食事も全て管理される施設
文字数 2,405文字
「お時間宜しいですか、アランさん」
アランは、肯定の返事をなしてドアに近付く。そして、彼はドアを開けると訪問者の姿を見下ろした。
訪問者は、彼を此処まで案内した女性で、それに気付いたアランは室内の時計を一瞥する。すると、短針はほぼ真上を指しており、それを確認したアランは女性の声に耳を傾けた。
「先ずは食堂へご案内します。暫くはここに戻りませんので、やり残したことが有ればお待ちします」
それを聞いたアランは部屋を出、落ち着いた声で答えを返した。
「急ぎの用事は何もねえ。それに、机に向かい続けるのは、どうも性に合わねえ」
そう言ってドアを閉め、アランは小さく溜め息を吐いた。一方、女性は表情を変えることなく言葉を発する。
「そうでしたか。この施設には、運動の出来る区画も御座います。それも、食後にご案内しますね」
女性は会釈をし、笑顔を作ってみせた。
「では、行きましょうか」
そう言うと、女性はアランの反応を待つことなく歩き始めた。彼女の動きを見たアランはその後を追い、二人は廊下を静かに進んでいく。
廊下を進んで幾らかすると、二人の前には大きなドアが現れた。そのドアに鍵穴は無く、代わりに黒いパネルが填められている。
そんなドアの前に立つ女性は、自らのポケットからカードを取り出すと、音も無くアランに向き直った。
「食堂へ入る時にも、先程お渡ししたカードを使います。この施設では食事による健康管理を行っておりますので、一度に複数人が入る場合も一人ずつの認証が必要です」
そう説明すると、女性は手に持ったカードをパネルに当てる。すると、大きなドアはスライドを始め、通れる程に開いたところで女性は歩き出した。ドアは、壁へ隠れる様にして動いていた。しかし、黒いパネルが隠れる前には停止し、先に食堂へ入った女性はそれを知らせようと腕を伸ばした。
女性は、食堂内から黒いパネルを指し示し、そこへアランが持つカードを翳すよう告げた。この為、アランは胸ポケットからカードを取り出しパネルに当てる。すると、黒いパネルは黄色く光り、高い機械音が発せられた。
「それで認証は終わりです。こちらへ」
女性に言われるまま、アランは食堂へと入った。すると、ドアはゆっくり閉まり始め、アランは思わず後方を振り返る。
「センサーで人の有無を確認しておりますので、あちらに誰も居なければ自動で閉じます」
アランの考えを見透かす様に言うと、女性はテーブルや椅子が並べられた一帯に目線を移す。食堂内に並べられたテーブルは、汚れを目立たせる為か白色をしていた。また、椅子は背もたれまでもが固い素材で作られ、淡い青や緑色をしている。
「席に指定は御座いません。料理を受け取ったら、開いている椅子に座って食事をとり、食べ終わったら食器を指定された場所まで持っていって下さい。料理を受け取る場所と食器を返却する場所は、これから順に説明いたします」
そこまで説明をすると、女性はアランに背を向けて歩き出す。アランは、そんな彼女の後を追い、二人は長方形のトレイが重ねられた台の前で立ち止まった。
「先ずは、料理を乗せるトレイを取って下さい。この後、調理師からそれぞれ料理を受け取りますが、申請によって量の増減も可能です」
そう説明すると、女性は一枚のトレイをアランに手渡す。そして、自分用のトレイを手に取ると、女性は壁に沿うようにして進んでいった。
暫く進んだところで壁は途切れ、代わりに細長い台が現れた。その台は銀色をしており、大人の腰程の高さをしている。台より奥では様々な料理が作られており、アランは軽く首を伸ばして調理場を覗いた。
「量を変える必要が無ければ、トレイを置くだけで料理が揃います」
女性は、そう言うと手に持っていたトレイを台に置いた。すると、数人居る調理師達はそれぞれに料理をよそい始め、あれよあれよと言う間にトレイには温かな料理が乗せられていく。女性は、料理が揃ったところでトレイを持ち上げ、それと入れ替わるようにアランがトレイを置いた。すると、先程と同様に料理が乗せられていき、全てが終わった頃合いで女性は話し出す。
「では、食べましょうか」
そう伝えると、女性は食堂の端へ向かっていった。彼女は壁際に置かれたテーブルにトレイを置くと、目線を動かしてアランに椅子へ座るよう促した。
一方、アランは彼女に促されるままトレイを置き椅子に座る。その後、女性は彼の対面に腰を下ろし、トレイを自らの方へと引き寄せた。
二人の献立は全く同じで、作りたてなのか白い湯気が立っていた。しかし、その量だけは違っており、黒いパン以外の料理はアランの方が多かった。
「それでは、冷めないうちに頂きましょう」
そう言うと、女性は手を組み目を瞑った。一方、アランはそんな女性を眺めながらスプーンを手に取る。
そして、彼は湯気の消え始めたスープを掬い、それを口に含むと暫く味わってから飲み込んだ。その後、彼はパンにも手を伸ばし、小さく千切ってから口に放り込む。そうこうしている内に女性も食事を始め、二人は味わいながら料理を食べ進めた。
「なあ、ところで名前は? 名前が分からねえと、いざ呼ぼうって時に困る」
その問いを受けた女性は、持っていたスプーンを置きアランを見つめた。
「ベルカ、です」
そう答えると、ベルカはアランを見つめたまま微笑んで見せた。対するアランは右手を伸ばし、明るい声で言葉を発する。
「改めて宜しくな、ベルカ」
ベルカは、伸ばされた手を見つめた後、自らの右手を差し出し握手を交わした。この時、ベルカの動きはぎこちなく、彼女がこう言ったやり取りに慣れていないことがアランからも見てとれた。
「はい。宜しくお願いします」
そう言って手を離し、ベルカはスプーンを右手で握る。また、アランもゆっくりと手を引き、食事を終えるまで話し出すことは無かった。
アランは、肯定の返事をなしてドアに近付く。そして、彼はドアを開けると訪問者の姿を見下ろした。
訪問者は、彼を此処まで案内した女性で、それに気付いたアランは室内の時計を一瞥する。すると、短針はほぼ真上を指しており、それを確認したアランは女性の声に耳を傾けた。
「先ずは食堂へご案内します。暫くはここに戻りませんので、やり残したことが有ればお待ちします」
それを聞いたアランは部屋を出、落ち着いた声で答えを返した。
「急ぎの用事は何もねえ。それに、机に向かい続けるのは、どうも性に合わねえ」
そう言ってドアを閉め、アランは小さく溜め息を吐いた。一方、女性は表情を変えることなく言葉を発する。
「そうでしたか。この施設には、運動の出来る区画も御座います。それも、食後にご案内しますね」
女性は会釈をし、笑顔を作ってみせた。
「では、行きましょうか」
そう言うと、女性はアランの反応を待つことなく歩き始めた。彼女の動きを見たアランはその後を追い、二人は廊下を静かに進んでいく。
廊下を進んで幾らかすると、二人の前には大きなドアが現れた。そのドアに鍵穴は無く、代わりに黒いパネルが填められている。
そんなドアの前に立つ女性は、自らのポケットからカードを取り出すと、音も無くアランに向き直った。
「食堂へ入る時にも、先程お渡ししたカードを使います。この施設では食事による健康管理を行っておりますので、一度に複数人が入る場合も一人ずつの認証が必要です」
そう説明すると、女性は手に持ったカードをパネルに当てる。すると、大きなドアはスライドを始め、通れる程に開いたところで女性は歩き出した。ドアは、壁へ隠れる様にして動いていた。しかし、黒いパネルが隠れる前には停止し、先に食堂へ入った女性はそれを知らせようと腕を伸ばした。
女性は、食堂内から黒いパネルを指し示し、そこへアランが持つカードを翳すよう告げた。この為、アランは胸ポケットからカードを取り出しパネルに当てる。すると、黒いパネルは黄色く光り、高い機械音が発せられた。
「それで認証は終わりです。こちらへ」
女性に言われるまま、アランは食堂へと入った。すると、ドアはゆっくり閉まり始め、アランは思わず後方を振り返る。
「センサーで人の有無を確認しておりますので、あちらに誰も居なければ自動で閉じます」
アランの考えを見透かす様に言うと、女性はテーブルや椅子が並べられた一帯に目線を移す。食堂内に並べられたテーブルは、汚れを目立たせる為か白色をしていた。また、椅子は背もたれまでもが固い素材で作られ、淡い青や緑色をしている。
「席に指定は御座いません。料理を受け取ったら、開いている椅子に座って食事をとり、食べ終わったら食器を指定された場所まで持っていって下さい。料理を受け取る場所と食器を返却する場所は、これから順に説明いたします」
そこまで説明をすると、女性はアランに背を向けて歩き出す。アランは、そんな彼女の後を追い、二人は長方形のトレイが重ねられた台の前で立ち止まった。
「先ずは、料理を乗せるトレイを取って下さい。この後、調理師からそれぞれ料理を受け取りますが、申請によって量の増減も可能です」
そう説明すると、女性は一枚のトレイをアランに手渡す。そして、自分用のトレイを手に取ると、女性は壁に沿うようにして進んでいった。
暫く進んだところで壁は途切れ、代わりに細長い台が現れた。その台は銀色をしており、大人の腰程の高さをしている。台より奥では様々な料理が作られており、アランは軽く首を伸ばして調理場を覗いた。
「量を変える必要が無ければ、トレイを置くだけで料理が揃います」
女性は、そう言うと手に持っていたトレイを台に置いた。すると、数人居る調理師達はそれぞれに料理をよそい始め、あれよあれよと言う間にトレイには温かな料理が乗せられていく。女性は、料理が揃ったところでトレイを持ち上げ、それと入れ替わるようにアランがトレイを置いた。すると、先程と同様に料理が乗せられていき、全てが終わった頃合いで女性は話し出す。
「では、食べましょうか」
そう伝えると、女性は食堂の端へ向かっていった。彼女は壁際に置かれたテーブルにトレイを置くと、目線を動かしてアランに椅子へ座るよう促した。
一方、アランは彼女に促されるままトレイを置き椅子に座る。その後、女性は彼の対面に腰を下ろし、トレイを自らの方へと引き寄せた。
二人の献立は全く同じで、作りたてなのか白い湯気が立っていた。しかし、その量だけは違っており、黒いパン以外の料理はアランの方が多かった。
「それでは、冷めないうちに頂きましょう」
そう言うと、女性は手を組み目を瞑った。一方、アランはそんな女性を眺めながらスプーンを手に取る。
そして、彼は湯気の消え始めたスープを掬い、それを口に含むと暫く味わってから飲み込んだ。その後、彼はパンにも手を伸ばし、小さく千切ってから口に放り込む。そうこうしている内に女性も食事を始め、二人は味わいながら料理を食べ進めた。
「なあ、ところで名前は? 名前が分からねえと、いざ呼ぼうって時に困る」
その問いを受けた女性は、持っていたスプーンを置きアランを見つめた。
「ベルカ、です」
そう答えると、ベルカはアランを見つめたまま微笑んで見せた。対するアランは右手を伸ばし、明るい声で言葉を発する。
「改めて宜しくな、ベルカ」
ベルカは、伸ばされた手を見つめた後、自らの右手を差し出し握手を交わした。この時、ベルカの動きはぎこちなく、彼女がこう言ったやり取りに慣れていないことがアランからも見てとれた。
「はい。宜しくお願いします」
そう言って手を離し、ベルカはスプーンを右手で握る。また、アランもゆっくりと手を引き、食事を終えるまで話し出すことは無かった。