罪を贖わされる者達

文字数 2,350文字

「先ずは、左の部屋に入りましょうか」
 男性は、そう言うと左側に在るドアを指し示す。一方、アランはそれに肯定の返事をし、男性は左側のドアを開けた。この時、ドアが開かれた小さな部屋には、首輪を付けられた男がベッドに横たわっていた。また、クローゼット等の収納は無く、簡素なベッド以外には小さなテーブルが有るのみだった。
 
「テーブルの上に餌皿を置いて下さい。置いたら、次に行きますよ」
 そう言ってテーブルを指差し、男性はそそくさと退室した。一方、アランは慌てて皿の一つをテーブルに置き部屋を出る。この間中、首輪を付けられた男はアランを見つめており、その挙動を観察している様でもあった。部屋を出たアランは、台車に乗せられた皿を見下ろし眉根を寄せる。彼は、そうしてから顔を上げ、浮かんだ疑問を口にした。
 
「マクシムさん。今更なんだけど、スプーンとか用意しなくても」
「ええ、構いませんよ。何分、相手は人間ではありませんから」
 マクシムは、そう返すと笑みを浮かべ、アランの目を真っ直ぐに見つめた。

「ここに集められたのは、人間に非ず。姿形が似ただけの生物です。人間以外に、ナイフやフォークを使って食事をする生物は、そうそう居ないでしょう?」
 そう問い掛けると、マクシムはアランの返答を待つ様に口を閉じた。しかし、アランは返す言葉が無いのか黙ったままで、マクシムは小さく息を吐き出した。
 
「人間は神を模して作られた。しかし、神は全能であるのに対し、人間は不完全な存在である」
 その話にアランは目を丸くし、マクシムは尚も話を続けていく。
「姿形は似ていても異なる存在。それが、私達人間と彼らの違いです」
 マクシムは、そう言ったところで両腕を広げてみせる。
 
「ですから、気にすることは無いのです。何故なら、様々な生物は人間の為に存在しているのだから」
 そう言って口角を上げ、マクシムはアランの目をじっと見つめた。対するアランは何も言うことなく彼を見つめ返し、マクシムは軽く笑ってから踵を返す。

「次は右の部屋に行きましょう。人が増える前に、臭い餌を配らねばいけませんから」
 そう言うと、マクシムは右に在る部屋へ向かって行った。その後、アランは皿が無くなるまで部屋を回り、台車の上に何もなくなったところで、それを戻しに行こうとした。しかし、マクシムはアランの肩を掴んでそれを制止し、落ち着いた声で話し出す。
 
「折角ですから、開いた皿を回収しましょう。始めに配った家畜は、既に食べ終えているでしょうから」
 マクシムは、そう説明すると始めに配膳をした部屋へと向かう。一方、アランも彼の後を追い、二人は目的とする部屋の前に立った。

「皿を回収するだけですから、台車は廊下に置いたままで良いですよ。食べ終えていなかったら、回収することも有りませんし」
 マクシムは、そう言うと部屋のドアを開け室内へと入った。すると、テーブルに置かれた皿は空になっており、部屋に居る男は二人に背を向けて横になっている。
 
「どうやら、出だしは好調のようです」
 そう言って皿を手に取り、マクシムはそれをアランに手渡した。その後、彼らは揃って部屋を出、ドアを閉めたところでマクシムが口を開く。

「運が良かったですね。中には、直ぐには食べようとしない家畜も居ますので」
 マクシムは、そう言うと目を瞑り、大きく息を吐き出した。
 
「そう言った場合、皿は回収せずに残しておいて下さい。その後で、担当者が餌を廃棄するか強制給餌を行うかを決めますので」
 そこまで言ったところで目を開き、男性は微笑みながらアランを見つめた。

「強制給餌をする場合、家畜が暴れないようアランさんに押さえて頂くこともあります。その場合は、呼び出し等が有ると思いますので、担当者の指示に従って下さい」
 それを聞いたアランは、一瞬ながら眉根を寄せた。しかし、彼は自らの感情を口には出さず、ただ単に肯定の返事をなすだけだった。
 
 その後、アラン達は全ての皿を回収し、皿を洗う為にシンクの在る部屋へと戻った。そこでアランは使い終わった皿を洗い始め、その背後からマクシムが話し掛けた。

「とりあえず、一段落ですね。新しくアランさんが入ったお陰か、家畜達は餌を残すこともありませんでしたし」
 そう言って微笑し、マクシムは尚も言葉を続けていく。

「何時もは、大体誰かしら残すんですよ。まあ、強制給餌なんて、何日も食べない場合にしかしませんが」
 マクシムはそう言うと息を吐き、アランは洗い終わった皿をシンク横に並べていく。
 
「ハンガー・ストライキ、とでも言いたいのでしょうか。自らの子供には食べさせず、自分ばかりが食べていた屑のくせに、良く飢えに耐えられるものです」
 それを聞いたアランは苦笑し、マクシムは気怠るそうに欠伸をした。

「因みに、水分は毎日摂らせます。流石に、水分を摂らないでいると数日で息絶えてしまいますから」
 マクシムが話している間中、アランは食器を洗い続けていた。また、アランは時折相槌を打っており、そのせいかマクシムは話を続けていく。
 
「どちらにせよ、吐き戻されたら無意味なのですがね。その場合は、意図的に吐けぬよう拘束することになります。その場合も、アランさんに力を貸して頂くことになるでしょう」
 マクシムの話を聞いたアランは、その内容について了承した。その後も、アランは食器を洗い続け、洗い終わったところでマクシムに向き直る。

「終わりましたか。後は、乾いたらしまうだけです」
 そう言って棚を一瞥し、マクシムは水分が付いたままの食器に目線を移す。
 
「では、呼び出しがあるまで資料室で待機しますか」
 マクシムは、そう言うとドアの方に向かっていった。一方、アランは彼の後に続き、二人は資料室へと向かって行く。
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登場人物紹介

アラン


ガチムチ脳筋系の兄貴キャラ。
それでいて上の指示には従順な体育会系な為に社畜と化す。

純真な心が残っている為、それで苦しむが、何が大切かを決めて他を切り捨てる覚悟はある。

ニコライ的には、瞳孔が翠で良い体格の(おっちゃんなもっとデカなるでな)理想的な茶トラ人間バージョン。
なので気にいられてる。

ニコライ・フォヴィッチ


裏社会で商売している組織のボス。
ロシアンブルーを愛する。

猫好きをこじらせている。
とにかく猫が好き。
話しながら密かにモフる位に猫が好き。
昔はサイベリアンをモフっては抜け毛で毛玉を育てていた系猫好き。
重症な猫好き。
手遅れな猫好き。
猫には優しい。
猫には甘い。
そんな、ボス。

アール


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは右にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その1。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

エル


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは左にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その2。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

青猫
ニコライの愛猫。
専用の部屋を持つ部下より好待遇なお猫様。
ロシアンブルーだからあまり鳴かない。
そこが気に入られる理由。
専属獣医も居る謎待遇のお猫様。

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