試練の塔というもの

文字数 1,058文字

「トーラの冒険者ギルドマスターに勇者の名を使い、申し訳ないのですがお話をお聞きしました」

「えっと、それで……」

 マルクエンは緊張しながら尋ねた。

「大体の事はわかりましたが、お二人からも直接お話を伺いたい」

 ちらりとラミッタを見るマルクエン。彼女は軽く頷く。

「それでは、私達が……。この世界に来た経緯(いきさつ)をお話します」

 マルクエンとラミッタは語る。元の世界で敵対していたこと。相打ちのような形になり死んだこと。

 目が覚めたらこの世界に来ていたこと。魔人と戦ったこと。

「なるほど、事情は分かりました」

 荒唐無稽(こうとうむけい)な話であったが、マスカルは疑うこと無く全てを信じた。

「一つ質問をさせて頂いて良いでしょうか? こちらの世界で、何か元の世界では無かった能力に目覚めた。なんて事はありませんでしたか?」

 ふむ、とマルクエンとラミッタは考え、一つ心当たりがある事を思い出す。

「確か……。魔人と戦った時に、体が青く光り、物凄い力が湧いてきた時がありました」

 マルクエンは水の神様の祠で起きた戦闘の事を話した。

「やはり。お二人は異世界からの勇者である可能性が高い」

「勇者ですか!? 私が?」

 マルクエンは驚きの声を上げる。

「えぇ、そこでお二人には、とあるお願いがあります」

「何でしょうか?」

 ラミッタは面倒事が始まる予感を感じながら返事をした。

「ここから数日歩いた場所に、試練の塔と呼ばれる。選ばれし者のみが入れる聖域があります」

「試練の塔……?」

 頭が追いつかないマルクエンはその単語だけを呟く。

「はい、選ばれし者がそこで試練を乗り越えると、人ならざる力が手に入ります」

「本当ですか!?」

「えぇ、私は残念ながら試練の塔へ入ることが出来ませんでしたが、歴代の勇者の中には、導かれし者も多く居たと聞きます」

 とても信じられないような話だが、信じるしかなさそうだ。

「お二人ならきっと試練の塔へ入れるはず。そこで力を付け、私とともに魔王と戦って頂きたいのです」

 マルクエンとラミッタは顔を見合わせ、頷く。

「わかりました」

 ラミッタに言われると、マスカルは顔を明るくし、笑顔を作った。

「良かった。本当に良かった。ありがとうございます」

 マスカルは立ち上がり、最後に言葉を残す。

「出発は明日の7時に。冒険者ギルド前にてお待ちしております」

 部屋を出ていく勇者パーティー。ラミッタは紅茶を飲み干して立ち上がる。

「さーて、お話も終わったことだし、特訓に戻るわよ」

 話を聞いていて、なにか言いたげなシヘンとケイを遮って言うと。スタスタと出口まで歩いていく。
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