色々目を瞑れば結構なホワイト

文字数 3,662文字

 代り映えのない廊下を進んでいくと、前方に黒いパネルの嵌められたドアが在った。そのドアには、資料室と書かれたプレートも嵌められている。また、そのドアに取っ手やドアノブは無く、マクシムは黒いパネルを指差して口を開く。
 
「実験棟に入る時と同じやり方で開きます。ただ、家畜に入られると厄介なので、気配には注意して開けて下さいね」
 マクシムは、そう言うと周囲を見回し、それから自らのカードをパネルに当てる。彼は、そうしてから左手をパネルに押し当て、再度周囲を見回してからドアを開けた。
 
「では、先に入っていますね」
 そう言い残すと、彼は直ぐに資料室へ入った。すると、ドアは自動的に閉まり始め、アランはマクシムがやった様にしてドアを開ける。その後、アランは資料室に入り、ドアが閉まったのを確認してから周囲を見回した。すると、その部屋には本棚が何列も並んでおり、様々な形態の資料が保管されていた。
 
「会話用のスペースに向かいましょう。ここでの会話は、迷惑になりますから」
 小声で伝えると、マクシムは踵を返して歩き始めた。この為、アランは静かに後を追い、二人は硝子で区切られた小部屋に入る。その小部屋の中心には、天板が長方形のテーブルが置かれていた。また、その周りには椅子が置かれ、壁の上部にはスピーカーが埋め込まれている。

 マクシムは、アランに椅子へ座るよう伝え、自らも入口に近い椅子へ腰を下ろす。一方、アランは彼の前に腰を下ろし、それから入口のドアを一瞥した。
 
「硝子張りだと、落ち着きませんか?」
 アランは頷き、彼の仕草を見たマクシムは微笑する。

「なにせ、外から丸見えですからね。まあ、外から知人を見つける分には便利ですが」
 そう伝えると、マクシムは顔を動かして外を眺めた。

「それに、こちらからも外を確認出来ます。ですから、不測の事態が起きたとしても、硝子張りで無いよりは気付きやすいかと」
 それを聞いたアランと言えば、目線を動かして小部屋の外を見た。しかし、彼から見える範囲に変化はなく、ただ本棚が並んでいるだけだった。
 
「サボっている様に見えてしまうと、資料整理を手伝わされる羽目にもなりますが」
 マクシムは、そう言うと微苦笑する。一方、アランは目線を正面に戻し、マクシムの話を聞き続けた。

「この施設では、何時誰かが抜けても仕事が回るよう、人員に余裕を持たせています。とは言え、資料が沢山届いた際は、数人では整理出来ませんから」
 そう言ってアランの目を見つめ、マクシムは尚も話を続けていった。
 
「人員に余裕があるからこそ、こうやって座って話せる訳です」
 彼は、そこまで言ったところで目を細め、先程より低い声で言葉を紡いだ。

「ですが、唐突に居なくなられるとそうもいきません。ですから、くれぐれもそう言ったことが無いよう、お願いしますね」
 そう言うと口角を上げ、それを見たアランは息を飲んだ。それでも、アランはマクシムの目を見つめ返し、しっかりとした声で言葉を発する。
 
「分かっていますよ。どんな仕事であれ、他人に迷惑の掛かることはするべきではない」
 それを聞いたマクシムは、安心した様子で息を吐いた。一方、アランは彼の出方を窺い、マクシムは落ち着いた声で話し出す。

「それを聞いて安心しました。ただ単に了承されると、良く考えもせず相槌を打たれている様に感じてしまいますから」
 そう言って微笑し、マクシムは小部屋の入口を一瞥する。
 
「ところで、ここには視聴覚ブースも在ります。本を読むより、動画の方が分かりやすい場合もありますから」
 男性は、アランの目を見つめて微笑んだ。

「見に行きますか? 今のところ、することも有りませんし」
 それを聞いたアランは、少しの間を置いてから肯定の返事をする。
 
「では、向かいましょう。先程も説明しましたが、会話は控えて下さい」
 マクシムの話を聞いたアランと言えば、直ぐにそれを了承した。一方、アランの返答を聞いたマクシムは立ち上がり、ドアを開けて小部屋を出る。

 その後、アランはマクシムの後を追って小部屋を出、二人は資料室内を静かに歩いた。程なくして、マクシムは木製のドアの前で立ち止まる。マクシムは、そのドアを指し示してから振り返り、アランは無言で頷いた。アランの仕草から、自らの考えが伝わったと感じたのか、マクシムは木製のドアを開けて中に入る。
 
 その後、アランは彼に続いて部屋へ入り、ドアが完全に閉まったところでマクシムが話し出した。

「そのドア、見た目では分かりにくいですが、ちゃんと防音仕様なんですよ」
 マクシムは、小声で伝えるとドアを見つめる。
「でも、こちら側にも誰かが居るかも知れませんから」
 そう言うと、マクシムは周囲を見回した。
 
「まあ、今回その心配は杞憂に終わりましたが」
 マクシムの話を聞いたアランは、顔だけを動かして辺りを見回す。すると、近くにマクシム以外の人は居らず、物音も殆どしなかった。また、アランの近くには、薄いモニターが置かれた机や背もたれ付きの椅子が並んでいた。机上には黒い色をしたヘッドホンが置かれ、それはモニターに繋がっている。
 そして、机の手前には幾つもの操作ボタンが在り、その下には横に細長い切れ込みがあった。
 
「一人で視聴する場合、ヘッドホンをして頂くことになります。音が混じってしまったら、聞き取りにくいですから」
 マクシムは、そう言うと一番近くのヘッドホンを手に取った。

「後は、ディスクを入れれば自動的に起動し、映像が再生されます。ですから、詳しい説明は不要でしょう」
 そう言ってヘッドホンを置き、マクシムは細長い切れ目を指し示す。彼は、そうしてからアランに向き直り、落ち着いた声で言葉を紡いだ。
 
「ここに並んでいる個人用ブースの他に、多人数で視聴できる部屋も在ります。その部屋は防音されていますし、モニターも大きいですよ」
 マクシムはアランの目を見つめ、笑みを浮かべる。

「そちらは、複数人で同じ実験をする際等に使われます。そうすれば、個々人で観るより意見を交わしやすいですから」
 首を傾げ、マクシムはアランに問い掛ける。
 
「ご覧になりますか?」
 その問いを聞いたアランと言えば、数拍の間を置いて口を開く。

「ええ。折角の機会ですし、把握しておいた方が後々役立ちそうですから」
 そう返すと、アランは目を細めて微笑んでみせた。一方、マクシムはゆっくり頷き、それからアランに背を向ける。

「では、ご案内します」
 マクシムは、そう言うなり歩き始め、アランは静かにその後を追う。アランがマクシムを追っていくと、その先には灰色をしたドアが在った。そのドアには小さな覗き窓が在り、マクシムはそれを使って中を覗く。
 
「使用中では無いようです」
 そう言って後退し、マクシムはアランの姿を横目で見る。

「このドア、音が漏れない様な作りになっているんですよ。それと、使用中に間違って入室しない様、中を覗ける仕様になっています」
 マクシムは、そう伝えると覗き窓を指差した。その後、彼はドアを開け、部屋の中へと入っていく。アランと言えば、そんなマクシムの後を追い、防音された部屋へと入る。すると、その室内には細長いテーブルが並べられ、テーブルに対し二脚ずつの椅子が配置されていた。
 
 また、その椅子の背もたれは小さく、上体の半分を支える程度しかない。そして、部屋の前方には、壁に埋め込まれたディスプレイが在る。そのディスプレイは大きく、横幅は両腕を伸ばした程も在った。また、ディスプレイの横側には、他よりも高さのある机が置かれている。

 高さのある机にはマイクが乗せられ、その周囲に椅子は無い。また、机上には幾らかの機材が置かれ、その機材から伸びるケーブルはディスプレイへ向かって伸びていた。
 
「でけえ」
大きなディスプレイを見たアランは、思わず声を漏らした。一方、それを聞いた者は小さく笑い、それから落ち着いた声で話し出す。

「大きいでしょう? 投影する為のスクリーンならまだしも、自ら発光するタイプですから」
 そう説明をすると、マクシムはディスプレイへと近付いて行った。
 
「ニコライ様の拘りなんですよ。投影するタイプは、誰かが動くと不快だからだそうで」
 マクシムは、そう言うとディスプレイ横に置かれた机の側に立つ。

「使う機会が来るかは分かりませんが、操作は此処で行います。一時停止をして、良く見せたい箇所を説明することも可能だそうです」
 そう説明をすると、マクシムはアランの顔をじっと見つめた。
 
「時間がある時に、気になる資料を試聴すると良いですよ。と言っても、興味のない方には、試聴は苦痛でしかないかも知れませんが」
 それを聞いたアランと言えば、僅かながら眉根を寄せる。

「さて、ここに居ては呼び出しに気付きにくいですし、会話用のスペースに戻りましょう」
 マクシムはそう言うと微笑み、アランは彼の考えを受け入れた。その後、出入り口に近いアランから退室し、二人は硝子張りの部屋へと向かう。
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登場人物紹介

アラン


ガチムチ脳筋系の兄貴キャラ。
それでいて上の指示には従順な体育会系な為に社畜と化す。

純真な心が残っている為、それで苦しむが、何が大切かを決めて他を切り捨てる覚悟はある。

ニコライ的には、瞳孔が翠で良い体格の(おっちゃんなもっとデカなるでな)理想的な茶トラ人間バージョン。
なので気にいられてる。

ニコライ・フォヴィッチ


裏社会で商売している組織のボス。
ロシアンブルーを愛する。

猫好きをこじらせている。
とにかく猫が好き。
話しながら密かにモフる位に猫が好き。
昔はサイベリアンをモフっては抜け毛で毛玉を育てていた系猫好き。
重症な猫好き。
手遅れな猫好き。
猫には優しい。
猫には甘い。
そんな、ボス。

アール


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは右にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その1。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

エル


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは左にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その2。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

青猫
ニコライの愛猫。
専用の部屋を持つ部下より好待遇なお猫様。
ロシアンブルーだからあまり鳴かない。
そこが気に入られる理由。
専属獣医も居る謎待遇のお猫様。

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