アランの育った場所

文字数 1,825文字

「誰かの悪戯と思ったけど、本当にアランだったとはね」
 女性は、アランの左肩を強く叩いた。
 
「仕事で遠くへ行ってから音沙汰が無いから、てっきりくたばったもんだとばかり」
 そこまで話したところで、女性は泣いている振りをしてみせた。一方、アランは荷物をテーブルに置いて微苦笑する。

「勝手に殺すなよ。第一、殺しても死なないって言ったのはお前だろうが」
 アランは、そう返すと大袈裟に溜め息を吐いた。
 
「俺なんかのことより子供達のことだ。菓子やら玩具を買ってきたが、そこまで増えちゃいねえよな?」
 その問い掛けを聞いた女性は、少しの間を置いてから答えを返す。

「何時を基準にしたら良いかは知らないけど、ベッド数以上は増やし様が無いんだからそうじゃないの?」
 疑問符をつけて返されたアランと言えば、後頭部を掻いてから言葉を漏らす。
 
「作る飯の数だの食器の数だので、人数が分かんねえのかよ」
 それを聞いた女性は眉を寄せ、アランの脛を勢い良く蹴った。その勢いにアランはよろめくが、女性との体格差もあって倒れることは無かった。

「多目には作るけど、いちいち数えてなんか……じゃなかった。そもそも、アンタが何人分と思っていたかが分からなきゃ、答えようがないじゃない」
 女性の言葉にアランは閉口し、目線を反らして言葉を紡いだ。
 
「いや、アイツが喜ぶのはこれ……みたいな考えで選んだんだよ。だから、俺が居た時に居た子供達の分はある。後は、人数が増えていた時のことを考えて、子供が喜びそうな菓子を買えるだけ買ってきた」
 それを聞いた女性は頭を抱え、大袈裟に溜め息を吐いてみせた。

「買えるだけ買ってきたって……それ、どう言う金銭感覚なのよ。まあ、それなら何も貰えない子は出ないんじゃない? 第一、こう言うことは私なんかより」
 女性は、そこまで言ったところで調理場の入り口を見た。そこには、ひっそりとアラン達の様子を眺めている男性の姿がある。
 
「本当、何時も狙った様なタイミングで来ますね」
 そう女性が話すと、男性は調理場へ入りながら言葉を発した。

「狙ってはおりませんよ。ただ、懐かしい声が聞こえたので寄ってみただけです」
 そう話す男性の表情は柔らかく、彼はアランの顔を見ると目を細めて話を続けた。
 
「お久しぶりです。元気でやっていますか?」
 そう問われた者は、どこか気恥ずかしそうに笑う。そして、男性の方へ顔を向けると、今までより落ち着いた声色で言葉を紡いだ。
 
「はい。神父様も元気そうでなによりです」
 その口調の変化に女性は笑い、それに気づいたアランは反射的に口を覆った。一方、それを聞いた神父は、顎に手を当てて口を開く。

「まあ、それだけが取り柄ですからね。まだまだ若い方々には、負けてさしあげませんよ」
 神父は、冗談めいた風に笑い、それからアランが持ち込んだ荷物を見た。
 
「これまた買い込みましたね。お金、ちゃんと管理しています?」
 それを聞いたアランと言えば、少しの間考えてから答える。
「稼いだ以上を使わなけりゃ、どうってことはねえ。今も、衣食住は保障されているしな」
 アランの返答を聞いた神父は安心した表情を浮かべ、それからポツポツと話し始めた。
 
「それを聞いて安心しました。そうそう、話は変わって子供達のことですが……引き取り手があったり年齢的なものがあったりで、ここを離れた子達が幾人か居ます。ですが、恰もその分を埋めるかの様に保護されてもいるので、人数に変化はありません」
 神父は、そこまで話したところでアランの目を見、尚も話を続けていった。
 
「学校のある子達はそちらに居ますし、それ以外の子達は畑に出ているので、簡単にはそれを証明出来ませんけど」
 掌を上に向け、神父は苦笑いしてみせる。

「畑に居る子達に、会いに行きますか? 時間が許せば……ですけど」
 そう問い掛けられたアランは、買い込んだ荷物を一瞥した。彼は、そうしてから軽く息を吐き出す。
 
「折角だし、そうしとくわ。今を逃したら、次は何時になるか分かんねえし」
 それを聞いた神父は目尻を下げ、落ち着いた話し方で言葉を発した。

「それでは、今から畑に向かいましょう。散歩がてら案内します」
 神父は歩き出し、その後をアランは追う。この際、女性は調理場に残り、男性二人で畑へ向かっていた。畑へ向かう途中、神父は目線を動かしながら周囲に人気の無い場所を探していた。そして、周りに人気が無くなった時、神父は小声で話し始める。
 
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登場人物紹介

アラン


ガチムチ脳筋系の兄貴キャラ。
それでいて上の指示には従順な体育会系な為に社畜と化す。

純真な心が残っている為、それで苦しむが、何が大切かを決めて他を切り捨てる覚悟はある。

ニコライ的には、瞳孔が翠で良い体格の(おっちゃんなもっとデカなるでな)理想的な茶トラ人間バージョン。
なので気にいられてる。

ニコライ・フォヴィッチ


裏社会で商売している組織のボス。
ロシアンブルーを愛する。

猫好きをこじらせている。
とにかく猫が好き。
話しながら密かにモフる位に猫が好き。
昔はサイベリアンをモフっては抜け毛で毛玉を育てていた系猫好き。
重症な猫好き。
手遅れな猫好き。
猫には優しい。
猫には甘い。
そんな、ボス。

アール


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは右にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その1。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

エル


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは左にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その2。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

青猫
ニコライの愛猫。
専用の部屋を持つ部下より好待遇なお猫様。
ロシアンブルーだからあまり鳴かない。
そこが気に入られる理由。
専属獣医も居る謎待遇のお猫様。

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