栄養を摂らせることも世話の一つ

文字数 1,242文字

「それでは、家畜の餌を用意する場所へ向かいましょう。目的を達する為には、栄養だけは摂らせなければなりません」
 そう伝えると説明者は歩き始め、アランはその後を追った。二人は暫く歩いた後で小部屋に到着し、シュランゲは今までと同様に説明を始める。
 
「この小部屋には、調理の済んだ餌が運ばれてきます。餌は家畜毎に栄養を考えて作成され、トレイに乗せられた状態でこの部屋に置かれます。トレイには、その餌を与えるべき家畜の識別番号が書かれたタグも置かれています。ですから、タグを見て担当する家畜の餌を選び与えて下さい」
 そこまで説明をしたところで、シュランゲは車輪の付いた什器を指し示した。その什器は、天版が金属で出来ており、小さいながらも取っ手が付いている。
 また、その什器の高さは大人の腰程で縦に長く、何台もが部屋の隅に並べられていた。
 
「餌を運ぶ際は、あの簡易ワゴンを使って下さい。先程手順を説明した通り、解錠の為には両手を使わなくてはなりませんから」
 溜め息を吐き、シュランゲは小さな声で言葉を漏らす。

「片手で解錠可能だったら、今よりは楽なんですけどね。その仕様なら、わざわざ小さなワゴンを作るまでも無かったでしょうし」
 彼は苦笑し、小さなワゴンの天版を撫でた。その天版には小さな傷が幾らかあり、既に何度も使用されていることが窺える。
 
「まあ、畑が違いますからね。専門知識も無いのに、下手なことは言えませんけど」
 言ってワゴンから手を離し、シュランゲはアランの方へ顔を向けた。

「今はその時間では無いので用意されていませんが、指定された時間以降なら餌は並んでいます。その時の説明は、分からなければ近くに居る方に聞いて下さい。この場所に居なくとも、ドア付近にワゴンがある部屋には誰かしら居ますので」
 その話を聞いたアランは、話し手の説明を受け入れる。
 
「それでは、明日からお願いしますね。家畜が餌を食べている間は見張るも良し、清掃の必要が有るかを確認するも良し。家畜が暴れたり逃げ出したりさえしなければ問題は有りません」
 シュランゲは、そう説明をすると笑顔を作った。

「家畜が食べ終わったら、使い終わった一式を持って退室して下さい。片付ける場所は、元々置かれていたスペースにお願いします」
 説明者は、そう言ってからワゴンを一瞥した。その一方、アランは一呼吸置いてから口を開く。
 
「分かりました。戻すべき場所を確認してから使用します」
 アランの返答を聞いたシュランゲと言えば、満足そうな表情を浮かべた。そして、彼は自分からの説明は終わったことを告げ、アランを階段のある場所まで見送った。

 その後、二人はそれぞれの仕事へ戻り、アランはマクシムの居る小部屋に向かった。シュランゲはアランを見送った後で自らの持ち場へ戻り、テーブルの中心に置かれたメモを発見する。

「戻り次第報告せよ……ですか」
 そう言葉を漏らすと、シュランゲは細く溜め息を吐いた。そして、彼はメモを持ったまま、報告すべき相手の元へ向かう。
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登場人物紹介

アラン


ガチムチ脳筋系の兄貴キャラ。
それでいて上の指示には従順な体育会系な為に社畜と化す。

純真な心が残っている為、それで苦しむが、何が大切かを決めて他を切り捨てる覚悟はある。

ニコライ的には、瞳孔が翠で良い体格の(おっちゃんなもっとデカなるでな)理想的な茶トラ人間バージョン。
なので気にいられてる。

ニコライ・フォヴィッチ


裏社会で商売している組織のボス。
ロシアンブルーを愛する。

猫好きをこじらせている。
とにかく猫が好き。
話しながら密かにモフる位に猫が好き。
昔はサイベリアンをモフっては抜け毛で毛玉を育てていた系猫好き。
重症な猫好き。
手遅れな猫好き。
猫には優しい。
猫には甘い。
そんな、ボス。

アール


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは右にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その1。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

エル


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは左にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その2。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

青猫
ニコライの愛猫。
専用の部屋を持つ部下より好待遇なお猫様。
ロシアンブルーだからあまり鳴かない。
そこが気に入られる理由。
専属獣医も居る謎待遇のお猫様。

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