衆生済土の欠けたる望月【第十九話】

文字数 1,101文字





 祇園祭の日がやってきた。
 元・花街から八坂神社まで、ずらりとテキ屋が並ぶ。
 不適切かもしれないが、一応書いておくと。
 よくテキ屋はやくざ屋さんだといわれるけど、一般的に言われる、いわゆるやくざ屋さんとテキ屋が呼ばれるやくざ屋さんは、組織の種類としてはまた別であるらしい。
 組織的に、重複しているひともいるだろうけども。
 警察屋さんや役所屋さんたちに訊いても口を濁すだろうけど、そうであるらしい。
 政治屋さんと仲が良ければ、詳しく聞けるかもしれない。
 僕はそのすべてと仲が良いとは言えないので、本当はなんとも言えない立場なのだが。
 それはともかく。
 祭りは無事、始まった。
 野外ステージでは、学園都市の吹奏楽団が演奏を始めていた。
 舞鶴めるとと珠総長は法術やESP能力でビシバシとエージェントたちを倒し、学園都市の外からの介入は防がれているらしい。
 珠総長が本気を出したら、たまったもんじゃない、と思い知らされる。
 亡国の危機。
 この機に便乗したい奴らを蹴散らすなんて、そうそう出来ることではない。

 今、僕の隣でテキ屋の屋台から買った烏賊焼きをハフハフと頬張りながら、探偵・破魔矢式猫魔は言う。
「〈魔女〉のプレコグ能力で敵の出現位置を予測して、そこに舞鶴めるとの法術で、敵が現れるタイミングでジャストに狙い撃ちさ。そもそも大規模術式でそこら中にトラップも仕掛けてあるし。おれもトラップ仕掛けるのに駆り出されて、大変だったぜ」
「総長のことを魔女だなんて言わない方がいいよ、猫魔」
「だが、ありゃぁ魔女の所業だぜ」
「…………」
「再び、説明しておこう。MC西口門の声明の術式とくるるのDJ及びふぐりの歌が、〈玉〉を〈封じ込める〉。『鎮魂』ってわけだ。これによって、祇園祭は滞りなく終了し、ミッションは成功となる。順番としては、『ソーダフロート・スティーロ』がプレイして、そのあとに『ザ・ルーツ・ルーツ』がプレイすることになってる。トリのバンドは音楽業界での大物らしいが、祇園祭の本来の役目と、今回の牛頭天王と〈玉〉の鎮魂としては、〈お飾り〉ってのが、本当のところだ」
「でも、宵宮は終わっているんだろ?」
 と、僕。
「ああ。総長たちのおかげで、ね。今日は祭りの日。ヨミヤの次の日、ハレの日だ。神霊の顕現したことを示す儀礼として、華やかなんだ。最後にハレを終わらせて、祝祭空間は終了となり、ミッションが達成される」
「僕はそこらへん、わからないんだけどさ、もう一度、説明してくれないかな、猫魔」
「と、言ってるうちにソーダフロート・スティーロの出番のようだぜ。ちょっと冷やかしておこうぜ」
「ったく、猫魔、お前って奴は」



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登場人物紹介

破魔矢式猫魔(はまやしきびょうま):探偵

小鳥遊ふぐり(たかなしふぐり):探偵見習い

萩月山茶花(はぎつきさざんか):語り手

百瀬珠(ももせたま):百瀬探偵結社の総長

枢木くるる(くるるぎくるる):百瀬探偵結社の事務員

舞鶴めると(まいつるめると):天狗少女。法術使い。

更科美弥子(さらしなみやこ):萩月山茶花の隣人。不良なお姉さん。

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