新しい仲間と居場所

文字数 3,847文字

 朝食が出来た頃、赤髪の男児は目を覚ました。男児は近くにパトリックが居ないことに気付くと、直ぐに不安そうな表情を浮かべる。そして、彼はパトリックを捜そうとベッドから下り、ゆっくりと歩き始めた。その後、男児は部屋を出たところでパトリックに出くわす。
 
「おはようございます。朝食、出来ましたよ」
 そう伝えると、パトリックは男児に対して微笑み掛けた。対する男児は、安心して力が抜けてしまったのか、その場でしゃがみ込んでしまう。

「大丈夫ですか? 無理しちゃ、駄目ですよ」
 青年は、そう言うと男児を抱き上げた。この時、男児は力強くパトリックにしがみつき、自らの顔を青年の胸元に押し付ける。
 
「辛い時は、我慢せずに言いなさい。言葉にして吐き出すだけでも、楽になることだってありますから」
 パトリックはそう伝えると歩き出し、朝食の並べられたテーブルに向かっていった。その後、彼はテーブルの横に在るソファーに腰を下ろし、男児が落ち着く時を待った。

 暫くして、男児は手の力を緩め、顔を上げた。彼は、そうしてから口を開き、小さな声で話し始める。
 
「また、置いて行かれたんだって思った。でも、そうじゃなかった」
 男児は、そう言うとどこか不自然な笑顔を浮かべる。青年は男児の髪を優しく撫で、落ち着いた声で言葉を発した。

「置いて行くなんて、そんな酷いことはしませんよ、


 パトリックは、テーブルに並べられた料理を指し示す。
 
「先ずは、朝食を食べて元気をつけましょう。お腹が減ると不安になりますし、簡単な料理でも温かい方が美味しい筈です」
 その提案を聞いた男児は頷き、青年は彼を木製の椅子に座らせた。椅子に座る男児の眼前には、昨日作られたスープやオートミールが在る。用意された料理は温かく、食器の横に置かれたスプーンは子供が使い易い大きさだった。また、食器やスプーンの下には、厚手の布が敷かれている。
 
「これを食べ終えたら、ヨーグルトを持ってきますね」
 そう伝えると、青年は男児の対面に腰を下ろした。

「それでは、頂きましょう」
 パトリックは、そう言うと手を組んだ。すると、彼を真似てか男児も手を組み、それからスプーンを握って食事を始めた。男児は、与えられた料理を美味しそうに食べていき、それを正面から見る青年は自然と笑顔になっていく。そして、パトリックは男児が食べ終えたところで席を立ち、カップ入りのヨーグルトを持って戻った。
 
「どうぞ、食べてください」
 それを聞いた男児は直ぐにヨーグルトを食べ始め、その間に青年は空の食器を纏め始める。その後、パトリックは男児が食べ終えたところで席を立ち、男児をソファーに座らせると食器を洗いに調理場へ向かった。食器を洗い終えた後、青年は男児の横に腰を下ろした。パトリックはソファーに座ったまま男児の顔を覗き込み、優しい声で話し掛ける。
 
「さて、少し休んだら出掛けましょう」
 それを聞いた子供は頷き、その動きを見た青年は目を細めて口を開く。
「そう言えば、まだ名前を聞いていませんでしたね。この後、皆に君を紹介するので、教えて頂けますか?」
 それを聞いた男児は目を伏せ、十秒程の間を置いてから声を発した。
 
「アラン……アラン・ジンデル」
 男児の名を聞いた青年はゆっくり頷き、右手でアランの頭を優しく撫でる。

「良い名前です。どっしりと構えて、沢山の人と仲良くなれるのでしょう」
 それを聞いたアランは首を傾げ、パトリックは微笑みながら話を続けた。

「大きくなって、大切にしたい人が出来たらきっと分かります」
 青年は、そう言うとどこかわざとらしく手を叩く。
 
「言いそびれていましたが、私の名前はパトリック。パトリック・クリーヴランドです」
 青年は、そう伝えると立ち上がり、男児の前で膝をつく。彼は、そうしてから右手を差し出し、アランの右手を掴んで笑顔を浮かべた。

「改めて宜しくお願いします」
 そう言うと、パトリックは右手を数回上下に動かす。対するアランは、青年の台詞をそのまま返した。
 
「では、自己紹介も済みましたし、向かいましょう」
 青年は、そう言うと立ち上がって男児を抱き上げる。その後、パトリックは小屋を出て道なりに進んでいった。

 すると、その先には古そうな建物が見えてくる。パトリックが向かう建物の外壁は、所々に罅が入っていた。また、窓越しに見えるカーテンは薄汚れ、穴が開いているものまで在る。建物の周囲には青々とした草が生えており、そのせいか何種類もの虫が飛び回っていた。
 
 パトリックは、草の生えていない小道を進み、金属製のドアノブに手を掛ける。その後、彼がドアを開けると乾いた鐘の音が響き渡り、アランは音の元を見ようと顔を上げた。一方、パトリックは廊下をゆっくり進んでいった。すると、鐘の音を聞きつけたのか、アランより少し大きな子供が顔を出した。
 その子供は、パトリックの前に立つとアランを見上げ、首を傾げて口を開く。
 
「新しいお友達?」
 その問いを聞いたパトリックは頷き、腰を曲げて口を開いた。

「ええ。ですから、みんなを食堂に集めて頂けますか? この子のこと、紹介したいので」
 それを聞いた子供は大きく頷き、どこか嬉しそうに声を発する。

「うん、分かった! みんなを呼んでくる!」
 そう言うなり子供は走り出し、パトリックは腰を伸ばしてそれを見送った。青年は、そうしてから歩き始め、入口に食堂と書かれた部屋へと入った。
 
 食堂に置かれたテーブルや椅子は低く、それらが子供達の為に用意されたものだと言うことが伺える。また、それらは長年使っているのか壊れそうなものもあり、木材を継いで補強したものもあった。アランは、室内を良く見ようとしてか体を動かし、それに気付いたパトリックは彼を床に下ろした。
 
「どうぞ、好きに見て回って下さい。今日からは、ここが貴方のお家です」
 青年は、そう言うとアランの背中を軽く押した。一方、アランは状況が飲み込め無いのか困惑し、その場を動くことはしなかった。

 そうこうしている内に、子供達が食堂に集まり始めた。集まった子供達は、アランを興味深そうに眺めてから椅子に座った。そして、椅子の殆どが埋まったところで、パトリックは集まった人数を数え始める。その後、集まった人数を確認し終えた青年は、アランの肩に手を置いた。そして、集まった子供達から見えやすい位置に動くと、大きく息を吸い込んで話し出す。
 
「おはようございます。今日は、新しいお友達を紹介しますね」
 パトリックは、そう言うとアランの肩を軽く押した。すると、アランは不安そうに振り返り、青年の顔を見上げて涙を浮かべる。対するパトリックは膝を床に付け、優しい声でアランに伝えた。

「怖くは無いですよ。集まってくれた子はみんな良い子ですし、君を置いていく訳ではありませんから」
 それを聞いた男児は涙を拭い、子供達が居る方へと顔を向ける。集まった子供達は、アランと同年代の者が半分程で、十歳を越える子供は少なかった。また、子供達は興味津々な様子でアランを見つめており、小さいながら会話をする声も聞こえてきた。

 そのせいか、アランは緊張して体を強張らせ、何も言えぬまま時間が過ぎていった。すると、彼の態度に痺れを切らしたのか、近くに座っていた少女が立ち上がる。彼女は、アランより少々背が高く、栗色の髪を桃色のリボンで結っていた。
 
 少女は、アランの前に立つと両手の甲を腰に当て、はっきりとした声で言い放つ。

「あのね、何も言わないでいたって進まないの。ここに来たからには、自分のことは自分で出来るようにならなきゃなんだから。待っていれば、誰かが助けてくれるなんて思ってたら、駄目なんだからね!」
 少女は、そう言うと胸を張り、アランは呆気にとられた様子で瞬きをする。しかし、少女の想いが伝わったのか、アランは小声ながらも言葉を発した。
 
「えっと、僕の名前は」
「声が小さい! ちゃんと、みんなに聞こえるように言うの!」
 少女は、アランの声を遮って話し、右腕を伸ばして子供達が居る方に振った。一方、アランは胸に手を当てて大きく息を吸い込み、再度言葉を発し始める。
 
「僕の名前はアランです! 宜しくお願いします!」
 それを聞いた少女は大きく頷き、集まった子供達からは彼を歓迎する言葉が飛び出す。そのせいか、アランの表情は徐々に明るくなり、少女は満足そうに鼻を膨らませる。この時、パトリックは柔らかな笑顔を浮かべながら子供達を見つめていた。そして、少しの間を置いて手を叩くと、彼は集まった子供達に向かって話し始める。
 
「大まかな説明は私がしますが、アラン君が困っていたらみんなで助けてあげて下さいね」
 それを聞いた子供達は、明るい声で肯定の返事をなした。それに対して青年は礼を述べ、アランの肩に手を置いて言葉を続ける。

「では、私は案内を始めますね。皆さんは、何時も通りに過ごしていて下さい」
 それを聞いた子供達は、口々に返事をして食堂を後にした。一方、パトリックは子供達が帰った後でアランの前に回り、優しい声で話し掛ける。
 
「では、ご案内します」
 そう言うと、青年はアランの手を取った。その後、二人は屋内を回っていき、案内を終えたパトリックはアランの前から立ち去った。残されたアランは涙を流すが、それを見た同年齢の子供らに話し掛けられて泣くことを止める。それから、アランは段々とその生活に慣れていき、泣く回数も減っていった。
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登場人物紹介

アラン


ガチムチ脳筋系の兄貴キャラ。
それでいて上の指示には従順な体育会系な為に社畜と化す。

純真な心が残っている為、それで苦しむが、何が大切かを決めて他を切り捨てる覚悟はある。

ニコライ的には、瞳孔が翠で良い体格の(おっちゃんなもっとデカなるでな)理想的な茶トラ人間バージョン。
なので気にいられてる。

ニコライ・フォヴィッチ


裏社会で商売している組織のボス。
ロシアンブルーを愛する。

猫好きをこじらせている。
とにかく猫が好き。
話しながら密かにモフる位に猫が好き。
昔はサイベリアンをモフっては抜け毛で毛玉を育てていた系猫好き。
重症な猫好き。
手遅れな猫好き。
猫には優しい。
猫には甘い。
そんな、ボス。

アール


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは右にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その1。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

エル


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは左にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その2。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

青猫
ニコライの愛猫。
専用の部屋を持つ部下より好待遇なお猫様。
ロシアンブルーだからあまり鳴かない。
そこが気に入られる理由。
専属獣医も居る謎待遇のお猫様。

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