破滅の始まり

文字数 1,331文字

 木々に囲まれた施設を前に、無言で佇む男が居た。彼の年齢は三十代後半で、短く切りそろえられた髪は夕暮れ時の空を映したかのように紅かった。その男は、年齢にしては体格が良く、鍛えているお陰か贅肉は殆ど付いていない様だった。また、彼が身に付けているものは綿製のボトムスと袖の短い白いシャツで、それぞれゆとりのあるものを選んでいた。
 
 そのせいか、彼からは凛とした印象は感じられず、その表情だけが強張っていた。彼は、軽く腕を広げて深呼吸をし、施設の入口を真っ直ぐに見つめる。施設の入口は白く塗られた金属製のドアで、離れた位置からでも冷たさを感じられた。そのせいか、男はドアを開けるのを躊躇っており、大きく息を吐いてからドアの窪みに手を掛ける。
 
 男は、ドアをスライドさせて屋内に入り、ざっとその周囲を見回した。彼は、そうしながら後ろ手にドアを閉め、目的の場所へと向かっていく。

 彼の居る場所は、一見して病院の受付の様であった。しかし、診察を待つ患者の姿は見当たらず、太陽光を取り入れる窓すら存在しない。白く塗られた平らな壁、対照的に黒い長椅子、それらは見た者へ冷たい印象を与えていた。そして、入口から向かって右にある受付には、二人の職員が待機していた。
 
 二人の職員は共に女性で、訪問者である男性よりやや若いように見える。彼女らは、清潔感のある制服を身に纏い、長めの髪を一つに纏めていた。
 職員らは、近付いて来る者を無言で見つめ、男性が受付前に立った時に会釈をする。
 
「俺の名前はアラン。ここのボスに呼ばれて来た」
 男性は、そう伝えると両手を上げ、職員らに手の平を向ける。すると、職員の一人が受付を出、アランへ近付いた。彼女は、アランの前に立つと腕を伸ばし、服越しに男性の体へ軽く触れていく。その間中、アランは手を上げたままで、職員があらゆる箇所を触り終えるまで動こうとはしなかった。
 
 アランの体を調べ終えた後、職員は彼の眼前で頭を下げる。そして、受付内に残った者へ目配せをすると、多少ながらも表情を緩ませ口を開いた。

「確認、完了しました。ボスの元へご案内します」
 職員は、そう言うなり体の向きを変え、入口とは対面にある壁の方へ歩いていく。アランは、何も言わずに彼女の後を追い、職員は壁の前で立ち止まると胸元のポケットに手を入れた。
 
 職員は、ポケットから電子キーを取り出すと、壁に開いた隙間へそれを差し込む。その隙間は縦に細長く、大人の腰の高さ辺りに位置していた。また、その隙間へ鍵を差し込んだ途端、女性の胸の高さに黒いパネルが現れた。

 そのパネルは横に長く、その左側には黄色く光る数字が浮かんでいた。職員は浮かんだ数字の位置を確認すると、それを素早く押していく。すると、パネルは全体的に白みを帯び、それを見た女性はパネルの右側に手の平を押し当てた。
 
 彼女が手の平を当てて数秒すると、パネルの辺りからは高い電子音が響いた。電子音を聞いた女性はパネルから手を離し、差し込んだままの鍵を回してから引き抜いた。

 鍵を抜かれた壁は左側へスライドし始め、完全に開いたところで職員は前へ進み始める。この際、アランは静かに彼女の後を追い、彼が通過した後で壁は元の位置へと戻った。
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登場人物紹介

アラン


ガチムチ脳筋系の兄貴キャラ。
それでいて上の指示には従順な体育会系な為に社畜と化す。

純真な心が残っている為、それで苦しむが、何が大切かを決めて他を切り捨てる覚悟はある。

ニコライ的には、瞳孔が翠で良い体格の(おっちゃんなもっとデカなるでな)理想的な茶トラ人間バージョン。
なので気にいられてる。

ニコライ・フォヴィッチ


裏社会で商売している組織のボス。
ロシアンブルーを愛する。

猫好きをこじらせている。
とにかく猫が好き。
話しながら密かにモフる位に猫が好き。
昔はサイベリアンをモフっては抜け毛で毛玉を育てていた系猫好き。
重症な猫好き。
手遅れな猫好き。
猫には優しい。
猫には甘い。
そんな、ボス。

アール


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは右にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その1。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

エル


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは左にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その2。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

青猫
ニコライの愛猫。
専用の部屋を持つ部下より好待遇なお猫様。
ロシアンブルーだからあまり鳴かない。
そこが気に入られる理由。
専属獣医も居る謎待遇のお猫様。

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