見惚れ

文字数 980文字

「そうね、気を失ったらトーラの村にある森に居たわ」

「私と同じだな」

「そこで、仕方がないから動物と魔物を狩りながら生活していたんだけど」

(たくま)しいな!?」

「騎士のお坊っちゃまとは違うのよ」

 ふふふとラミッタは笑う。

「それで、偶然森に来ていた冒険者に見つかってね。色々と話を聞いて、それで、状況と照らし合わせてここが別世界だって思ったわ」

「私も、シヘンさんと出会ったのがきっかけだったな」

「冒険者ギルドまで付いて行って、ギルドマスターと話をしたら、異世界からの勇者だの魔王のおとぎ話だの聞かされたって訳」

「そうだったのか……」

 マルクエンはそう一言だけ言った。

「まぁ、最初は魔王退治なんて興味無かったし、アンタが来て驚いたけどもね」

「そうだな、私もラミッタが居て驚いたよ」

 ふと、気になった事をマルクエンは質問してみることにする。

「ラミッタは、魔王討伐に乗り気じゃないのか?」

「この世界の生活にも慣れたしね。悪い世界じゃないわ。ただ、もう魔人も襲ってきているし、魔王も見逃すわけ無いでしょ? だから選択肢は残されちゃいないわよ」

「そうか……」

 吹雪の音が段々と薄まってきた。

「収まったか? 外を見てくる」

「宿敵!! その、気を付けてよね……」

 マルクエンは、ただ外を見るだけだったが、毛布で半分顔を隠したラミッタが言う。

「あぁ、心配するな!!」

 扉を開けると、(まばゆ)い光が差し込んだ。目を細めるマルクエンは眼前に広がる光景に驚愕した。

「な、なんだこれは!?」

「ど、どうしたのよ宿敵!?」

 慌ててラミッタが立ち上がり、扉の先の光景を見る。

 二人共その景色に言葉を失った。

 先程までの一面の銀世界は見る影も無く、一面の緑と花が咲き渡る大地が広がっていた。

「綺麗……」

 思わず呟くラミッタ。

「あぁ……」

 ラミッタの顔を見ると、目を輝かせて外を眺めていた。

 その瞳は、一人の純粋な少女の様で、思わずじっと見つめてしまうマルクエン。

「って、見惚れている場合じゃないわ!!」

「い、いや、見惚れてなんか」

「いきなりこんな事になるなんて、やっぱりこの塔は只者(ただもの)じゃないわ!!」

「あっ、そっ、そうだな」

 景色の事かとマルクエンは安堵した。

「ともかく、次に変な事が起こる前に、今のうちに上の階へ行く方法を探すわよ」

「わかった!!」

 動揺を悟られぬようにマルクエンは防具を身に着け、準備をする。
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