個々人に与えられたもの

文字数 2,044文字

 アランが部屋を出た時、そこには制服を着た女性の姿が在った。彼女は、アランを部屋の前まで案内した女性で、一礼すると頭を下げたまま口を開いた。
 
「では、アランさんの部屋までご案内します」
 それだけ言うと、女性は頭を上げて歩き始めた。一方、アランは何も言わずに彼女の後を追い、二人は施設内を静かに移動する。

 二人は、ゆっくりと施設内を歩き続け、女性は無機質なドアの前で立ち止まった。そのドアにはアランの名が刻まれた四角いプレートが嵌められており、女性はそれを確認してから自らのポケットに手を入れた。その後、女性はポケットから一枚のカードを取り出しアランに手渡す。彼女は、そうしてからドアノブの下に手を触れ、そのまま手を下方に動かした。すると、ドアノブの下からは黒いパネルが現れ、女性はそれを一瞥してからアランを見た。
 
「個人の部屋へ入るには、お渡ししたカードが必要となります。そのカードには、既にアランさんの情報が記録されております。ですから、自室へ入るにはドアに嵌め込まれたパネルへカードを翳すだけでドアは開きます。そのカードを使って出入可能な部屋は他にもありますが、それらについてはまた後で説明します」
 そう言うと、女性は微笑みながらドアの前から数歩離れた。一方、アランは渡されたカードをパネルに押し付け、甲高い解錠音がした所でドアノブに手を触れた。彼は、そのままドアノブを掴んで開くと、無言で部屋に入っていく。すると、その後を追う様に女性も入室し、アランに向き直ると柔らかな笑みを浮かべた。
 
 アラン達が入った部屋には、大きめのベッドやクローゼットが用意されていた。また、仕事机も置かれており、その上には筆記用具も用意されている。入口のドアから向かって右側には他の部屋に続くドアも在り、それを見たアランは感嘆の声を漏らす。

「生活に必要な物は揃っていると思います。仕事用の服はクローゼットに用意してございますし、小さいながら浴室や洗面所もございます」
 女性は、そこまで言って言葉を切り、目線をゆっくりと壁の方へ動かした。彼女の目線の先には掛け時計が在り、それは午前十時過ぎを示している。
 
「食事は、食堂にて提供されます。食堂への案内は後程いたしますので、正午までには用意された服に着替えておいて下さい」
 そう言うと女性は部屋を去り、残されたアランは頭を掻いた。彼は、そうしてから持っていた封筒やカードを机に置き、クローゼットの戸を開ける。クローゼットの中には新しい服が何組も用意されており、その幾らかはハンガーに掛けられていた。また、下方にはビニール袋に入れられた衣類も在り、その中には下着の類も混ざっている。
 
 アランは、ハンガーに掛けられた衣服を手に取るとベッドに置いた。また、彼はビニール袋を開けて下着を取り出し、それを眺めてから声を漏らす。

「まさか、下着の好みまではばれてねえよな?」
 そう呟くと、アランは新品の下着をベッドに投げた。その後、彼はクローゼットの戸を閉め、部屋の出入り口とは対角にあるドアへ向かう。そのドアの先には、細いながらも廊下が在り、アランは程なくして磨り硝子で出来た浴室のドアを見つける。ドアの手前には脱衣籠が用意され、それは壁に埋め込まれた棚に入れられていた。また、その棚には灰色をしたバスローブが用意され、それは綺麗に畳まれて置かれている。
 
「至れり尽くせり……ってか?」
 そう呟くと、アランは籠を床に置いて服を脱ぎ始めた。彼は、脱いだ服を籠に投げ入れると浴室へ入り、ゆっくりとその中を見回す。すると、浴室には温水の出るシャワーが在り、その下には冷水の出る蛇口が在った。また、浴室には石鹸やシャンプーなども用意されており、それに気付いたアランはバルブを捻ってシャワーから湯を出し始めた。彼は湯で髪を濡らしていき、十分に濡れた所で髪を洗い始めた。その後、彼は泡を落とさないまま体を洗い始め、洗い終えたところでシャワーを止める。
 
 入浴を終えたアランは浴室を出、素早く灰色のバスローブに身を包んだ。彼は、そうしてから部屋に戻り、予め用意しておいた服を身に付けていく。
 アランの為に用意された制服は薄い青色をしており、新品なのか生地に皺は寄っていなかった。また、胸や尻のポケットには彼の名が刺繍されており、それが彼の入所を確信していたようでもあった。
 
 アランは、制服の襟を整えると細く息を吐き、机に置いたカードを手に取った。彼は、そのカードを胸ポケットに入れると椅子に腰を下ろし、机の引き出しを上から順に開けていく。しかし、引き出しの中には何も入っておらず、アランは小さく溜め息を吐くと机上の封筒を手に取った。

 アランは、封筒を傾けて書類を取り出し、それを左手に持って黙読を始める。彼は、読み終えた書類を裏返して机に置いていき、十枚程読み終えた所で腕を上方に伸ばして一息つく。彼は、そうしてからも書類を読み進めていき、ドアを叩く音が聞こえた所でそれを止めた。
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登場人物紹介

アラン


ガチムチ脳筋系の兄貴キャラ。
それでいて上の指示には従順な体育会系な為に社畜と化す。

純真な心が残っている為、それで苦しむが、何が大切かを決めて他を切り捨てる覚悟はある。

ニコライ的には、瞳孔が翠で良い体格の(おっちゃんなもっとデカなるでな)理想的な茶トラ人間バージョン。
なので気にいられてる。

ニコライ・フォヴィッチ


裏社会で商売している組織のボス。
ロシアンブルーを愛する。

猫好きをこじらせている。
とにかく猫が好き。
話しながら密かにモフる位に猫が好き。
昔はサイベリアンをモフっては抜け毛で毛玉を育てていた系猫好き。
重症な猫好き。
手遅れな猫好き。
猫には優しい。
猫には甘い。
そんな、ボス。

アール


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは右にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その1。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

エル


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは左にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その2。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

青猫
ニコライの愛猫。
専用の部屋を持つ部下より好待遇なお猫様。
ロシアンブルーだからあまり鳴かない。
そこが気に入られる理由。
専属獣医も居る謎待遇のお猫様。

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