無視する者、虐げる者、救う者
文字数 1,939文字
日の光が遮られた路地裏、そこに立つ子供が居た。その子供は、薄汚れた衣服を身に纏い、埃で汚れた髪は赤かった。子供の年齢は定かで無いが、骨と皮ばかりの体からあまり栄養を摂れていないことが窺えた。また、その眼差しに力は無く、どこを見つめているかさえ定かではない。
その子供は、何かに気付いたのか振り返り、僅かに開いたドアを見つめた。すると、そのドアの周辺には猫が集まり始め、屋内からは歪な形の器を持った女が現れる。その女は、残り物が入った器を地面に置き、直ぐに屋内へ戻っていった。すると、集まった猫達は器に群がり、粗末な残り物を食べ始めた。一方、赤髪の子供はそちらへ向かい、這いつくばって食料を得ようとする。しかし、猫達が食べる速度には適わず、子供は空になった器を悲しそうに眺めた。
残飯さえ食べられなかった子供は、とぼとぼとその場を離れていった。かと言って食料を手に入れられる確証は無く、その表情に変化は見られなかった。
彼は道すがら実のなった木を見つけ、それをもの欲しそうに見上げた。だが、実のなる位置に小さな子供の手が届く筈もなく、やせ衰えた体では木に登ることも叶わない。子供は、暫く果実を見上げた後で歩き始め、パンの匂いにつられるようにして街道に出る。彼は、パン屋の硝子越しに商品を眺めるが、それは空腹感を強くするばかりだった。
その後、薄汚い身なりの子供はパン屋の店主に追いやられ、疲れてしまったのか少し離れた場所で座り込む。地面に座る子供は泣きそうな表情を浮かべるが、涙を流すことは無かった。
暫く休憩をとった後、子供は薄暗い路地裏へと向かって行った。その路地裏は黴臭く、壁と言う壁は黒く汚れていた。子供は、空気の悪さに咳込むが、歩くことを止めはしなかった。そして、彼は捨てられた生ごみを見つけるとそこへ向かい、辺りに蠅が飛んでいることすら気にせず口に含んだ。本来、人間の子供が口にすべきものではなかったが、それでも彼は食べることを止めなかった。そして、彼は食べられるものが無くなるとまた歩き出し、日の当たる場所で休み始める。
多少なりとも腹の満たされた子供は眠り始め、何時間か経った後で目を覚ます。すると、既に空は暗くなり始めており、子供は寂しそうに目を伏せた。その後も、赤毛の子供は捨てられた食べ物を拾っては口に運んでいた。しかし、その中には痛んでいるものも有り、薬を買うことも出来ない彼はひたすら腹の痛みに耐えるしか術は無かった。
そうしているうちに、彼は動くことすら叶わなくなった。道端で倒れる幼子に対し、人々は見て見ぬふりを続けていた。それどころか、横たわる子供を爪先で突く者まで現れる。栄養不足から異常に膨らんだ腹を蹴られた子供と言えば、僅かばかりに目を開いた。すると、それを見た大人は子供を踏み付け、更なる反応を得ようとする。
しかし、子供はそれ以上の反応が出来ないのか、薄目を開けたまま動くことは無かった。すると、反応の無いことが不満だったのか、子供の横に立つ大人は勢い良く右足を後方へ振る。
「はい、止め」
その声と共に、子供へ向かっていた足は伸ばされた他の脚によって止められた。行動を防がれた者は邪魔をした者を睨みつけるが、上体を強く叩かれて地面に倒れてしまう。
その後、子供を蹴ろうとした者は唸りながら立ち上がり、後から来た者へ殴りかかろうとした。しかし、その拳は簡単に避けられてしまい、代わりに自らの腕を背中側で捻じり上げられる結果となった。
「てめっ、一体何」
「目には目を歯には歯を。抵抗できない子供を虐める大人には、何をすべきですかねえ?」
後から来た者は、そう言うと溜め息を吐いてみせた。彼の見た目は若く、肩に付くか付かないかの長さの髪は、太陽光を浴びて銀色に輝いている。
「弱者を傷付けて喜ぶ方には、傷付けられる側の気持ちを理解して頂くべきですか?」
銀髪の青年は、そう言うと捕まえた男の腕を本来曲がらない方向へと強く引いた。
その痛みに男性は声を上げ、何とかして青年から離れようとした。しかし、男が暴れれば暴れる程青年は力を込め、尚も言葉を加えていく。
「痛いですか? あなたに踏まれた子供も、痛かったでしょうね。それ、理解出来ました?」
青年は、そう言うと微笑みながら首を傾げる。しかし、それに男性が反応することは無く、青年は残念そうに首を振った。
「では、仕方有りませんね」
そう言い放つと、青年は男性の首を後ろから強く叩いた。すると、男性は気を失い、その体は倒れ始める。
この際、青年は男性の手首を強く掴み、地面に顔を打ちつけない様にした。その後、青年は男性を雑に横たわらせ、それから倒れたままの子供を優しく抱き上げる。
その子供は、何かに気付いたのか振り返り、僅かに開いたドアを見つめた。すると、そのドアの周辺には猫が集まり始め、屋内からは歪な形の器を持った女が現れる。その女は、残り物が入った器を地面に置き、直ぐに屋内へ戻っていった。すると、集まった猫達は器に群がり、粗末な残り物を食べ始めた。一方、赤髪の子供はそちらへ向かい、這いつくばって食料を得ようとする。しかし、猫達が食べる速度には適わず、子供は空になった器を悲しそうに眺めた。
残飯さえ食べられなかった子供は、とぼとぼとその場を離れていった。かと言って食料を手に入れられる確証は無く、その表情に変化は見られなかった。
彼は道すがら実のなった木を見つけ、それをもの欲しそうに見上げた。だが、実のなる位置に小さな子供の手が届く筈もなく、やせ衰えた体では木に登ることも叶わない。子供は、暫く果実を見上げた後で歩き始め、パンの匂いにつられるようにして街道に出る。彼は、パン屋の硝子越しに商品を眺めるが、それは空腹感を強くするばかりだった。
その後、薄汚い身なりの子供はパン屋の店主に追いやられ、疲れてしまったのか少し離れた場所で座り込む。地面に座る子供は泣きそうな表情を浮かべるが、涙を流すことは無かった。
暫く休憩をとった後、子供は薄暗い路地裏へと向かって行った。その路地裏は黴臭く、壁と言う壁は黒く汚れていた。子供は、空気の悪さに咳込むが、歩くことを止めはしなかった。そして、彼は捨てられた生ごみを見つけるとそこへ向かい、辺りに蠅が飛んでいることすら気にせず口に含んだ。本来、人間の子供が口にすべきものではなかったが、それでも彼は食べることを止めなかった。そして、彼は食べられるものが無くなるとまた歩き出し、日の当たる場所で休み始める。
多少なりとも腹の満たされた子供は眠り始め、何時間か経った後で目を覚ます。すると、既に空は暗くなり始めており、子供は寂しそうに目を伏せた。その後も、赤毛の子供は捨てられた食べ物を拾っては口に運んでいた。しかし、その中には痛んでいるものも有り、薬を買うことも出来ない彼はひたすら腹の痛みに耐えるしか術は無かった。
そうしているうちに、彼は動くことすら叶わなくなった。道端で倒れる幼子に対し、人々は見て見ぬふりを続けていた。それどころか、横たわる子供を爪先で突く者まで現れる。栄養不足から異常に膨らんだ腹を蹴られた子供と言えば、僅かばかりに目を開いた。すると、それを見た大人は子供を踏み付け、更なる反応を得ようとする。
しかし、子供はそれ以上の反応が出来ないのか、薄目を開けたまま動くことは無かった。すると、反応の無いことが不満だったのか、子供の横に立つ大人は勢い良く右足を後方へ振る。
「はい、止め」
その声と共に、子供へ向かっていた足は伸ばされた他の脚によって止められた。行動を防がれた者は邪魔をした者を睨みつけるが、上体を強く叩かれて地面に倒れてしまう。
その後、子供を蹴ろうとした者は唸りながら立ち上がり、後から来た者へ殴りかかろうとした。しかし、その拳は簡単に避けられてしまい、代わりに自らの腕を背中側で捻じり上げられる結果となった。
「てめっ、一体何」
「目には目を歯には歯を。抵抗できない子供を虐める大人には、何をすべきですかねえ?」
後から来た者は、そう言うと溜め息を吐いてみせた。彼の見た目は若く、肩に付くか付かないかの長さの髪は、太陽光を浴びて銀色に輝いている。
「弱者を傷付けて喜ぶ方には、傷付けられる側の気持ちを理解して頂くべきですか?」
銀髪の青年は、そう言うと捕まえた男の腕を本来曲がらない方向へと強く引いた。
その痛みに男性は声を上げ、何とかして青年から離れようとした。しかし、男が暴れれば暴れる程青年は力を込め、尚も言葉を加えていく。
「痛いですか? あなたに踏まれた子供も、痛かったでしょうね。それ、理解出来ました?」
青年は、そう言うと微笑みながら首を傾げる。しかし、それに男性が反応することは無く、青年は残念そうに首を振った。
「では、仕方有りませんね」
そう言い放つと、青年は男性の首を後ろから強く叩いた。すると、男性は気を失い、その体は倒れ始める。
この際、青年は男性の手首を強く掴み、地面に顔を打ちつけない様にした。その後、青年は男性を雑に横たわらせ、それから倒れたままの子供を優しく抱き上げる。