衆生済土の欠けたる望月【第三話】
文字数 1,212文字
☆
僕は今、常陸の南、『学園都市』の〈大学生〉として、ここ〈三ツ矢学生宿舎〉の一室に住んでいる。
見上げればあるのは筑波山。
目をまっすぐ向ければ、都市がまるごと大きな教育機関と研究機関の集まりである『学園都市』の区画された街並み。
ここは都会だ。
しかし、そこに住む者のほとんどが学識高いという、異形の都市だが。
三ツ矢学生宿舎での僕、萩月山茶花のルームメイトでキーボーディストの湖山 に影響を受けたのか、さっきからベーシスト・蔵人くんは僕の部屋で、奇っ怪なシンセサイザーをいじっている。
うねうねした低音が出ている。
「湖山ぁ、このうねうねした攻撃的なベース音の出る機械はなんなんだ?」
と、僕。
即座に答えるのは、腕組みしながら蔵人くんのプレイする指先を睨んでいる湖山だ。
「山茶花さん。これはTB-303っす」
「んん? TB-303?」
「うねうねなのはワブルベースの音の特徴っす。このベースシンセサイザーから、アシッドハウスってジャンルははじまったっす」
そこに重ねるように、
「最高すよ、このサウンド。山茶花さんもどうすか?」
と言うのは、蔵人くん。
この二人の語尾が「っす」ってなってるのは、ちょっと古い若者っぽくて、好感が持てる。
それでいてこの二人、大学では成績優秀なのだから、侮れない。
一体、いつ勉強をしているんだろう?
「やべ、ベースシンセを使う曲を書きたくなった」
「いいじゃん、蔵人。YMO超えようぜ?」
「クラフトワークスだっておれたちなら超えられるかも知れねーな」
笑い合う湖山と蔵人くん。
蔵人くんは腕につけた手錠の鎖をじゃらじゃらさせながら、TB-303というそのベースシンセでベースラインを奏で続ける。
湖山は尖った髪の毛をゆさゆさ揺らしながら、そのうねうねするベースで高揚している。
湖山は、僕に言う。
「この三ツ矢の〈プロップス〉じゃ、ミクスチャーは当然あり得る選択肢なんすよね」
「プロップス?」
「シーンてことっすよ、そのくらい覚えてくださいよ、いい加減。三ツ矢プロップスの、超ドープな最先端をおれたちは走っているんすから。山茶花さんは、その現場にいるんすよ? もうちょっと胸張ってたっていいくらい、それは名誉なことなんすからね」
湖山に怒られる僕。
ごめんごめんと言っていると、湖山もKORGのアナログシンセでベースに合わせて〈ウワモノ〉を乗せる。
ごっついサウンドで奏でるアルペジオだ。
暴力的とも思える即興演奏の始まりだ。
僕はその音に耳を澄まし、ペットボトルのコーラを飲む。
掛け時計を見ると、もう午後十時をまわっている。
音楽オーケイの宿舎なのがこの三ツ矢学生宿舎のウリだが、まあ、騒音をこの時間にまき散らしているのを横目で見て、若干気が引けるし。
「コンビニに行ってくるよ」
と、聞こえないだろうけど言ってみて、僕はドアノブをまわす。
さて、学園都市で深夜徘徊とでも洒落込みますか、ってな。
僕は今、常陸の南、『学園都市』の〈大学生〉として、ここ〈三ツ矢学生宿舎〉の一室に住んでいる。
見上げればあるのは筑波山。
目をまっすぐ向ければ、都市がまるごと大きな教育機関と研究機関の集まりである『学園都市』の区画された街並み。
ここは都会だ。
しかし、そこに住む者のほとんどが学識高いという、異形の都市だが。
三ツ矢学生宿舎での僕、萩月山茶花のルームメイトでキーボーディストの
うねうねした低音が出ている。
「湖山ぁ、このうねうねした攻撃的なベース音の出る機械はなんなんだ?」
と、僕。
即座に答えるのは、腕組みしながら蔵人くんのプレイする指先を睨んでいる湖山だ。
「山茶花さん。これはTB-303っす」
「んん? TB-303?」
「うねうねなのはワブルベースの音の特徴っす。このベースシンセサイザーから、アシッドハウスってジャンルははじまったっす」
そこに重ねるように、
「最高すよ、このサウンド。山茶花さんもどうすか?」
と言うのは、蔵人くん。
この二人の語尾が「っす」ってなってるのは、ちょっと古い若者っぽくて、好感が持てる。
それでいてこの二人、大学では成績優秀なのだから、侮れない。
一体、いつ勉強をしているんだろう?
「やべ、ベースシンセを使う曲を書きたくなった」
「いいじゃん、蔵人。YMO超えようぜ?」
「クラフトワークスだっておれたちなら超えられるかも知れねーな」
笑い合う湖山と蔵人くん。
蔵人くんは腕につけた手錠の鎖をじゃらじゃらさせながら、TB-303というそのベースシンセでベースラインを奏で続ける。
湖山は尖った髪の毛をゆさゆさ揺らしながら、そのうねうねするベースで高揚している。
湖山は、僕に言う。
「この三ツ矢の〈プロップス〉じゃ、ミクスチャーは当然あり得る選択肢なんすよね」
「プロップス?」
「シーンてことっすよ、そのくらい覚えてくださいよ、いい加減。三ツ矢プロップスの、超ドープな最先端をおれたちは走っているんすから。山茶花さんは、その現場にいるんすよ? もうちょっと胸張ってたっていいくらい、それは名誉なことなんすからね」
湖山に怒られる僕。
ごめんごめんと言っていると、湖山もKORGのアナログシンセでベースに合わせて〈ウワモノ〉を乗せる。
ごっついサウンドで奏でるアルペジオだ。
暴力的とも思える即興演奏の始まりだ。
僕はその音に耳を澄まし、ペットボトルのコーラを飲む。
掛け時計を見ると、もう午後十時をまわっている。
音楽オーケイの宿舎なのがこの三ツ矢学生宿舎のウリだが、まあ、騒音をこの時間にまき散らしているのを横目で見て、若干気が引けるし。
「コンビニに行ってくるよ」
と、聞こえないだろうけど言ってみて、僕はドアノブをまわす。
さて、学園都市で深夜徘徊とでも洒落込みますか、ってな。