閉鎖施設で生きること

文字数 2,465文字

 部屋に戻ったアランは、疲れた様子でベッドに倒れ込んだ。彼は、顔を下にして倒れたが、それでは息苦しかったのか横臥姿勢をとった。アランは、右半身を下にしたまま溜め息を吐き目を瞑る。彼は、暫くの間そうした後で上体を起こし、上着を脱いで机の方へ投げた。

 アランが投げた上着は、空気の抵抗を受けてか机へ届くことなく床に落ちる。この為、アランは舌打ちをして上着を拾い、それを椅子の背もたれへ乱暴に掛けた。そうしてから、彼は布団を勢い良く捲ってベッドに腰を下ろす。
 
 その後、アランはベッドに入り、口元を覆うように布団を引き寄せた。アランは、ぼんやりと天井を眺めてから目を瞑る。そして、ゆっくりとした呼吸を繰り返すと、静かに眠りに落ちていった。

 翌朝、アランは細く目を開くと大きな欠伸をした。彼は、眠そうにゆっくり瞬き、開ききらぬ眼で時計を見る。すると、時計の短針は床へ向かって伸びており、それを見たアランは息を吐きながら腕を伸ばした。そうしてから、彼は上体を起こして左右に捻る。

 アランは立ち上がって頭を掻き、ゆっくり着替えを用意した。そして、気持ちを切り替えるように運動をし、入浴で体を清めてから服を着替える。アランは、運動によって失われたエネルギーを取り戻す為、食堂へ向かって朝食を摂り始めた。すると、彼の前にはマクシムが現れ、料理が乗せられたトレイをテーブルに置く。
 
「お早うございます、アランさん」
 そう言ってから椅子に座り、マクシムはアランの顔を見て笑顔を浮かべた。一方、アランは手を止めて彼に挨拶をする。

「何だか眠そうですが、昨晩は眠れませんでしたか?」
 マクシムの問いを受けた者は軽く目を瞑った。アランは、数秒の間目を瞑った後で目を開き、苦笑しながら答えを返す。
 
「眠ることは出来たのですが、どうも眠りが浅かった様で」
 溜め息を吐き、アランはばつが悪そうにマクシムを見た。

「そういう日も有りますよ。ここに居ると、陽光に当たる機会が少ないので尚更」
 マクシムは、パンを千切って口に含んだ。
 
「家畜共を逃がさない為、外へ出る手段を限定している。頭では分かっていても、やはり外気が恋しくなる時があることも否めません」
 マクシムは、そう零すと細く息を吐き出した。一方、アランは僅かに目を細め手を止める。

「そう言う契約とは言え、何時出られるか分からないのは正直な所きついです」
 そう言葉を漏らすと、マクシムは目を細めて苦笑する。
 
「ここへ来た方々には、様々な過去や、外ではなくここを選んだ理由が有ります。ですから、下手な話を振るのも憚られます」
 マクシムは、そこまで話してスープを口にし、アランも釣られる様にして料理に手を付けた。
 
「なので、どうしても距離があるんですよ。誰に対しても。そして、下手にその距離を縮めてはならないと、誰もが何処かで感じている」
 それを聞いたアランと言えば、瞬きの回数を増やしてマクシムを見る。すると、マクシムは小さく息を吸い、数拍置いてから言葉を続けた。

「ですから……ええと、深入りをしてはなりませんよ。家畜共は勿論、家畜共を管理する側とも」
 話し手は、そう言葉を紡ぐと微笑した。対するアランは、少しの間を置いてから彼の意見を受け入れる。
 
「すみません、朝からこんな話をしてしまって」
 小声で言って微苦笑し、マクシムはアランに朝食を食べるよう促した。その後、朝食を終えるまで二人の間に会話はなく、食後の飲み物を選ぶ時になってアランが口を開いた。

「良かったら、飲み物を取ってきますよ」
 アランの提案を聞いたマクシムは礼を言い、彼の意見を受け入れた。この為、アランは二人分の飲み物を用意し、紅茶が注がれたマグをマクシムの前に置く。
 
「どうぞ」
 そう伝えてから腰を下ろし、アランは自らのマグに口を付ける。

「ここのメニューって飽きないですね。単に、今まで同じものばかり選んでいただけかも知れませんが」
 アランは、マグを置いてマクシムを見た。
 
「男一人だと、どうしても好きなものばかり食べてしまうと言うか……どの道、長生き出来はしなかったでしょう」
 どこか自棄気味に言葉を漏らすと、アランは注いだばかりの飲料を飲む。一方、マクシムは琥珀色の液体を口に含み、それを味わってから口を開いた。

「元々、男性は女性より短命ですしね。独り者だと、更にその差が開くとも言いますし」
 マクシムは、淡々と言葉を紡いでからアランを見た。

 「案外、管理された生活の方が、男は長生き出来るのかも知れませんね」
 そう言葉を加えると、マクシムは眼前に置かれたマグを両手で囲った。

「当然、個人差は有るでしょう。しかし、良くも悪くも冒険したがるのは年齢を問わず男です」
 マクシムはマグを持ち上げて紅茶を飲んだ。彼は、そうしてから細く息を吐き出し、軽くなったマグをテーブルに置く。
 
「確かにそうですね。子供の頃なんて、それが顕著に現れますし。全員が全員、冒険したがるかは別ですけど」
 アランは、自らの意見を口にするとマグに口を付ける。

「ですが、無謀な男子を女子が馬鹿にするのは珍しくなかったでしょう。中には、大人になっても治らない人も居ます。その辺り、原始から変わっていないのかも知れませんね。リスクの高い狩りは、男の仕事だったと言いますし」
 アランは僅かに首を傾げた。彼はそうしたまま、マグの取っ手を親指の腹で軽く撫でる。

「木の実を一つ一つ拾うのは子供でも出来ます。でも、危険な狩りを成功させれば、一度に大量の食料が手に入った。そんなハイリスクハイリターンを好むのは、昔も今も……ああ、例えが昔過ぎますね、すみません」
 マクシムは苦笑し、アランの表情を窺った。この時、アランはマグに手をかけながら苦笑いを浮かべていた。
 
「ここに長く居ると、話題が無くなってくるんですよ。かと言って、黙ったままなのも苦しい」
 小さな声で言葉を紡ぐと、マクシムはマグに注がれた紅茶を飲み干す。一方、彼の動きを見たアランもマグを空にし、二人は食器類を片付けて食堂を出た。
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登場人物紹介

アラン


ガチムチ脳筋系の兄貴キャラ。
それでいて上の指示には従順な体育会系な為に社畜と化す。

純真な心が残っている為、それで苦しむが、何が大切かを決めて他を切り捨てる覚悟はある。

ニコライ的には、瞳孔が翠で良い体格の(おっちゃんなもっとデカなるでな)理想的な茶トラ人間バージョン。
なので気にいられてる。

ニコライ・フォヴィッチ


裏社会で商売している組織のボス。
ロシアンブルーを愛する。

猫好きをこじらせている。
とにかく猫が好き。
話しながら密かにモフる位に猫が好き。
昔はサイベリアンをモフっては抜け毛で毛玉を育てていた系猫好き。
重症な猫好き。
手遅れな猫好き。
猫には優しい。
猫には甘い。
そんな、ボス。

アール


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは右にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その1。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

エル


ニコライの側近。
眼鏡でエルとは瓜二つ。
服も支給品の同じスーツなので、見分けは左にある黒子。

ニコライ的にはタキシード模様の猫その2。
黒い毛並みを維持する為の投資は厭わない。

青猫
ニコライの愛猫。
専用の部屋を持つ部下より好待遇なお猫様。
ロシアンブルーだからあまり鳴かない。
そこが気に入られる理由。
専属獣医も居る謎待遇のお猫様。

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