支配者とのティータイム
文字数 2,467文字
「そろそろ、感想を聞かせて貰おうかな。アラン君のお腹も落ち着いただろうし」
そう言うと、ニコライは軽く手を擦り合わせた。一方、彼の言葉を受けたアランは目を瞑り、深呼吸をしてから言葉を発する。
「正直なところ、気分の良いものではありませんでした。その……どうも、ああ言う内容は苦手でして」
アランは、そこまで言って言葉を切り、少しの間を置いてから話を続ける。
「ですが、そのお陰で助かった命もある。幾ら悲惨な実験だろうと、そこから目を背けたら犠牲となった動物の存在意義さえ消えてしまうのでしょう」
前を見据え、アランは大きく息を吸い込んだ。
「ですから、たとえ夢でうなされることになろうとしても、記憶に刻んでおこうと思います」
彼は、そう言うと指先伸ばし頭を下げた。
「心構えをさせて下さり有り難うございます。あれを観ないままに痛々しい実験が間近で行われたら、心への衝撃は計り知れなかったでしょう」
アランの感想を聞いたニコライは、目を瞑って細く息を吐いた。彼は、そうしてから左目を開き、どこか呆れた様子で言葉を発する。
「顔を上げなよ。お礼を言われる様なことじゃない」
話を聞いたアランは顔を上げ、ニコライは閉じていた右目を僅かに開く。
「本当、君って面白いよね。大抵の子は、必要悪だとか、仕方のないことだった……とか言ってくるのに。それも、青い顔をして」
ニコライは、そこまで言ったところで溜め息を吐いた。
「顔色で、納得出来ていないことが見え見えなんだよね。まあ、すんなりと納得出来る方が難しいけど。特に、血の色に慣れていない子は」
笑みを浮かべ、ニコライはアランの顔を見つめた。この時、アランは緊張した面持ちでニコライを見、続く話を待った。
「君だって、血は苦手じゃない? 目の端に涙の跡があるし、さっきだって」
それを聞いたアランは目を丸くし、ニコライは彼の考えを窺う様に顔を見つめていた。すると、アランは観念したかの様に両腕を上げ、顔を伏せて話し始める。
「ええ、正直なところ苦手です。幼馴染からは、髪色が赤いくせに……と、からかわれる程に」
そう言って苦笑すると、アランはゆっくり腕を下ろした。一方、彼の話を聞いたニコライは目を細め、頭を左に傾ける。
「まあ、男性は血の苦手な子が多いしね。ところで、その幼なじみって女?」
ニコライに問われた者と言えば、一度頷いてから言葉を発した。
「ええ。あちらの方が孤児として先輩なせいか、何かにつけて弄られていました。お陰で、こうも逞しくなれた……と言う訳です」
そう言うとアランは袖を捲り上げ、腕を曲げて力瘤を出した。力の込められた二頭筋は大きく盛り上がり、太い血管が浮かんでいる。彼は、腕に力を込めたまま歯を見せて笑い、それを見たニコライは小さく笑う。
「本当、君って見ていて飽きないよ」
ニコライは、そう言うと目を瞑り、呟く様に声を漏らした。
「君の性格に、弄られ続けたことが関係しているのなら、僕はその子に感謝しなくちゃならない」
この時、ニコライの台詞を聞いたアランと言えば、上げていた腕をゆっくり下ろした。彼は、そうしてから捲った袖を戻した。
「そう言えば、アラン君はここに来てから運動した? 運動を続けなきゃ、折角の逞しさも無くなっちゃわない?」
ニコライは、そう問い掛けるとアランの目を見つめた。対するアランは、気まずそうに言葉を返す。
「いえ、ここに来てからは余り。案内はして頂いたので、時間が許せば鍛えておこうかと」
それを聞いたニコライは微笑み、穏やかな声で言葉を紡いだ。
「そっか。じゃあ、この後にやると良いよ。運動して汗を流して、すっきりした後での食事は美味しいだろうし」
ニコライは、そこまで言ったところで残っていたパンに手を伸ばした。彼は、伸ばした手でパンを掴み、美味しそうにそれを食べ始める。
ニコライは、パンを一つ食べ終えたところでアランを見、落ち着いた声で言葉を発した。
「今食べられないなら、小箱に詰めて部屋へ持って行かせようか。直ぐに傷むものでもないし」
それを聞いたアランは、残っていたパンを右手で掴む。
「いえ、感想を話すのに、食べながらと言うのは失礼だと考えただけですので。直ぐに食べられない訳ではありません」
微笑し、アランは掴んだパンを口に運んだ。彼は、そのパンを食べ終えたところで紅茶を飲み、数分のうちにパンを平らげた。一方、ニコライは彼の後にパンを食べ終え、それに気付いたエルは二人のカップに紅茶を注ぐ。すると、ニコライは直ぐに紅茶を飲み干し、アランは礼を言ってからカップに口を付けた。その後、程なくしてアランもカップを空にし、それを見たニコライは口を開いた。
「美味しかったね、アラン君。僕の用事は済んだから、もう帰っても良いんだよ? 食休みしたいなら残っても良いし、何か僕に尋ねたいことが有れば聞くけど」
ニコライは柔らかな笑みを浮かべて首を傾げた。対するアランはクロッシュを皿に被せ、落ち着いた声で答えを返す。
「伺いたいこともありませんし、今から室内運動場とやらを使わせて頂こうかと。美味しい軽食を有難うございました。それでは」
アランは、そう言うと深々と頭を下げた。彼は、数秒程そうしてから頭を上げ、ニコライに背を向ける。すると、それを見たアールは部屋のドアを開け、アランは彼に対して礼を言った。
アランが部屋を出た後、直ぐに部屋のドアは閉められた。ドアの閉まる音を聞いたアランと言えば、僅かに顔を動かした。しかし、彼は後方を振り返ることはせず、そこから数歩程進んだところで大きく息を吐く。その後、アランはニコライに伝えた通り運動場へ向かった。彼は、そこで汗を流すと、夕食を摂る為に食堂へ向って行く。
アランが食堂に着いた時、そこに殆ど人は居なかった。また、昼に来た時に比べて照明は暗く、それに気付いたアランは天井を見上げる。そうしてから、アランは料理を受け取り席についた。彼は、素早く食事を済ませると、真っ直ぐに自室へと戻っていく。
そう言うと、ニコライは軽く手を擦り合わせた。一方、彼の言葉を受けたアランは目を瞑り、深呼吸をしてから言葉を発する。
「正直なところ、気分の良いものではありませんでした。その……どうも、ああ言う内容は苦手でして」
アランは、そこまで言って言葉を切り、少しの間を置いてから話を続ける。
「ですが、そのお陰で助かった命もある。幾ら悲惨な実験だろうと、そこから目を背けたら犠牲となった動物の存在意義さえ消えてしまうのでしょう」
前を見据え、アランは大きく息を吸い込んだ。
「ですから、たとえ夢でうなされることになろうとしても、記憶に刻んでおこうと思います」
彼は、そう言うと指先伸ばし頭を下げた。
「心構えをさせて下さり有り難うございます。あれを観ないままに痛々しい実験が間近で行われたら、心への衝撃は計り知れなかったでしょう」
アランの感想を聞いたニコライは、目を瞑って細く息を吐いた。彼は、そうしてから左目を開き、どこか呆れた様子で言葉を発する。
「顔を上げなよ。お礼を言われる様なことじゃない」
話を聞いたアランは顔を上げ、ニコライは閉じていた右目を僅かに開く。
「本当、君って面白いよね。大抵の子は、必要悪だとか、仕方のないことだった……とか言ってくるのに。それも、青い顔をして」
ニコライは、そこまで言ったところで溜め息を吐いた。
「顔色で、納得出来ていないことが見え見えなんだよね。まあ、すんなりと納得出来る方が難しいけど。特に、血の色に慣れていない子は」
笑みを浮かべ、ニコライはアランの顔を見つめた。この時、アランは緊張した面持ちでニコライを見、続く話を待った。
「君だって、血は苦手じゃない? 目の端に涙の跡があるし、さっきだって」
それを聞いたアランは目を丸くし、ニコライは彼の考えを窺う様に顔を見つめていた。すると、アランは観念したかの様に両腕を上げ、顔を伏せて話し始める。
「ええ、正直なところ苦手です。幼馴染からは、髪色が赤いくせに……と、からかわれる程に」
そう言って苦笑すると、アランはゆっくり腕を下ろした。一方、彼の話を聞いたニコライは目を細め、頭を左に傾ける。
「まあ、男性は血の苦手な子が多いしね。ところで、その幼なじみって女?」
ニコライに問われた者と言えば、一度頷いてから言葉を発した。
「ええ。あちらの方が孤児として先輩なせいか、何かにつけて弄られていました。お陰で、こうも逞しくなれた……と言う訳です」
そう言うとアランは袖を捲り上げ、腕を曲げて力瘤を出した。力の込められた二頭筋は大きく盛り上がり、太い血管が浮かんでいる。彼は、腕に力を込めたまま歯を見せて笑い、それを見たニコライは小さく笑う。
「本当、君って見ていて飽きないよ」
ニコライは、そう言うと目を瞑り、呟く様に声を漏らした。
「君の性格に、弄られ続けたことが関係しているのなら、僕はその子に感謝しなくちゃならない」
この時、ニコライの台詞を聞いたアランと言えば、上げていた腕をゆっくり下ろした。彼は、そうしてから捲った袖を戻した。
「そう言えば、アラン君はここに来てから運動した? 運動を続けなきゃ、折角の逞しさも無くなっちゃわない?」
ニコライは、そう問い掛けるとアランの目を見つめた。対するアランは、気まずそうに言葉を返す。
「いえ、ここに来てからは余り。案内はして頂いたので、時間が許せば鍛えておこうかと」
それを聞いたニコライは微笑み、穏やかな声で言葉を紡いだ。
「そっか。じゃあ、この後にやると良いよ。運動して汗を流して、すっきりした後での食事は美味しいだろうし」
ニコライは、そこまで言ったところで残っていたパンに手を伸ばした。彼は、伸ばした手でパンを掴み、美味しそうにそれを食べ始める。
ニコライは、パンを一つ食べ終えたところでアランを見、落ち着いた声で言葉を発した。
「今食べられないなら、小箱に詰めて部屋へ持って行かせようか。直ぐに傷むものでもないし」
それを聞いたアランは、残っていたパンを右手で掴む。
「いえ、感想を話すのに、食べながらと言うのは失礼だと考えただけですので。直ぐに食べられない訳ではありません」
微笑し、アランは掴んだパンを口に運んだ。彼は、そのパンを食べ終えたところで紅茶を飲み、数分のうちにパンを平らげた。一方、ニコライは彼の後にパンを食べ終え、それに気付いたエルは二人のカップに紅茶を注ぐ。すると、ニコライは直ぐに紅茶を飲み干し、アランは礼を言ってからカップに口を付けた。その後、程なくしてアランもカップを空にし、それを見たニコライは口を開いた。
「美味しかったね、アラン君。僕の用事は済んだから、もう帰っても良いんだよ? 食休みしたいなら残っても良いし、何か僕に尋ねたいことが有れば聞くけど」
ニコライは柔らかな笑みを浮かべて首を傾げた。対するアランはクロッシュを皿に被せ、落ち着いた声で答えを返す。
「伺いたいこともありませんし、今から室内運動場とやらを使わせて頂こうかと。美味しい軽食を有難うございました。それでは」
アランは、そう言うと深々と頭を下げた。彼は、数秒程そうしてから頭を上げ、ニコライに背を向ける。すると、それを見たアールは部屋のドアを開け、アランは彼に対して礼を言った。
アランが部屋を出た後、直ぐに部屋のドアは閉められた。ドアの閉まる音を聞いたアランと言えば、僅かに顔を動かした。しかし、彼は後方を振り返ることはせず、そこから数歩程進んだところで大きく息を吐く。その後、アランはニコライに伝えた通り運動場へ向かった。彼は、そこで汗を流すと、夕食を摂る為に食堂へ向って行く。
アランが食堂に着いた時、そこに殆ど人は居なかった。また、昼に来た時に比べて照明は暗く、それに気付いたアランは天井を見上げる。そうしてから、アランは料理を受け取り席についた。彼は、素早く食事を済ませると、真っ直ぐに自室へと戻っていく。