夜刀神が刀は煙る雨を斬るか【第七話】
文字数 1,142文字
☆
「獣と超人の〈橋〉……つまりは仲介役、にはなれなかったようだね、山茶花」
自室に戻った途端、破魔矢式猫魔は、僕にそう言ってケラケラ笑った。
僕の隣で、ふぐりは泣きじゃくっている。
そして〈魔女〉である珠総長は、
「な。雨は止んだし事件は解決したし、我が輩の金には変換出来なかったじゃろ。世間的にはこの事件は迷宮入りじゃし」
と、ぶっきらぼうに言う。
「酷いですよ、総長! ふぐり、こんなに泣いちゃってるじゃないですか!」
と、僕。
「経験値が足りなかったんじゃ」
と、総長。
「そんなッ! じゃあ、ダメだったっていう経験をふぐりにさせるために、こんなことしたんですか!」
「そうじゃよ」
「酷い!」
僕が怒ると、
「まあ、夜刀神うわばみ姫と面識を持っておいた方がいいんじゃないかなー、と思ってのぉ」
と、総長。
「誰なんです、その夜刀神うわばみ姫って!」
「見た通りの、〈正義の味方〉じゃよ。要するに、我が輩らの邪魔をする、あっちはあっちで〈まつろわぬもの〉を〈調伏〉する者。正義の味方じゃろ?」
「調伏って!」
「無頼者の首を切断したのは妖刀〈蜘蛛切〉じゃ。あんなんで斬られたらひとたまりもないのー」
「刀なんて持っていなかったです!」
「バカには見えないかものー」
「『裸の王様』じゃないんだから! 総長! ちゃんと説明してください!」
「じゃからアレは、政府のエージェントなんじゃよ。でも、政府にも派閥があっての。もちろん〈裏〉の方の政府のことじゃが」
「はぁ」
「夜刀神は『常陸国風土記』に登場する蛇のカミサマじゃ。あやつ、なんと、カミサマなんじゃよー。カミサマさえ利用するんじゃな、〈政府〉の連中は」
僕は話についていけなくなってきた。
泣きじゃくっていたふぐりが大きな声を出す。
「絶対に、許さない、あのうわばみ姫って奴! 許さない! あたしをバカにした! 許さない! なにが夜刀神よ!」
……小鳥遊ふぐりと夜刀神うわばみ姫。
出会うべくして出会った、これが小鳥遊ふぐりと夜刀神うわばみ姫の二人の、初めての出会いだった。
ふぐりの前に、大きな敵が現れたのだ。
正義の味方、という敵が。
異境の神で、政府のエージェントである、という敵に。
そしてそれは、僕の敵にもなるということなのだろうか。
とにもかくにも。
未解決事件は、こうやって迷宮入りになった。
闇に葬られるというかたちで。
でも、知っている者は知っているのだ、真相という奴を。
ふぐり風に言うのならば。
こうやって、ブラックボックスである社会は回る、ということだ。
それでも僕らは、立ち向かうことになる。これからも、〈異境〉の事件に。
〈了〉
「獣と超人の〈橋〉……つまりは仲介役、にはなれなかったようだね、山茶花」
自室に戻った途端、破魔矢式猫魔は、僕にそう言ってケラケラ笑った。
僕の隣で、ふぐりは泣きじゃくっている。
そして〈魔女〉である珠総長は、
「な。雨は止んだし事件は解決したし、我が輩の金には変換出来なかったじゃろ。世間的にはこの事件は迷宮入りじゃし」
と、ぶっきらぼうに言う。
「酷いですよ、総長! ふぐり、こんなに泣いちゃってるじゃないですか!」
と、僕。
「経験値が足りなかったんじゃ」
と、総長。
「そんなッ! じゃあ、ダメだったっていう経験をふぐりにさせるために、こんなことしたんですか!」
「そうじゃよ」
「酷い!」
僕が怒ると、
「まあ、夜刀神うわばみ姫と面識を持っておいた方がいいんじゃないかなー、と思ってのぉ」
と、総長。
「誰なんです、その夜刀神うわばみ姫って!」
「見た通りの、〈正義の味方〉じゃよ。要するに、我が輩らの邪魔をする、あっちはあっちで〈まつろわぬもの〉を〈調伏〉する者。正義の味方じゃろ?」
「調伏って!」
「無頼者の首を切断したのは妖刀〈蜘蛛切〉じゃ。あんなんで斬られたらひとたまりもないのー」
「刀なんて持っていなかったです!」
「バカには見えないかものー」
「『裸の王様』じゃないんだから! 総長! ちゃんと説明してください!」
「じゃからアレは、政府のエージェントなんじゃよ。でも、政府にも派閥があっての。もちろん〈裏〉の方の政府のことじゃが」
「はぁ」
「夜刀神は『常陸国風土記』に登場する蛇のカミサマじゃ。あやつ、なんと、カミサマなんじゃよー。カミサマさえ利用するんじゃな、〈政府〉の連中は」
僕は話についていけなくなってきた。
泣きじゃくっていたふぐりが大きな声を出す。
「絶対に、許さない、あのうわばみ姫って奴! 許さない! あたしをバカにした! 許さない! なにが夜刀神よ!」
……小鳥遊ふぐりと夜刀神うわばみ姫。
出会うべくして出会った、これが小鳥遊ふぐりと夜刀神うわばみ姫の二人の、初めての出会いだった。
ふぐりの前に、大きな敵が現れたのだ。
正義の味方、という敵が。
異境の神で、政府のエージェントである、という敵に。
そしてそれは、僕の敵にもなるということなのだろうか。
とにもかくにも。
未解決事件は、こうやって迷宮入りになった。
闇に葬られるというかたちで。
でも、知っている者は知っているのだ、真相という奴を。
ふぐり風に言うのならば。
こうやって、ブラックボックスである社会は回る、ということだ。
それでも僕らは、立ち向かうことになる。これからも、〈異境〉の事件に。
〈了〉