボディチェックを受け、それから車に乗り込んだ。この際、アランは車の後部座席に乗せられ、同行者の一人が隣に座った。
その後、もう一人の同行者が運転席に乗りこみ、発車する為の準備を済ませた。そして、車が走り出すと同時に、アランの隣に座る同行者が説明を始める。
「決行は夜。人目に付きにくい。簡単には起きない薬試す。小屋ごと燃やす。全て消し去る」
同行者は、それだけ伝えると後方を一瞥した。
「道具は車に積んである。何も難しいことはない」
この際、運転手はダッシュボードに置かれていたアイマスクを掴み、後部座席へ向かって投げた。それをもう一方の同行者が受け取りアランへ手渡す。
「付けておけ。場所、分かりにくい方が好都合」
それを聞いたアランは、素直にアイマスクを装着した。その後は何の会話もなく車は走り続け、辺りが暗くなってからアランのアイマスクは外された。
アランは同行者から使うべき道具を手渡され、簡潔ながらその使い方を説明された。アランは、その説明を真剣に聞き、実行に移すべき時間になってから車を降りた。アランが下り立った地は、薄暗い森だった。彼の周囲は葉の繁った木々が並び、それが月明かりを遮っている。人家が見当たらないせいか静かだったが、夜行性だろう動物の声や木々が出す微かな音はアランの耳に届いていた。
その後、アランは僅かな月明かりを頼りに指定された小屋を探した。その小屋は、森の木々に隠れるようにして建てられ、時間が遅いせいか照明は点いていなかった。また、小屋の周囲には小さな菜園があり、そこでは数枚の葉が生えた野菜が育っていた。アランは、その土を踏まぬよう気を付けながら小屋の周りを確認していく。一通りの確認が済んだ後、アランは小屋のドアの前で立ち止まった。そうしてから、彼は慣れた手付きでドアを解錠して屋内へ入る。
屋内は、月明かりが届きにくい分暗かった。この為、アランは一歩一歩慎重に進み、物音をたてないようにしながら奥にある部屋を覗く。そこでは、一人用のベッドに身を寄せあうようにして眠る二人の姿があった。明かりに乏しいせいで性別すら分からないが、その寝姿から二人は互いに信頼しあっていることが窺えた。
アランは、ベッドで寝息をたてる二人を眺めた後、立会人から渡された液体を部屋に撒いた。その後、アランは素早く部屋を出、小屋に置かれた可燃物に火を着けて回った。そして、それらがある程度燃え上がったところで小屋を出、アランは木に隠れながらその行く末を観察する。
大部分が木で出来た小屋は、一度火の勢いがつくと止まらなかった。小屋が燃え尽きる前に悲痛な叫び声が響き渡ったが、それは小屋の天井が崩れる音にかき消されてしまう。アランは、小屋が炭となるまでそれを眺め、煙が登らなくなったところで残骸に近付いた。彼は、そこに生きている人間の気配がないことを確かめると十字を切り、静かに車へ戻り始めた。
その帰り道は、焔の明るさに目が馴れたアランの瞳には暗く映っていた。また、彼の耳に届く音はなく、ただ虚ろな表情を浮かべながら歩いていた。その足取りはふらつき、暗さも手伝ってアランは何度か転びそうになる。それでも、アランは休まず進み続け、彼を送り出した車まで戻った。車に戻ったアランと言えば、後部座席に座る者へ道具を返し、結果を報告した。同行者は、何も言葉を返さず道具を受けとり、再びアイマスクをアランに渡す。
アランは、この時も素直にアイマスクを装着し、車はゆっくりと走り始めた。そして、車は往路よりも時間を掛けて道を走り続ける。漸く車のエンジンが切られた時、アランはアイマスクを外すことを許された。そして、同行者と共にニコライの元へ向かうよう告げられ、アランはその指示を受け入れる。
ニコライの元に到着したアランは、虚ろな目で部屋を見回した。この際、同行者は彼を挟む形で横に立っており、部屋にはエルの姿も在った。部屋には何人もの男性が居たが、その中で座っているのはニコライだけだった。そして、ニコライは座ったままアランの顔を見つめると、冷たい声で話し出す。
「仕事前に体の動かし方を思い出して貰わなきゃだからね。相手は、体格的に劣るとは言え複数だ。窮鼠猫を噛むとも言うし、状態を整えておく方が良いからね」
ニコライは、そう言って冷たい眼差しをアランへ向ける。
「試して貰いたいものがあるけど、それがちゃんと効くかは分からない。その時は、君が、君の手で、二人の意識を失わせなきゃならないからね」
そこまで話して笑みを浮かべ、ニコライは尚も話を続けた。
「傷も塞がっただろうし、食事も普通のものを摂って良い。決行は明後日だ。詳しいことは、移動中に同行者から話させる。それまで決心を鈍らせないことだね」
そう伝えると、ニコライはアールに目配せをしてから部屋の出入り口を見た。すると、アールは直ぐにドアを開け、ニコライはアランへ部屋を出るよう命令する。この為、アランはその命令に従って部屋を出た。そして、彼はニコライらに付き添われる形で自室まで戻る。
部屋の前で、ニコライはアランに決行まで他の仕事はないことを伝えた。そして、必要の無い場所には行かない様に言い含め、アランが自室に入るのを見届けてからその場を離れた。その後、アランは一日の殆どを自室で過ごし、人気のない時間に食事を摂った。そうしているうちに時間は過ぎていき、ニコライが告げた決行日となった。
決行の日、アランは落ち着かない様子で同行者を待った。しかし、それは昼になっても現れず、夕方になって漸くアランの元へ現れた。
ニコライが用意した同行者は二人おり、その体格はアランと大差無かった。そして、同行者の一人が移動用の車まで案内することを告げ、アランはその後を追って建物を出る。三人は、建物を出る際にベルカからボディチェックを受け、それから車に乗り込んだ。この際、アランは車の後部座席に乗せられ、同行者の一人が隣に座った。
その後、もう一人の同行者が運転席に乗りこみ、発車する為の準備を済ませた。そして、車が走り出すと同時に、アランの隣に座る同行者が説明を始める。
「決行は夜。人目に付きにくい。簡単には起きない薬試す。小屋ごと燃やす。全て消し去る」
同行者は、それだけ伝えると後方を一瞥した。
「道具は車に積んである。何も難しいことはない」
この際、運転手はダッシュボードに置かれていたアイマスクを掴み、後部座席へ向かって投げた。それをもう一方の同行者が受け取りアランへ手渡す。
「付けておけ。場所、分かりにくい方が好都合」
それを聞いたアランは、素直にアイマスクを装着した。その後は何の会話もなく車は走り続け、辺りが暗くなってからアランのアイマスクは外された。
アランは同行者から使うべき道具を手渡され、簡潔ながらその使い方を説明された。アランは、その説明を真剣に聞き、実行に移すべき時間になってから車を降りた。アランが下り立った地は、薄暗い森だった。彼の周囲は葉の繁った木々が並び、それが月明かりを遮っている。人家が見当たらないせいか静かだったが、夜行性だろう動物の声や木々が出す微かな音はアランの耳に届いていた。
その後、アランは僅かな月明かりを頼りに指定された小屋を探した。その小屋は、森の木々に隠れるようにして建てられ、時間が遅いせいか照明は点いていなかった。また、小屋の周囲には小さな菜園があり、そこでは数枚の葉が生えた野菜が育っていた。アランは、その土を踏まぬよう気を付けながら小屋の周りを確認していく。一通りの確認が済んだ後、アランは小屋のドアの前で立ち止まった。そうしてから、彼は慣れた手付きでドアを解錠して屋内へ入る。
屋内は、月明かりが届きにくい分暗かった。この為、アランは一歩一歩慎重に進み、物音をたてないようにしながら奥にある部屋を覗く。そこでは、一人用のベッドに身を寄せあうようにして眠る二人の姿があった。明かりに乏しいせいで性別すら分からないが、その寝姿から二人は互いに信頼しあっていることが窺えた。
アランは、ベッドで寝息をたてる二人を眺めた後、立会人から渡された液体を部屋に撒いた。その後、アランは素早く部屋を出、小屋に置かれた可燃物に火を着けて回った。そして、それらがある程度燃え上がったところで小屋を出、アランは木に隠れながらその行く末を観察する。
大部分が木で出来た小屋は、一度火の勢いがつくと止まらなかった。小屋が燃え尽きる前に悲痛な叫び声が響き渡ったが、それは小屋の天井が崩れる音にかき消されてしまう。アランは、小屋が炭となるまでそれを眺め、煙が登らなくなったところで残骸に近付いた。彼は、そこに生きている人間の気配がないことを確かめると十字を切り、静かに車へ戻り始めた。
その帰り道は、焔の明るさに目が馴れたアランの瞳には暗く映っていた。また、彼の耳に届く音はなく、ただ虚ろな表情を浮かべながら歩いていた。その足取りはふらつき、暗さも手伝ってアランは何度か転びそうになる。それでも、アランは休まず進み続け、彼を送り出した車まで戻った。車に戻ったアランと言えば、後部座席に座る者へ道具を返し、結果を報告した。同行者は、何も言葉を返さず道具を受けとり、再びアイマスクをアランに渡す。
アランは、この時も素直にアイマスクを装着し、車はゆっくりと走り始めた。そして、車は往路よりも時間を掛けて道を走り続ける。漸く車のエンジンが切られた時、アランはアイマスクを外すことを許された。そして、同行者と共にニコライの元へ向かうよう告げられ、アランはその指示を受け入れる。
ニコライの元に到着したアランは、虚ろな目で部屋を見回した。この際、同行者は彼を挟む形で横に立っており、部屋にはエルの姿も在った。部屋には何人もの男性が居たが、その中で座っているのはニコライだけだった。そして、ニコライは座ったままアランの顔を見つめると、冷たい声で話し出す。